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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第六章、忘れられた契約の庭

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第三十八話、記録官の名

 試練の間の空気がわずかに揺れ、記録官の青年──黒衣の男が静かに前へ歩み出た。


 「……私は、幼いころ“風の精霊”に名を贈られた」


 その声は、これまでの冷淡な響きとは異なり、どこか遠い記憶をたぐるような静けさをまとっていた。


 「けれどその名は、父によって剥奪された。精霊との自由な契約は“血統の統治”を乱すとされ、私は“無名”に戻された」


 彼の眼差しは、試練の間に集う精霊たちを捉えていた。


 「それから私は、“名とは許可された力でなければならない”と教え込まれた。

 名は支配のための道具だと」


 (そう)はその言葉に、ふと胸の奥が締め付けられるような痛みを覚えた。


 「……だから、あなたは?」


 記録官はわずかに頷いた。


 「この塔で精霊の名を記録し、制御する立場についたのは、自分の過去を受け入れるためでもあった。だが……」


 彼の視線が、名を取り戻し始めた精霊たちに向く。


 「君たちのように“名を贈る者”を見て、心が揺れている自分がいる。

 名とは、そんなにも自由で、優しいものなのかと」


 ヒューラがそっと微笑んだ。


 「名は、枷にもなるけど、翼にもなるよ。どちらになるかは、贈る人と、受け取る人次第なんだ」


 沈黙ののち、青年は一つ深く息をついた。


 「……私の本当の名は、カイリウス。けれど、この名を口に出すのは、今日が初めてだ」


 その名が響いた瞬間、空気がわずかに震えた。

 塔の上層部から、眠っていた風がそっと流れ込む。


 「ようやく……風が、戻ってきた」イリィアが小さく呟いた。


 その風は、名を取り戻す者たちに、祝福のように触れていった。

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