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第四十六話:お祭りのあとは

 王都は凄い賑わいだった。

 街全体が湧き上がり息づいている。


 あとにしたときと同じように裏口に回ると、三人がぼんやりと待ち呆けていた。

 ただいま! と駆け寄ると、三人は驚いて顔を見合わせたあと、みんながみんなして仕方ないなという顔で「お帰り」と迎えてくれた。


 行われるパレードに後ろ髪引かれたけれど、きっとエミルは見たくないだろうし、そんな余裕もない。私たちはいつも図書館で居るときと同じように、わいわいと話をしながら……出来る限りの裏道を通り王宮へ出た。

 門前にも大道芸人が持ち前の腕を披露していたり、露天が並んでいたりと賑わっている。


「あ、マシロちゃん。綿飴買って来ます。食べますよね」


 ひょい、と、人ごみに飛び込んだアルファを止める暇はない。

 顔を見合わせて、直ぐ追いつくだろう。と、足を進めると驚くほど早く戻ってきた。


「はい、マシロちゃん」

「お前、普通人数分買って来るだろ!」

「嫌ですよー。カナイさん基本的にぶつぶついうじゃないですかー」


 出来立てなのかほんわり温かくふわふわな綿飴を一つ握らせてくれて、アルファの手にも一つ。それに食いついたカナイとアルファはかなり揉めている。

 ここに来てまで食べ物で揉めなくても、と思い、私の分を上げるからと声掛けようとしたら、ひょい、と、横から食べられた。


「マシロのは僕が半分貰うよ。あれはほっといたら良いよ。仲良いんだから」


 ぱくりと一口頬張ったあと、一つまみ千切って口に放り込んだエミルは先に走っていった二人を見送る。

 なんかこの状態で二人きりは、変に意識しちゃうから嫌だったんだけど仕方ない。


「マシロ、もうちょっとこっちに寄って」


 小さく嘆息したところで、ぐぃっと肩を引き寄せられ心臓が跳ねる。

 えっ! と、顔を赤くして見上げると綿飴を持った手ごと、顔の位置まで持ち上げるとエミルは顔を寄せてきた。

 恥ずかしすぎて暴れそうになる私に、しー……と小さく促して小声で話す。


「今日は、一部王城も一般公開されているんだ。だから表から堂々と入れる。でも、僕は顔が知れてるから、こうして誤魔化しておいて貰えると余計な言及を受けなくて済むんだけどな?」


 僕を助けると思って、と、付け加えられると私にノーといえるわけもなく、こくこくと頷いた。

 でも、近すぎる距離に、落ち着かなくて小さくごにょごにょと「もう少しだけ離れて」と、呟くとエミルはくすくすと笑って「ごめんね」と、手を離してくれた。


「本当、マシロって可愛いよね?」


 握られていた手も解放してもらった私は、ぱくりと綿飴を頬張って、のんびりそう口にするエミルに、ぴっと空いた手で人差し指を立てると「あのね、エミル」と物申す。


「私、最初からいおうと思ってたんだけど、そのエミルの美的感覚? ていうの? それちょっとずれてると思うよ。そりゃもー、私は分かりやすい外見のみでいくと並み。カナイがいうほど貧相だとは思いたくはないけどさ、そう思うのが普通じゃないかな?」


 ぶすりとそういって頬を膨らませれば、エミルは楽しそうに笑った。


「カナイは好きな子はいじめたいタイプなんだよ。マシロの容姿を貧相と表現するのは間違ってると思うし、僕は別に特別じゃないと思うけど?」


 そういって伸ばされた手が私の髪を撫でていく。綺麗な指先が耳に触れて、ふわぁっと顔が赤くなるのを隠すこそも出来ず慌てる。


「いや、いえ、いやいやいや……違うよ? うん、違う! 可愛いというのは、ええっと……アリシアみたいな、ってエミル、アリシア知らないんだよね? あの所作一つで花が舞ってるような子。んじゃあ、エリスさんとかさ、彼女なんて完璧じゃない」

「あー、エリスさんね。彼女は、まあ、確かに美人だよね。でも、彼女酒乱なんだよ。下戸なんだけどお酒が大好きで直ぐに泥酔。毎年このシーズンはどこかでとぐろを巻いてるんだ……僕も一度だけ出くわしたことがあるよ」

「へ、へぇ……人は見かけによらないんだねぇ……」

「よらないんだよ」


 苦し紛れにそんなことを話しつつ、私たちは、城門を潜りあっさりと王宮へと入った。

 入ると直ぐにカナイとアルファが合流してくれる。

 アルファの勝利だったのだろう。とても満足気だ。


 この間もちょっと思ったが、あの時は素通りしただけだったし、表門からは入らなかったから今日ほど感じなかったが、流石、王宮というだけあって城門から……城が遠い。

 なんだこれ、徒歩で辿り付かせる気ゼロを感じる。


「折角だから、マシロちゃんの記念に城抜けるルート通ります? そこで馬車が往復してるみたいだけど」


 そんな大っぴらに動いて良いのかと口にするより前に、エミルが「そうだね」と相槌を打つ。


 ん? にこにこにこ……の笑顔が怖いんですけど……。


 そのとき、私はやっと思い出した。

 これはギルドの依頼なんだし依頼主は王宮側なんだから、こそこそする必要なかったんじゃないか!  たとえエミルが言及を受けたとしても、依頼書を見せればすんなり通れたはずだ。あんなにぴったり寄り添うことなかったのに。

 つい、その前に、忍び込むとかいう話の方が私の頭には印象に残っていて……エミルの態度にすっかり騙された。


 何だかエミルに遊ばれた気がする。


 こっちこっちとアルファに手を引かれ、シンデレラが乗っていたんじゃないかと思うような真っ白でキラキラな馬車に乗せられた。

 コレが似合うのは……エミルとアルファくらいだ。

 カナイと私は場違いな気がするし、何か恥ずかしい。同じことを思ったのだろう、カナイと目があって情けなく笑いあった。


 まあ、いっかー……これが最後だし。

 そう思えばこそ、私は全てのことに寛容になっていた。


「マシロちゃん、見て見て。ほらあんなに騎士塔が遠いですよ」


 アルファが腕を伸ばし、窓の外を指差した先を見ると、遥か遠くに塔の影が見える。


 頷いた私にアルファは「あんなでっかい壁で囲むから閉鎖的なんですよね」背後にして来た城壁を恨めしげに睨み付けて続けた。

 そして中腰を上げていたのを、どさり、と、下ろして頭の後ろで手を組むと「あーあ」とワザとらしく嘆息する。無造作に投げ出された足を、カナイが邪魔だと蹴るがアルファが気にする素振りはない。


「聖域も王宮の中にありますし管轄だけどそんなに近くないんですよねぇ」


 その一言で、最後にして、とても長い道のりを歩くんだろうな? という予想も出来た。



 ***

 


 ―― ……コツコツコツ


「すごーい、全面大理石だ。ちょー豪華」

「豪華じゃない王城なんてないだろ?」


 四体の女神像が彫刻された重厚な扉を開くと別世界だった。

 公開されているのは入って直ぐのホールだけらしいから、ここは人が溢れている。私の語彙少ない感想にカナイは呆れていたが、エミルは久しぶりだなぁ。と、見上げていた。


 別に懐かしそうにも感じない。

 感慨深いというわけではないようだ。


 柱一本をとっても細かな細工が施され見る角度によってその表情を変える。

 品がないとはいわないが多少華美だ。

 

 ふへーっと上ばかり見て歩いていた私の腕を「逸れるなよ」とカナイが引き、こっちこっちとアルファが招く。

 明らかに関係者以外立ち入り禁止だ。

 奥に続く扉の前に立っていた衛兵が手にしていた槍で扉を遮り「一般入場はお控えください」と機械的な声を上げた。


「悪いけど僕は関係者。君、新人だよね? お祭りだから借り出された口だ。今度、僕の演習に参加しなよ。僕の足を止めた罪どのくらい重いかその身体にしっかり教えてあげるから」


 アルファの顔は笑顔だ。

 天使だ。

 でも口から出たのは呪いだ。


 肝を冷やした私にカナイが苦笑してアルファを止めてくれる。


「俺たちはギルドの依頼で聖域領調査に来たんだ。ほら、依頼書もあるし依頼人も確認したら良い」


 ひらりと、衛兵の顔の前へ羊皮紙を突き出したカナイが説明している間に、こっちこっちとアルファは扉を開けて奥にはいった。

 カナイは大丈夫なのか、と振り返るとカナイは説明や交渉ごとに向いてるよね。と、エミルも微笑む。

 

 ―― ……良いんだ、置いてけぼりで……


 置いていかれた本人は待てよ! と、扉のところで怒っているけど、無視らしい。やっぱり今日は全員普通に装いつつも妙にテンションが高い。

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