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第十九話:少年とパフェ

 ギルド事務所の扉を開くと、カランコロンといつものベルが迎えてくれる。

 そして、二人も相変わらずカウンターからこちらを見つけると、ひょこんっと立ち上がった。


「マシローっいらっしゃーい」

「待ってたんだよ」

「あれー? シルゼハイトも一緒だ珍しい」

「珍しいね」


 順番に口を開くテラとテトに私は歩み寄ったが、シゼはドアの傍から動かなかった。

 まあ、ここに用事があるのは私だけだし、シゼは確実に人見知りっ子だと思う。この二人には付いていけないだろう。


「二人ともシゼのこと知ってるの?」


 もちろんだよっ! と、二人揃って答えていただいた。ウサギ耳が同時にひょこひょこ動いて癒される。


「ギルドといえば、情報屋も兼ねているようなものだよ」

「ここにはいろんな話が流れて来るんだよ」


 なるほどー、と、二人の話に相槌を打ったあと、私を待っていたという理由を聞くと、二通の依頼書を持ち出してきた。

 あんまり大っぴらに出来ないんだけど、という台詞の割りにテトは普通の声量で普通に話している。


 ―― ……どの程度の重要度なんだろう?


「一つは、パーティ関係ないんだけど、きっとエミルが気に入るんじゃないかなー? って依頼」

「もう一つは、この近くの農村なんだけど、そこの麦畑をオーガが荒らすらしいんだ。それを一掃して欲しいらしいよ」


 私は『オーガ』という単語に僅かに強張った。半歩ほど下がってしまうと、こつんっと誰かにぶつかった。謝罪しようと振り返ると、いつの間にか隣に来ていたシゼが依頼書を覗き込んでいる。

 ちらりと戸惑っている私を見て「アルファさん一人で十分だと思いますよ」といってくれるのは、きっと気を遣ってくれたのだろう。大丈夫だよ、と、笑った私にシゼは短く嘆息した。


「でも、どうして二つも」


 私の素朴疑問に答えてくれたのは意外にもシゼだった。


「同時に進行させた方が効率が良いと思いますよ。こちらのご希望の薬を作るには、アモンガレンに生えているアルク草が必要ですし……」

「アモンガレンっていうのは、この農村も含めた辺りをいうんだよ」

「アルク草は枯れたら意味がないからね」

「……お二人とも詳しいですね?」


 きっと知らなくて当然的な内容なのだろう。

 シゼが訝しげに二人を見たが、テラとテトはご機嫌に頷いて楽しさ百倍だ。そして私は知っていないといけなかったのだろう、ちらとこちらも見たシゼが、はあと溜息を吐く。


 ごめんねー、本当に!


「もっちろんさっ!」

「登録者をルール違反者にするわけにはいかないからね!」

「でも僕らが分かるのは材料だけ」

「分量とか調剤法とかは君たちの専門だろ?」


 本当に綺麗に台詞分けして口を開く、双子マジックにいつもながら感心する。

 二人の言葉にシゼは「なるほど」と、頷いていた。何か納得するところがあったのだろう。


「だから、ギルド管理者は代々獣族なんですね」

「そうだよー」

「そうそう」

「僕らは優秀だからー」


 是非ともそこのところ詳しく聞きたいところだが、今は飲み込んだ。


 あとでゆっくり聞こう。

 馬鹿にされそうだけど私は異界人なんだ。

 仕方ない。


「それじゃ、この二件相談してみるけど地図とかは?」


 私の質問に、テラとテトはにっこにこと微笑んで「駄目でーす」「ダメダメでーす」と重ねた。

 何が駄目なんだ。

 眉を寄せた私に、テラとテトは声を揃えた。


「カナイからマシロには地図を渡しては駄目だとキツく止められてまーす」

「ああ、そう……」


 前科があるのでそれ以上は食い下がれない。

 私は二通の依頼書をもってギルド事務所をあとにした。


 これで用事は終わり、早く図書館に帰ろうとするシゼを引き止めて、私はあらかじめ見つけていたカフェに入る。


 オープンテラスが素敵で、中央公園にも面していて、とても快適そうだと仕事関係で寄ったときに思っていたのだ。

 でも、一人で……というのは、時間も、お金も、勿体無いような気がした。

 ここに来て私はえらく貧乏性になったものだ。

 何故、こんなところに連れ込まれるのか分からない。という風に、不満顔がなくならないシゼを無視して、私は特等席にシゼを座らせた。

 オープンテラスだけど、傍にある背の高い木がちょうど良い木陰を作り出してくれていて、凄く気持ちが良いと思う。


「マシロさん」

「んー? 何? お礼だよお礼。好きなの選んで良いよ。もちろん、私のおごりだから。ええっとー、私はジェラートにしようかなぁ。パフェも美味しいらしいよー、ワッフルも美味しそう」


 私はメニューから顔を上げなかったが、シゼが呆れたような顔をしていることは分かった。小さく嘆息したあと深く椅子に腰掛けなおす。

 怒って帰るようなことはしないようで、正直ほっとした。


 ***


 パフェが可愛い、凄い似合う。


 私が勝手に注文したパフェにかなり不満だったようだが、目の前に置かれたパフェを物珍しそうに眺める姿は子どもらしい。

 私はちょっとだけお姉さんなので、一応ジェラートで我慢した。

 本当はパフェも捨てがたかった。


 スプーンに掬って一口。


 口の中でひんやりと溶けて、不思議なフルーツの甘さと酸味が広がる。

 食べてるメニューは基本的に変わらないが、時折、こちらは材料が見たこともないようなものであることがある。


 これもその一つだろう。不味くはない。


「それで、僕に何か聞きたいことがあるんですか?」


 どこから食べるのか迷っていたのだろうシゼは、取り合えず刺さっていたクラッカーを引き抜きつつ聞いてきた。


 ―― ……流石天才児。鋭いな。


「ここのこと色々教えてもらおうと思って」

「ここのこと? 都のことですか?」

「それもあるけどシル・メシアのこととか、私を王家の手先とかいったこととか、さっきも話に出てた獣族がどうとか」


 私の質問は、シゼの時間を止めてしまった。澄ました表情が崩れてきょとんと目を丸くしている。


 何かいけないことを口にしただろうか?


「えっと、ですね。王家の話は聞かなかったことにして下さい。僕からお話できるような内容は特にありませんから……それから、獣族は先ほどのギルド管理者や種屋の主人のような方たちをいいます。一目瞭然だと思います」


 虚を衝かれつつも説明してくれるシゼに、私はうんうんと頷いた。


「獣族の方たちは、僕らのような人よりも優秀だといわれています。その理由としては素養の偏りが少ないことです。彼らは僕らとは違い、素養がある一定値で均等になっていることが多いんです。だから世に精通していて特殊な職業に就くことが多いんです。その一定値が、一番高いランクにあるのが種屋の主人です。皆は闇猫と呼んでいますね」


 こくこくと頷いた私に、シゼは少し迷ったようだがほんの少し声のトーンを落とすと、パフェをちょっと避けて私の方へ顔を近づけた。

 内緒話をするように私も少し身を乗り出す。


「貴方、異世界の方なんですか?」

「そうだよ」


 エミルたちはあまり広めない方が良いと判断しているので、特に私も、吹聴して回るようなことはしない。でも、私にとっては内緒でも、なんでもなかったことだけど、シゼには衝撃的だったらしい。


 弾かれるように後ろに身を引いて、危うくグラスをひっくり返すところだった。


 大丈夫? と、問い返すと、顔を真っ赤にして「平気です」と、椅子に座りなおす。やっぱり普通の男の子だと思う。


「それからさ、そのブラックの話だけど。あー、ええっと、シゼはどう思ってるの?」

「へ……あ、ああ。僕は別に、嫌うほどの感情も、崇拝するほどの感情も、持っていませんが」


 良かった。

 シゼは私と同じく中立らしい。


 シゼの表情から、どうやら私が異世界人ということの方が気になるようだけど、私はブラックのことがもう少し聞きたいので話を半ば無理矢理戻した。

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