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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第五章、名の国アラウィン

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第二十二話、風の名が問うもの

制度に組み込まれた名。

その枠の外から、問いを投げかける精霊と魔法使いが、風の中で立ち上がります。



どうぞ、そうの心の旅路を見守ってください。 

 アウラスが名を取り戻してから数日、アラウィンの学舎は静けさを取り戻した。


 しかし、(そう)の胸に残る感覚は、以前とは違っていた。


 ──名とは、本当に祝福なのか? それとも制度の道具か?


 アウラスは、魔法学舎の一室に保護されていた。

 正式な精霊としての登録はまだされていないが、(そう)とヒューラの推薦により、一定の自由が認められていた。


 その日、三人は中庭の風の回廊で顔を合わせた。


「ありがとう、(そう)。ヒューラも」


 アウラスはどこかはにかんだように笑った。

 彼の姿は少年のようでありながら、目には年輪を重ねた精霊の深みがあった。


「けれど……どうしてこの国は、僕の名を封じたのかな」


 (そう)はその問いに、すぐには答えられなかった。

 それを代わりに答えたのは、ヒューラだった。


「きっと、この国では“名”が秩序を守るための鍵になってるからだよ。

 でもね、名は心から呼びかけられるものじゃないと、きっと長くは響かない」


 (そう)は頷いた。


「わたしたちは、名を“制度”から解き放って、もう一度“関係”の中に取り戻さなきゃいけないのかもしれない」


 そのとき、ひとりの教師が近づいてきた。

 薄茶のローブに、名を示す徽章が胸元に縫い付けられている。


(そう)くん。話がある」


 教師の名は、エイル。

 学舎でも少数派の“古い系統の魔法”を重視する魔法理論の講師だった。


 エイルは、(そう)とふたりだけになると、静かに口を開いた。


「君が名を与えたヒューラ、そしてアウラス……彼らの存在は、名の魔法制度の根幹を揺るがす可能性がある」


「……どういう意味ですか?」


「名を与える力が、選ばれた者の特権として制度化されたのは、数百年前からだ。

 しかし、君のように“関係性”の中で自然に名を与える者が現れ始めると、制度の意味が問われ始める」


 エイルは、ほんのわずかに微笑んだ。


「君の行動は間違っていない。けれど、理解されないこともある。

 その覚悟を持てるか?──それが、次の扉を開く鍵になる」


 (そう)は黙って、遠くにいるヒューラとアウラスの姿を見た。

 風に揺れる木々の葉が、優しくささやくように、彼の耳元で鳴った。


 ──名は、声の届く距離でこそ、生きるもの。


 そして(そう)は、ゆっくりと頷いた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


少しでもそうの物語に風を感じていただけたなら嬉しいです。


名は、結び目であり、声の届く距離でもある。

“誰に呼ばれるか”が、魔法を形作るのだと改めて感じる章です。お楽しみに!


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