第五十七話、風の塔より、風の空へ
風の塔の試練をすべて終えた奏は、セレスティナ、アルヴと共に最上階から広がる空を見下ろしていた。塔の上に吹き抜ける風は、以前とは違う。どこかやわらかく、穏やかで、しかし深く力強い。
その風が奏の周囲に渦を巻き、静かに語りかける。
――おまえの声は、もう風と交わっている。
――この空に、おまえの道は続いている。
奏は微笑み、振り返る。ともに試練に望んだ仲間たち――冷静な理の魔法使いセレスティナと、衝動を生きる雷の魔法使いアルヴ。
そして、風の塔の各層で出会った風の民、選定者、霊たちの残響が、背中を押している。
「行こう。まだ見ぬ世界へ。」
塔を後にするその足取りは、もはや試される者のものではない。風の魔法使いとして、自らの声で世界と交わり、歩む者のものだった。
塔の入り口で、彼らを待っていたのは、あの軽薄で底知れぬ流浪人。
「よ、無事で何より。さて、次はどこに行く? 空の果てか、それとも風の底か?」
奏はその問いに、迷いなく答える。
「風が、行けと言う方へ。」
塔の扉が閉じ、風は再び塔を包む。しかしそこに残ったのは、確かな変化の痕跡。




