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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第六章、忘れられた契約の庭

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第三十話、エオリスの記憶

 白い光が、世界を満たしていた。


 風が過去の記憶を運び、(そう)たちの意識はまるで夢のなかに引き込まれるように、別の時代の情景へと落ちていった。


 目の前に広がったのは、今とは異なるアラウィンの姿だった。


 空は高く、風は澄んでいた。魔法使いたちは精霊と並んで歩き、互いを名前で呼び合っていた。

 そこには支配も管理もなく、ただ願いと祈りに基づいた“名”が在った。


 「この風を、おまえと分かち合おう」

 「この名を、私の一部として受け取ってくれるか」


 交わされた言葉は、いずれも祝福だった。


 ──祝福の名。対等の契約。


 そして、その中心にいたのが、「エオリス」と呼ばれた者だった。


 白銀の風をまとい、性別も年齢も定かではないその魔法使いは、人と精霊を繋ぐ“名の架け橋”であり、最初に「名の意味」を魔法体系として定義した存在だった。


 しかし、映し出される光景は次第に翳り始める。


 「名」が“権限”として使われるようになり、

 「契約」が“束縛”へと変わりはじめた。


 記録の管理と整理は、やがて分類と抑制へと姿を変え──

 純粋だった契約の記憶は、書物のなかで歪められていった。


 ヒューラが苦しげに眉をひそめた。


 「……これは、エオリスが最も恐れていた未来だ」


 (そう)は、風のなかで微かに響いた声に耳を傾けた。


 ──わたしの名を、忘れないで。

 ──名とは、互いの存在を結ぶ橋なのだと。


 記憶の最後、エオリスはひとつの言葉を残して姿を消す。


 「風の名を呼ぶ者へ。願わくば、再び祝福として“名”を授けよ」


 光がふっと消えた。


 (そう)は、気づけばまた始まりの樹の前に立っていた。


 アウラスもヒューラも、黙って風の名残を見つめていた。


 「……エオリスは、“名の魔法”を本当の意味で使っていたんだね」


 (そう)の言葉に、ヒューラが静かにうなずく。


 「今のアラウィンに欠けているのは、あの祈りのような想いだ」


 (そう)は胸に手を当てる。


 名を与えるとは、ただの行為ではない。

 相手の存在を、力を、尊厳を認めること。


 「──なら、わたしは名を“祝福”として使いたい」


 その誓いは、始まりの樹に静かに届いた。

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