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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第七章、風の塔

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第四十六話、風の名、響くとき

 祭殿の外に出たとき、夜の帳はすっかり下りていた。

 しかし空にはひとすじ、光の道が走っていた。塔の最上層から地上へと、星のようにきらめく風が降り注いでいる。


「……なんだ、あれ」

 思わず見上げた(そう)が言うと、隣のリアガンは肩をすくめた。


「どうやら、君が何か“やらかした”らしいな」

「私が……?」

「風の名前を名乗っただろう?」

「……うん」

「それだよ」


 遠く、塔の中腹に開いた窓のひとつから、白い布をまとった小柄な人影がこちらを見ているのが見えた。

 気づいたその人影は、ふわりと宙を舞うように空中を降りてくる。


「来たね」

 シフが口を開いた。視線は空に舞い降りる者へと向けられている。

 その瞳は、どこか懐かしさと、わずかな緊張を帯びていた。


 舞い降りた人物は、年若く見える女性だった。

 しかしその目は、風と同じく時を超えた深さを湛えている。

 白と青の織り交ざった衣に身を包み、額には銀の飾り。肌は透明感すらあり、風の気配をそのまま身にまとうような存在だった。


「風の名を告げた者、(そう)

 彼女は、はっきりとした声で名を呼ぶ。


 (そう)は一瞬、戸惑った。だが、すぐに返す。

「はい。……(そう)、風を歩む者です」


 その言葉に、彼女はふっと微笑みを浮かべた。


「風の塔は、名を持つ者を迎えます」

「……迎える?」


「あなたの名乗りを風は受け入れた。だから、正式に試練へと招きます。これは、風の塔に選ばれし者としての試練。あなた自身が、その名にふさわしいかを問われる時です」


「……試練、か」

 (そう)は息を吸い、胸に手を当てた。そこに風の脈動がある気がした。


「受けます」

 静かに、しかし迷いなく(そう)は答えた。


 その答えを聞いた風の使者は、もう一度微笑む。


「では明朝、塔の第五層《選定の間》へとお越しください」

「わかりました」


 そのやりとりの間、シフもリアガンも何も言わなかった。

 しかし、風の使者が去ったあと、リアガンが口を開く。


「いよいよ本番ってわけだ」

「ええ」

「これから先の試練……塔の選定は、ただの試験じゃない。塔の意思と風の記憶、その両方に見られることになる」

「……こわいかもしれない。でも、逃げたくはない」


 その言葉に、シフが微笑んだ。


「ようやく、名を持ったんだね、(そう)

「うん」

「では、これからは名を呼ぼう。“風を歩む者”としての君にふさわしい言葉で」


 シフのまなざしは穏やかで、しかしどこか試すようでもあった。

 師としての視線と、かつて“名を持った存在”としての共鳴。


 (そう)は思わず顔を上げ、風の道の向こうにそびえる塔を見つめた。


「風が呼んでる。……だったら、行かなくちゃ」


 夜の風が、(そう)の名をふわりと撫でるように吹き抜けた。

 塔の中で待つのは、風そのものか、それとも“世界の理”の断片か。

 試練は、すぐそこにある。

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