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風の子と魔法の旅路 ~風のことばを探して~  作者: ましろゆきな
第五章、名の国アラウィン
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第十九話、風が運んだ真名

名を呼ぶということは、相手の存在を認めること。

風に真の名が響いたとき、奏の旅はもう一段深みへと進みます。


どうぞ、そうの心の旅路を見守ってください。 

 霧の山を越えたその先に、石造りの高い城壁が立ちはだかっていた。


 ここが、名の魔法によって築かれた魔法王国──アラウィン。


 (そう)はヒューラとともに、ゆっくりと城門へと近づいた。朝霧の残る空気の中、門前の魔法士が目を細めて彼らを見つめる。


「名を持つ者か?」


 門番の問いに、(そう)は一瞬ためらいながらも答えた。


「はい。わたしは(そう)、風の魔法使いです」


 視線がヒューラへと移る。彼の姿は、今や透明な衣を纏った少年のかたちをしていた。


「その者は精霊か?」


「はい。彼は……わたしが名を与えた風の精霊、ヒューラです」


 門番は頷き、記録を確認し始める。


「未登記精霊だな。登録と評価が必要だ。魔法使いと同行者、別々に手続きをとる」


 そうして、(そう)とヒューラは一時的に引き離された。


 ヒューラは不安そうに振り返ったが、(そう)は小さく笑って頷いた。


「大丈夫。きっとまた、すぐに会える」


 そして(そう)は、王都の魔法学舎──新たな学びの地へと案内されていった。


 アラウィンの魔法体系は、すべて“名”を中心に据えて構築されていた。


 名は存在の証であり、力の根源。

 名を知らぬ者には扉は開かれず、名を偽る者は存在を拒まれる。


 (そう)にとって、その概念はあまりに重く、堅苦しかった。


 けれど、ヒューラに名を与えたことで得た感覚が、彼を支えていた。


 ──名は、ただの枷ではない。


 講義のなかで語られる教義の数々。


「名は力である。名とは契約であり、境界であり、呪いにもなり得る」


 教師の言葉に、(そう)の胸がざわつく。


 名は、本当にそんなにも危ういものなのだろうか。


 ある日、寮の小さな部屋で、風がそっと揺れた。


 窓も閉まっているのに、淡い風が頬を撫でる。


 ヒューラだ、とすぐにわかった。


(そう)


 淡い風の光が集まり、かたちをなす。ヒューラの姿は、不安定に揺れていた。


「ここは、重い。あちこちに“名”が詰まってて、呼吸がしづらいよ」


「無理して来たの?」


「ううん。でも……僕、自分の名が何なのか、わからなくなりそうだった」


 (そう)はそっと手を伸ばす。


「君の名は、ヒューラだよ。わたしがそう呼びたくて、そう呼んだんだ」


 ヒューラは目を閉じて、微笑んだ。


「うん。……ありがとう。もう少し、ここでがんばってみる」


 その夜、(そう)は名について改めて考え続けた。


 ──与えるということ。

 ──信じるということ。


 名を与えるとは、相手を“定義する”ことではなく、

 “そうあってほしい”と願うことなのかもしれない。


 そしてその願いを受け取った者が、自分のかたちを選び取っていくことができるなら。


 名は、契約でも枷でもなく、祝福たりえるのだろう。


 風が、静かに寄り添っていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


少しでもそうの物語に風を感じていただけたなら嬉しいです。


次回は、名に呼ばれる精霊と、呼ぶ魔法使い。

その間に生まれる“関係”を描いていきたいです。お楽しみに!


感想やお気に入り登録をいただけると励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。

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