第二十三話、封じられた名の書庫
忘れられた書物の中に、過去の声が眠っています。
封じられた名に触れることで、奏たちは次なる場所へ進む鍵を手にします。
どうぞ、奏の心の旅路を見守ってください。
翌朝、奏はエイルに導かれ、学舎の地下へと足を踏み入れていた。
そこには、一般の生徒が立ち入ることのない“封じられた名の書庫”があった。
「ここには、制度にそぐわない名の記録や、かつて禁じられた名の魔法の研究が保管されている」
エイルは重々しく言った。
「ここで君に見せたいものがある」
書庫は石造りの古い空間で、壁一面に並ぶ書架には無数の巻物や魔道書が収められていた。
いくつかの棚には、魔力によって封印された本が浮かぶように漂っている。
エイルが手を伸ばしたのは、銀灰色の革表紙に、名の記号が刻まれた一冊の古書だった。
「これは、アラウィン建国以前に使われていた“真名の律”だ」
奏はページを開き、目を見張った。
そこに記されていたのは、名と魔法の本質を問う言葉だった。
「名とは、魂と交わされる誓いであり、他者との絆によって響くもの──」
その思想は、今の名の制度とは大きく異なっていた。
「……この本の内容、なぜ禁じられているんですか?」
「かつてこの思想に基づいて魔法を行使した者たちは、“精霊と等しく在ろうとした”んだ」
エイルはゆっくりと答える。
「だが、それは既存の権力にとって脅威だった。名を統制することで支配していた世界で、対等な契約は“秩序の破壊”と見なされた」
奏は思わず拳を握った。
その時、書庫の奥から風がふっと動いた。
ヒューラとアウラスが、黙って扉のそばに立っていた。
「ヒューラ、アウラス……いつの間に」
「呼ばれた気がしたんだ。君の気持ちが、ここに向かって伸びてた」
ヒューラが微笑み、アウラスが静かにうなずいた。
「その本……僕、見たことがある気がする」
アウラスの言葉に、奏とエイルが目を見開く。
「君の記憶のどこかに、かつてこの書があった……?」
「たぶん……僕が名を失う前、誰かがこれを読んでいた」
その言葉は、名の魔法制度の闇にさらなる深みを与えた。
エイルは深く頷いた。
「君たち三人は、これから名の魔法の“外”に出る必要がある。古代の地──“忘れられた契約の庭”へ」
奏は、その響きを心に刻んだ。
──名を結び、名を呼ぶ意味を、もう一度確かめるために。
風が、書庫の静けさの中で、そっと頁をめくった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでも奏の物語に風を感じていただけたなら嬉しいです。
いよいよ、物語はアラウィンを出て「契約の真実」へと向かいます。
過去と向き合いながら、次の地へ──。お楽しみに!
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