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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第六章、忘れられた契約の庭

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第二十七話、風の裂け目にて

 朝靄のなか、契約の庭の空気は少し変わっていた。

 風の流れが緩やかに反転し、泉の水面に淡い光の模様が浮かんでいる。


 ヒューラがそれを見つめながら、ぽつりと呟いた。

「……この庭、何かを思い出しはじめてる」


 (そう)が顔を上げた。

「思い出す?」


「うん。昔、この場所はたくさんの“名”と“声”が行き交っていた。

 でも、それを記憶するものが誰もいなくなって、風さえも忘れていた。けれど今……君たちが来たから、少しずつ思い出してる」


 アウラスはそっと泉のほとりに膝をつき、掌を水に浮かべた。

「……僕たちが、目を背けてきたもの。精霊と人の間にあった“契約”の意味」


 その言葉に、泉の中心が揺れ、そこから一筋の風が立ち上がる。

 風は声を持たず、ただ静かに(そう)たちのまわりをめぐる。


「これは……?」


 風の中に、文字のような輝きが走る。だが、それはどの書にもない“名もなき言葉”だった。


 ヒューラが慎重に呟く。

「これは……裂け目。“名”の魔法体系の根底にある、最初の契約の断片」


 (そう)はその言葉に、直感的な不安を覚える。

 風が語ろうとしているものは、アラウィンの魔法体系の矛盾そのものかもしれない。


 そこへ、新たな足音が草を踏みしめる音が響いた。


 現れたのは、一人の青年。


 金褐色の髪を束ね、淡い灰緑の外套を纏った、見知らぬ旅人──その表情には、どこか懐かしい風を感じさせるものがあった。


「やっと見つけた。君たちが“扉”を開けてくれたんだね」


 彼はそう言いながら、契約の庭の中心へと歩み出た。


「君は……?」

 (そう)が警戒を含んだ声をかけると、青年は柔らかく微笑んだ。


「僕はアウラスの“記録されなかった契約”の証人。かつて、この庭で精霊と魔法使いが交わした、最後の契約の末裔」


 その言葉が何を意味するのか、すぐには理解できなかった。

 だが、ヒューラが深く目を伏せるようにして言った。


「……まさか、まだこの世界に残っていたなんて」


 風がざわめく。

 この庭に隠されていた真実が、いま、風の裂け目から流れ出そうとしていた。

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