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第二話:コスプレ好きな美青年?(2)

 猫は不思議そうな顔をしつつも、私の方へ顔を寄せてくれる。一目見た瞬間から気になって仕方がなかった。私は恐る恐る手を伸ばすと、そぉっと触れた。


「ふわふわ」

「耳です。触らないで下さい」

「暖かい。本物だ」

「だから、触らないで下さい」


 私は彼の声を無視して、両手で彼の猫耳を確認した。くにん、くにん、すると軟骨がある。リアルだ。いや、やっぱり本物という解釈があってる?

 引っ張ってみる。

 痛い、と小さく漏らされたが気にしない。もっと酷いことを私はされた。本当に頭にくっついてる。生えてる。血も通ってるようで体温もある。

 ふわふわでやわらかくて、気持ち良い。


 本人も触るなという割りに、じわじわと耳が垂れてきている。

 ほんっとーに猫みたいだ。

 と言うことはもしかしなくても、尻尾も本物なのかな? 私は、ひとしきり耳を堪能したあと、ゆらゆらと彼の後ろで揺れていた尻尾を掴んだ。


 ぴんっと緊張して一瞬硬くなった。


「尻尾だ」


 こちらも短毛だけど、柔らかな毛に包まれていて、芯がこりこりとしている。針金とかそういうのではなさそうだ……きっと、多分。この手触り、感触、本物だ。


「あの、尻尾は勘弁してください。弱いので」

「……猫だ」


 変質者だけど。


「今かなり失礼なこと思いませんでしたか? 私は『種屋』のブラックです。まあ、名など何とでも好きに呼んで下さい」

「猫男」

「ブラックと呼んで下さい」


 好きに呼べといっておきながら、許容範囲もあるらしい。


 私は、近寄らなければ害のなさそうなブラックの笑顔に何となく和んでしまった。きっと、猫耳と尻尾に癒し効果があるに違いない。

 こんなの夢だろうし、どうせ夢なら覚めるくらいまでは楽しんでも良いかもしれない。


「さて、お名前をお聞きしても宜しいですか? レディ」

「月見里真白」

「ヤマナシマシロ」

「今、しましろっていったよね。ま・し・ろ」

「ええっと、マシロですね。分かりました」


 自分の聞き間違いはスルーして、ブラックはにこにこと頷いた。


 それにしても、私一体いつから猫語が理解出来るようになったんだろう? ついさっきまでちんぷんかんぷんだったのに、今は普通に会話が成り立っている。


「種です」

「はい?」

「マシロは先ほど種を飲んだでしょう? あれは言語の種です。因みに、猫語ではなくこの世界共通のシル・メシア語です」


 思い浮かんだ疑問を私は口に出していただろうか? と、首を捻る。その様子にブラックはこともないように「そういう顔をしていました」と微笑む。


 しかしこれは夢だ。


 夢の中なのだからきっと何でもありなのだ……と自分を納得させて、私は一人頷くと話を再開させる。


「私、そのシル・メシアなんて国知らないんだけど、どの辺? 外国だよね? いや、でも外国だからって猫は二足歩行しないし喋らないか……いや、根本的に猫なの? 人間なの?」

「マシロは私に興味津々なんですね。なんだか恥ずかしいです」


 ほんのり頬染めて恥ずかしいって、あんたの格好の方がよっぽど恥ずかしいと思うけど、何というか緊張感に欠ける人物だと思う。


 あれ、でもさっきブラックはこの世界共通といったような気がする。


 もしかして、世界が違うのか。何だか規模の大きな夢だ。


「マシロは落ちてきました。昼寝中の私の頭上に」


 もしかして根に持っているのだろうか。


「……すみませんでした」

「いえいえ、構いませんよ。こんな落し物を拾うことになるとは思いませんでしたから。さて、今マシロの問題は、どこから落ちてきたのかという事ですか? それとも、ここがどこかという事でしょうか? もしくは、私のことでしょうか?」


 最後なら嬉しいです。と、微笑んだブラックを無視して私は少し唸った。


 これは夢なのだから、私が異世界人でも何でもありだろう。だとしたら折角だし、この夢世界のことを教えてもらえると良いかな?


「んじゃあ、ここがどこでどんな世界なのかってのを教えて」

「普通ですね?」


 ほんの少し不満そうにブラックはそういったが、直ぐに元の調子に戻る。そして、どこからか取り出したのか、手にした杖をくるりと回して机へ戻ると、こつりとその上を杖で叩いた。

 すると、綺麗に片付いていた机上に大きな紙? 羊皮紙というものかもしれない――見慣れない質感のものだ――が広げられていてブラックは「こちらへ」と声を掛ける。


 私は素直にその声に従って机の傍へ足を進めた。


「さっきの水といい、ステッキといい、この……地図? といい、どこから出してるの? 夢だから突っ込まないけど、魔法使い設定とか?」

「魔法使い? 違いますよ。私は『種屋』です。魔術師でも、騎士でも、薬師でもありません。あー、いえ、でも正確には少し違いますが、この際それは良いでしょう。私のことなどマシロは然して興味もないようですし」


 拗ねたのかな? でも魔術師や騎士が存在する世界なんだ。


 私にしては凄くファンタジーな夢だな。

 やれやれ、と私が嘆息するとブラックは「椅子も勧めず、すみません」といって優雅に手を振った。

 その所作に合わせるように私の傍にアンティーク調の可愛らしい椅子がぽんっと姿を現した。


 これを魔法と言わずに、何と説明するんだろう?


 私は促されるままそこに腰を下ろし地図を覗き込んだ。地図の様子も私たちの世界のそれとは異なる。

 RPGとかで使われていそうな物だ。

 物珍しそうに見入っていた私の隣にブラックはそっと立つと持っていた杖で、こつっと地図の東側を示した。辺境の町と書かれている。


「ここが、今私たちの居るところです。このまま南下していくと都があります。この世界で一番大きくそして栄えている場所です」


 つつーっと紙の上を下っていくブラックの杖の先を見詰めると、ひときわ大きく描かれている街に辿り着いた。


 『王都』と記載されている。


 その王都の中では三つの建物が大きく描かれていて、一つは『王宮』もう一つは『大聖堂』最後は……『図書館』だ。

 王宮や大聖堂は分かるけど、それとほぼ同格に扱われている図書館ってどんなところだ。


「世のものは皆、素養を持って生まれています。七歳の時、それらを啓示され例外を覗いては、各学園に属することになります」


 私が気にしていた建物三つを順番に、こつ、こつ、と、叩きながらブラックは話を続けてくれる。


「まずは王宮。こちらは騎士のような武の素養を持つものが就学します。大聖堂は術師のように術への素養を持つものが就学し、最後の図書館は薬師や土師、智の素養を持つものが就学することになっています」


 ここまで分かりますか? と顔を覗き込まれて、私は反射的にブラックから離れるとこくこくと頷いた。

 そんな私にブラックはにっこりと笑みを深めると「マシロの素養も、見出さなくてはいけませんね」と付け加えた。


「いや、別に私は夢から覚めれば良いだけだから」


 夢の中でまで学校に通う必要はないよう気がする。


 ブラックは、私の言葉を反復するように「夢……?」と呟いて、何事か納得したのか、なるほど。と、頷いた。そしてもう一度、杖を机の上で振ると地図の上に、だらだらーっと、細長い羊皮紙が広げられた。


「もし、マシロが夢だと思うのでしたら、それも構わないと思います。ですが、きっと長い夢を見ることになると思いますよ。その間、貴方はこの世界に属するわけですから、やはりこちらのルールに従ったほうが得策。夢は楽しまなくては」


 妖しく微笑んだブラックに私は、眉を寄せたがさっきからこれだけ夢の中で大騒ぎしているというのに一向に覚める気配はない。確かにブラックのいうように長くなるのかもしれない。


 私は小さく嘆息して「そうかも」と頷いた。


「納得していただいたところで、どちらの種を用意致しましょう?」

「種?」

「はい、私は種屋ですから、マシロのご要望通りの種をご用意致します」

「種ってさっき飲まされたやつだけじゃないの?」

「違いますよ。種はその素養の数だけ存在し、掛け合わせ次第で無限の可能性を引き出すことが出来ます。そして、先ほどから貴方の素養も探らせていただいているのですが、さっぱり見えません。お名前の通り白紙なのでしょう。名は体を現すとも申しますし。ですから種の馴染みも良いでしょう」


 とつとつと語ってくれるブラックの話に耳を傾けながら……私は膨大な文字を目で追いかけるのに疲れて顔を上げる。

 その先にいたブラックの瞳が、すぅっと細められ口元は半月を描く。目が……離せない……。彼の瞳に映る自分と視線が絡み……私は緊張にごくりと喉を鳴らした……。


「さあ、選んでください、貴方自身がこれから進むべき道筋を……――」


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