第三十五話、古き友の再来
庭に出た奏の背後から、ひときわ馴染み深い声が届いた。
「……また、面倒なところに首を突っ込んでるね、奏」
聞き覚えのある声に驚いて、振り返る。
奏の目に映ったのは、あの軽薄そうな笑みを浮かべた男──だが、彼の背後には、もう一人の気配があった。
「あ……あなたは……。そういえば、まだ名前を聞いてないですよ?」
拗ねたような奏の言葉に男はおどけたように笑った。
「そうだったっけ。君の師匠は僕を“リウ”と呼んでいたけどね。──本名は“リアガン”」
「リアガン……!」
しれっと流浪人自ら名前を明かされ、奏は驚いて名を繰り返す。
その名を口にした瞬間、背後からふっと風が通り抜けたような感覚があった。
「それに、あなたは……」
リアガンと共に奏の前に現れた白い幻のような人。
今も風をまとって軽やかにそこに立っていた。
「やあ、久しぶりだね。随分、風との絆が深まったようだ」
「こっちは僕の、ずっと昔の友人。こいつが勝手にそう呼ぶもんだから、君も使っていいよ。“リウ”でね」
「……“リウ”」
奏がその名を呼んだ瞬間、今度は風が軽やかに笑ったように舞った。
「そう。僕の名の欠片。今は、それだけでいい」
奏とリアガンたちが再会を果たしていると、木陰から足音が聞こえた。
「……奏、誰と話しているんだい?」
イリィアだった。後ろにはアウラスとヒューラの姿もあった。
「探したよ、奏。……あの記録官は、君たちが“名を縛らない者”であるか、正式に示す場を設けるって」
奏は、イリィアたちに向き直った。
「わかった、行くよ」
アウラスがリアガンと――もう一人現れた人影に目を留めて、目を細めた。
「あなたが、リアガン。そして、あなたは……シフ、なのか」
シフは軽く頭を下げた。
「そう呼ばれることもあるよ。あなたは、奏と共にこの場所に導かれた精霊の伴だね」
「僕はアウラス。……彼と共に、名の意味を問い直すために来た」
ヒューラもふわりと風に舞うように近づき、笑みを浮かべた。
「みんな、名前を持つことで出会ったんだね」
奏は仲間たちの顔を順に見回し、静かに頷いた。
「ここから先、本当の意味で“名”と向き合う時が来る。……みんな、一緒に来てくれるか?」
「当然だよ」
「当たり前でしょ」
「言われなくても」
それぞれの声が重なり合い、風が一陣、彼らを包み込んだ。
──名を巡る物語は、次の扉を開けようとしていた。




