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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第七章、風の塔

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第五十四話、第九層《風の源泉》――《風のことば》の奥へ

 風がすべての重さと色を失い、透明な光の流れとなって渦巻く場所――《風の源泉》は、物理的な空間の奥にある、意識と精霊のあわいに存在する層だった。


 (そう)が扉をくぐった瞬間、世界は音を失った。ただ、風だけが存在していた。


 足元に大地はなく、上も下もない空間。けれど、(そう)の体は崩れず、風のうねりが支えるように(そう)を包んでいた。


 (そう)は「風の名」を呼ぶ。名乗るのではなく、風のことばで語りかけるように――。


「わたしは、風の名においてここに在る。

 あなたがたの一部でありながら、異なる者として。

 わたしは、名を持つ者。風の願いを受けて、この地に至る」


 沈黙。だが、やがて微かな震えとともに、無数の“声”が応える。風のことば。それはかつての師匠が語った、言葉ではない言葉。意味と意志の純粋な共鳴。


 (そう)はそこに、「風の民の子」の姿を見た。あの七色の瞳の存在が、彼の前に現れる。


「ようやく、ここまで来たのだね」


 かすかな微笑。だがその眼差しは、どこか試すようで、どこか慈しみに満ちていた。


「君は、《風》と向き合う覚悟があるのかい? 知ることは、風を縛ることにもなるよ。名を知る者は、名の力を持つ。ここは《風のことば》が生まれる場所。問おう、君の“ことば”は何だ?」


 (そう)は答えることを急がなかった。思い返す。旅の中で出会った人々、交わした言葉、心を動かされた瞬間たちを。


 リウのまなざし。シフの問い。リアガンの静けさ。セレスティナの論理。アルヴの衝動。


 そして、風とともにあった自分。


「……ことばとは、風のようだと思う。

 誰かの心に触れて、形を変えて、また別の誰かに届く。

 だから、わたしは“伝える風”になりたい。

 争いを避けるのでも、正しさを押しつけるのでもなく。

 ただ、風がそうであるように――届くことを願って、吹く」


 その瞬間、空間が震えた。風が奔流となり、(そう)の身体を通って吹き抜ける。


 彼の背に、淡い光が宿る。風の名が、風そのものが、彼に応えたのだ。


 《風の源泉》は、風の魔法の原初を知る場所。そして、そこに至った者が「風の守り手」として次なる役割を得る場でもあった。


「……おめでとう、(そう)。君は、“風の声”の一つとなった」


 風の民の子が、そう告げる。


 そして、源泉の奥にもう一つの扉が現れる。かつて師匠が通ったという、さらに深き試練へと続く道。


 だが(そう)は、まだ扉をくぐらない。


 彼は仲間たちとともにここに至ったことを思い、振り返る。仲間に語りかけるべき、自らの言葉を――風のことばではなく、人の言葉で紡ごうとしていた。

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