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【完結】風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第六章、忘れられた契約の庭

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第三十一話、風が再び吹き抜けるとき

 始まりの樹の根元に吹いた風は、静かに渦を巻きながら(そう)たちの足元へと戻ってきた。


 記憶の余韻はまだ胸に残っている。

 だが、それはもはや痛みではなく、あたたかな光のようなものだった。


 彼らが立つ記録の庭は、今や風の精霊たちの気配に満ちていた。


 周囲を囲む古木の葉が柔らかく揺れ、空は高く澄み渡っている。

 庭の中央には始まりの樹が静かにそびえ、その根元には風の流れを感じさせる細かな文様が浮かんでいた。

 それはまるで、この場所そのものが(そう)たちの変化に呼応して息づいているようだった。


 (そう)はアウラスと顔を見合わせる。どちらからともなく、微かに笑った。


 「行こう」


 そう言ったのは(そう)だった。

 だが、その声には新たな確信があった。精霊の名を“祝福”として呼ぶ魔法使い──そんな未来を思い描く者の声だった。


 再び扉をくぐり抜けた彼らを迎えたのは、記録の庭の守り手である青年──証人だった。


 彼の立つ場所の背景には、褪せた石の記録棚が並び、その一つ一つに光の糸のようなものが走っていた。

 それは名を記録した魔法の痕跡であり、触れることなくしても確かな存在感を放っていた。


 記録棚の背後には、小さな噴水のような水の柱があり、そこから絶えず霧が立ちのぼっていた。

 その霧は、精霊たちの囁きのように薄く空間を包み、過去と現在の境界を曖昧にしていた。


 「……君たちは、名の重さを知った者として戻ってきたんだな」


 青年の目は、どこか安堵しているようでもあり、どこか試すようでもあった。


 「アラウィンは、名を記録することで秩序を守ってきた。

 だが今、その秩序の名のもとに“本来の名”が失われている」


 アウラスが口を開いた。


 「それは……僕たち精霊が、自分の名を忘れてしまったということ?」


 「忘れたのではない。思い出すことを、許されていないのだ」


 その言葉に、ヒューラが強く頷いた。


 「だから僕は、(そう)と共に風を吹かせたい。名を、祝福として呼び戻す風を──」


 証人は少しだけ微笑んだ。


 「ならば、次の扉を開けるといい。そこには、名を取り戻そうとする者たちの足跡が残されている」


 (そう)は深く息を吸い込む。

 胸の奥に、名を授けたときのヒューラの言葉がよみがえった。


 ──名とは、形を与えるだけではない。

 ──共に在るという意志そのものだ。


 「行こう、ヒューラ。アウラスも。一緒に確かめに行こう」


 三人の背に、ふたたび風が吹いた。

 それは過去からの導きではなく、未来への一歩を促す風だった。

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