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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第六章、忘れられた契約の庭

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第三十九話、旅立ちの風

 黎明の風が高く吹き抜けた。


 アラウィンの塔群が朝陽に染まり、白銀に輝いてゆくなか、(そう)たちは広場に立っていた。

 数日ぶりに訪れた静けさは、奇妙な清涼感と、少しだけ名残惜しさを含んでいる。


 カイリウス――元記録官の彼は、以前の無表情とは異なる柔らかな面差しで、(そう)たちを見送っていた。


「おまえたちがもたらした変化は、塔の中で静かに響いている。

 すぐには変わらぬが、それでも……名を封じることの意味が、再び問われるだろう」


 風を読む者として、(そう)はこの場所がほんのわずかに、けれど確かに呼吸を始めたことを感じていた。強ばっていた空気に、緩みが生まれている。


「カイリウスさん。あなたの“名”を、今ここに在る者として受け止めてくれて、ありがとう」


 (そう)の言葉に、カイリウスは静かに頷いた。


「名は奪われるものではない。だが、委ね合うことはできる。

 ……この世界が、そういう在り方を取り戻せるよう願っている」


 リウがふわりと浮き上がり、晴れやかに空を旋回した。

 シフも風のように舞い降りると、手を大きく振って叫ぶ。


「次は海の向こう? それとも空の果て?」


「まずは南東の丘陵を越えて、〈風の塔〉へ向かうよ。覚えてるか? あの招待状」


 リアガンが言うと、(そう)は思い出す。

 かつて風に導かれて届いた、あの微かな気配――風の古き遺構が呼んでいた。


「風の塔……今なら、きっと行ける。聞こえる気がするんだ。もっと、深い“ことば”が」


 それは、風の民の子と出会って以来、ずっと追い続けてきた何かだった。


「よし、それじゃあ決まりだな。次の目的地は、名を忘れた塔と、風のことばの眠る場所!」


 リアガンがいつもの調子でそう言うと、(そう)とリウ、シフもそれに続いた。


 名を持ち、名を呼び合いながら、それでも縛られずに在ること。


 ――その旅が今、あらためて始まる。


 塔の白壁に、彼らの姿が淡く映る。足元から吹き上げた風が、リウの髪を揺らし、シフの背を押す。


 「……いってらっしゃい」


 見送るカイリウスの呟きに、誰よりも穏やかな風が寄り添っていた。

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