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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第六章、忘れられた契約の庭

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第三十四話、囁かれた異変

 封印の間から出たその夜、(そう)たちは記録の庭に隣接する簡素な石造りの小屋に滞在していた。

 夜風は穏やかで、星々は静かに天を巡っていたが、(そう)の心には一つの違和感が残っていた。


 ──風の流れが、どこか歪んでいる。


 「何か気づいたの?」

 ヒューラがすぐに察して問いかけた。


 「風の巡りが、途切れている場所がある。まるで、誰かが“風の名”を封じているような……」


 その言葉に、アウラスも顔を曇らせた。

 「……アラウィンの中心部には“管理の間”と呼ばれる特別な空間がある。

 そこでは、精霊たちの名が制度として管理されている。おそらく、そこで何かが起きている」


 イリィアが(そう)の袖をそっと引いた。

 「わたし、そこに閉じ込められていた記憶がある。

 とても暗くて、冷たいところ……自分が誰かもわからなくなって、ただ名前だけが薄く残ってた」


 その震える声に、ヒューラが小さく頷いた。

 「その空間が、“名の牢獄”になっているのかもしれない」


 (そう)は静かに拳を握った。

 「行こう。そこに何があるのか確かめたい」


 証人から与えられた地図に導かれ、一行は夜のうちに“管理の間”へ向かう。

 石畳の細い道を抜け、月光を浴びて浮かび上がる白い塔へと近づくにつれ、風の音が徐々に途切れがちになっていった。


 「風が……黙ってる」


 イリィアの呟きが、空気の中に溶けるように消えていく。


 塔の前に立ったそのとき、彼らの前に一人の人物が現れた。

 黒い法衣を纏い、手には金の記録杖を携えた青年だった。


 「これより先は、記録管理官以外、立ち入りを禁ず」


 その声には魔力の気配が乗っていた。名を用いた結界が、塔の周囲を覆っているのが(そう)にもわかった。


 だが(そう)は、ひるまず言った。


 「その中で、精霊の名がどう扱われているか。わたしたちには、それを知る責任がある」


 青年は、(そう)を一瞥した。


 「名を“祝福”として呼ぶ者──か。……ならば、証明してみせよ。名を縛るのではなく、真に解く力があるのかを」


 風がふたたび吹き始めた。


 その風は、問いかけの風。

 次なる試練の幕が、今、上がろうとしていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


少しでもそうの物語に風を感じていただけたなら嬉しいです。


次回は、奏と流浪人が一時的に旅路を共にし、“外の世界”の現実を目の当たりにする場面が描かれる予定です。お楽しみに!


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