第五十七話、群れゆく風、還る声
源泉の光が収束し、風の囁きが静かに地を満たす中、奏はひとり、風に包まれて立っていた。だが、ふと、その背後に懐かしい気配を感じて振り返る。
「……リアガン?」
そこに立っていたのは、かつて第一層で出会った狩人。穏やかな笑みとともに、リアガンは軽く手を挙げた。
「よう、風の子。見違えたな。」
「まさか……ここで再会するなんて」
「風が、おまえをここまで導いたんだ。そいつはつまり――」
続けて現れたのは、リウ。第二層で出会い、幻と記憶の中で大切なことを気づかせてくれた少年の姿は、あの頃と変わらぬままだ。
「奏。来たね。」
「リウ……!」
奏が駆け寄ろうとすると、ふわりと風が彼らの間を流れ、姿が淡く揺れる。
「これは……残響?」
「そうだね。僕たちはもう現世にはいないけれど、風が君をここまで導いたとき、少しだけ姿を借りて、声を届けてくれたんだ。」
最後に姿を現したのは、シフ。第三層でともに孤独を越えた、あの不思議な異邦の旅人。手にはあいかわらず、壊れかけの杖を持っている。
「ひとりで来たのかと思ったが、風は仲間を連れてくるものだな。」
奏は胸がいっぱいになって、何も言えなかった。ただ、小さくうなずいた。
シフは近づいてきて、奏の額にそっと手を当てた。
「風はよく、育った。」
リウが続ける。
「君は、もう迷わなくなった。自分の言葉で、風と話せるようになったね。」
リアガンがうなずく。
「おまえの旅はここで一区切りかもしれない。でも、風は止まらない。おまえがまた歩き出せば、風はきっとついてくる。」
奏は、三人の姿を順に見た。懐かしさに胸が熱くなる。それでも、今の自分は、彼らと出会った頃の自分とは違うのだと、はっきりわかる。
「ありがとう。……みんなの言葉が、今の僕を作ってくれた。」
風がやさしく吹き抜けた。三人の姿は、少しずつ薄れていく。
「さよならじゃない。また風が吹けば、どこかで会えるさ。」
「うん。また、風の道で。」
三人の姿が風に溶けて消えると、源泉の中心から、ひとつの風の核が現れた。柔らかな光をたたえたそれは、奏の前にふわりと浮かぶ。
風は、受け継がれた。選ばれたのではなく、共に歩み、語り合い、信じられた末に――。
奏は、その光を手に取った。
風は、これからも吹く。どこまでも、遠くまで。




