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第五十四話:仲良いんだよ、ね?

 アルファが、お茶とお菓子を持って席に着いたところで、カナイが二人に「どうだったんだ?」と話を振った。エミルはその問い掛けに頷いて、一口紅茶を飲んでから穏やかに答える。


「うん。こってり絞られたよ。僕、あんなに怒られたの初めてだよ。それでもブラックに脅されて仕方なく……で通したからあとはないと思うよ」


 エミルの口から出た名前に「え?」と驚いた。そんな私にカナイが説明してくれる。


「お前を呼び戻すのにちょっと無断で聖域に入って、ちょーっと大樹を傷付けたからな。説教くらいのお咎めで済んだのは、やっぱり謝罪に行ったのがエミルで、首謀者がブラックだったからだろうな」


 因みに自分を首謀者に据えて置くようにいったのは本人だぞ? と、付け加える。確かにブラックは治外法権的なところがあるから都合が良かったのだろうけど。


「で、でも大樹を傷付けたのは私」

「真上に落ちてくるのは誰も想定してなかったからマシロのせいじゃないよ」


 萎縮してしまう私にエミルが気にすることない。と、微笑んでくれるけど、ブラックのせいにはしたんだよね? やっぱりなんとなく責任を感じてしまう私を無視してアルファが口を開く。


「マリル教会も騒いでたよ? 聖女が光臨されたって賑わってた」


 話が見えなくて、きょとんとしていた私に三人の視線が集まって、品定めをするように、じっくりと見つめてくる。

 居心地が悪くて、もじもじしたら、まずカナイとアルファが噴出した。


「聖女って柄じゃないよな」

「ないない」

「そんな風にいうのはマシロに失礼だよ。カナイ、それからアルファも」


 話が全く見えない時点で三人とも失礼だよ。益々眉を寄せた。

 そんな私の心境を察したのかエミルが、ごめんね、と二人の変わりに謝罪をしアルファが話を続けてくれた。


「あのね、月の力を集めるために、ほんの少し、大掛かりなことしちゃったから世界中の人の目に白い月から欠片が落ちたように見えたんですよ。だからマリル教会、蒼月信仰と同じように白い月を信仰している教会なんだけど、聖女を探せって躍起になってて」

「……つまり、私が探し人で白い月の少女だと? その少女イコール聖女なわけね」


 そうそうと頷くアルファに私は短く嘆息した。


「まあ、暫らくしたら落ち着くと思うから、それまでは外出しない方が良いよ。マシロは目立つから」


 にっこり穏やかにそういったエミルに私は首を傾げる。

 私、何か外見的にここの人と違うところがあるのだろうか? 外に出ただけで私が異界人だって分かる何かが? そう思い首を傾げたのに気がついたのか、カナイが付け加えてくれる。


「見るものが見れば分かるんだ。お前の素養は偏りすぎていると思うし珍しい色をしているからな」

「色?」

「瞳だよ。マシロの瞳、黒くて凄く綺麗だよね。この世界で黒い瞳は少ないんだ。ゼロではないけど、今はブラックくらいじゃないかな? 彼のは別に綺麗だなんて思わないけど」

「でも前は誰もそんなこと……」

「状況が違ったからな? 今は月から欠片が流れてしまったから、唯珍しいってだけでは片付けてくれないだろうな。マリル教会の奴らに掴ったら、多分、聖女として祀り上げられると思うし……蒼月教徒とは仲が悪いからな。一悶着あるかもな。まあ、その辺はブラックが何とかするだろ?」


 だから落ち着かない様子だったし直接図書館に来たのか。

 みんなも相変わらずそうだけどブラックも当事者の私への説明がとても少なすぎる。


「これからどうするか、決めておけっていわれたんだけど……」


 今更そんなことを追求したって彼らは口を揃えて私のためだ。と、いうに決まっているからもう良い。だからその辺の細かいことはみんなに任せるとしても、身の振り方は大切だ。

 そう思って話を振った私に、アルファが「考えるまでもないですよね?」とエミルとカナイに同意を求めているようだ。エミルは「そうだね」と頷いたけどカナイはちらりと私を見た。


 ―― ……何がいいたいんだろう?


「図書館に戻れるように、ラウ博士に上に掛け合ってもらえるように頼んであげるよ。もちろん同じように僕がマシロの面倒は見るし」


 それで良いよね? とエミルに笑顔で重ねられる。もちろん私としては願ったり叶ったりだけど……。


「カナイは不服そう」

「あ? いや、俺は別にそれで問題ないけどな……その、良いのか? ブラックと一緒に住まなくて」

「良いんですよ! マシロちゃんは僕らと一緒に居た方が絶対楽しいです!」


 カナイの返答に慌てて被せてくるアルファの姿が面白い。

 それにしても、カナイはそんなことを気にしていたのか。なんというか……誰に対しても気ぃ使いなのはもう治しようのない性格的な部分だろうな。とこっそり苦笑する。


「ブラックのところは広いし、住むには快適だけど、生活するには場所が物凄く不便だから断ったんだけど」


 私の台詞にアルファは「ですよねー」と、喜びに満ちた顔で頷き、エミルはくすくすと笑っていたがカナイだけが少し涙目で可哀想にとブラックに同情していた。

 別に、好きかどうかと一緒に生活するかどうかは別問題だと思う。


「私に同情的なのはカナイだけなんですね」


 私の手の中からカップが抜き取られ、隣の空いていた椅子に腰掛けたブラックが、ほぅと嘆息する。


「ブラック! それはマシロちゃんの! こっち飲めば良いだろ」


 アルファの声にびくりとしたが、アルファはブラックの手から取り返した私のカップを下げて私とブラックにそれぞれ新しいカップを押し付けた。

 抜刀しなかったのは私的には奇跡的な気がしたけれど、他二人は落ち着いているので、最近はそう不仲というわけではないのかもしれない。


「それじゃあ、マシロのことも決まったし僕はラウ博士に掛け合って上げるよ。マシロも一緒に行こう?」


 私の手を取って立ち上がったエミルに少し戸惑う。

 私のことだから私が一緒に行くのは当然だと思うけど……ブラックに「マシロ」と呼び止められる。止められるだろうなとは思ったけど「何?」とブラックを見ると落ち着いて紅茶を一口飲んでから


「王都に住みたいというのなら、別に図書館でなくても大聖堂でも王宮でも、屋敷を買っても良いんですよ? 無理に彼らに付き合う必要ないんです」


 そういって、私を見るとにっこり。

 ま、まあ、そういわれればそうなんだけど、でも、どうせ王都に居るなら生活し慣れた場所が良いというのも正直な気持ちで……。ぐるぐるとそんなことを考えて答えあぐねていると、エミルが先に「それは、代案としても最悪じゃないかな?」と答えてしまう。


「マリル教会が直ぐに調べをつけて来るよ。星が降った時期と重なるように、女の子が一人入学してきた上に、君の口利きとあったら怪しさ倍増だよね。ここなら、マシロは一年前まで居たわけだから復学したことにしてくれるし、それにそのことが漏洩したりはしないと思う。それが、最良の選択だと思うけど?」


 私を、はさんでいることを忘れているのか、既にブラックの視線はエミルを捉え、エミルの手は私を離していた。

 そして、両サイドで声を荒げることはないものの雰囲気的にいい争いを始めてしまった二人から逃げるように、私は再び、そぉっと腰を降ろし正面に座っていたカナイのほうへ身を乗り出しのんびりお茶を飲んでいたカナイの袖をくぃくぃと引いた。

 カナイは「なんだよ?」と面倒臭そうに顔を寄せてくれる。


「なんか怖いんだけど」


 小声で囁いた私にカナイは苦笑して同じように声を潜める。


「アルファとブラックより、エミルとブラックの方が鬼門だ。傍に居ると体感温度がかなり下がる」


 殺し合いになったりはしないから放っておけ。と締めくくられ私は少し様子を見ることにした。


「別にマリル教会が騒ごうが騒がせておけば良いんです。掛かる火の粉は払いますから」

「そういう実力行使を、マシロは嫌うと思うけど?」

「それでもマシロは私が好きなので構わないんです」

「どうかな? 人の心は変わるものだから……」


 二人ともとても真剣なのに


「ぷっ……ふ、はは、あははっ」


 真剣すぎて、私は我慢出来なくなった。なんとなーく感じていたんだけど、何というか……。

 急に笑い出した私にみんながきょとんとしているのが益々可笑しい。


「仲良いね、みんな」


 一斉に向けられる否定の視線がまた可笑しくて、私は目尻の涙を拭った。


「いや、うん。良いことだと思うよ。うん」


 物凄く否定したいのに、否定する言葉が急に出てこないのだろう。

 昨日からブラックがみんなの名前を呼んでるのにも吃驚したし、エミルたちだって闇猫とか種屋って呼んでたのにブラックって呼んでるし。

 仲良くなってる証拠だよね。

 うんうん! と、一人で納得する。


「さて、仲良しなのは良く分かったんだけど……とりあえず話を最初に戻して、どういう経緯で私はここに来られたの? あんな短期間でまた月が重なったわけじゃないよね? さっきから話が小出しでよく分かんない」


 仲良しには否定的でも私の質問を無視することはない。

 三人は刹那顔を見合わせちらとブラックを見る。


 なるほどー、説明役にブラックが宛がわれていたわけか。そしてそのブラックが説明を放棄してしまったのだから、その肩代わりをするのはブラックの想定通りカナイになるのだろう。カナイは、あー…と唸ってから


「物凄く時間が掛かった。ような気がする。俺は休学までさせられて時空を開く鍵を探させられたし……」


 恨みがましくブラックを見たカナイにブラックは首を傾げる。


「私は貴方を休学なんてさせていませんよ? 仕事熱心な方だなとは思いましたけど」

「は? いや、あんただろ? 勝手に人を休学扱いにして……それで……」


 カナイは自分で言葉を繋ぎつつ、ふと行き当たったのかカナイが説明をしてくれるならと座りなおして優雅にお茶を飲んでいたエミルを見た。エミルはカップから顔を上げると綺麗ににっこり。


「その方が作業効率が良いよね」


 エミルだ。

 黒王子が本人の意思は関係なくカナイを勝手に休学させたんだ。


 辺りの空気が三度くらいは下がった。そんな中何も感じないのは当人とブラックくらいで濡れ衣だったブラックは素直に不貞腐れている。よしよしと頭を撫でると、にゅーっと耳が垂れる。


 やっぱりこれだけは癒される。

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