第十二話、火の少女、風の小道で
※前回、風と火がすれ違った奏とリアン。
今回は、少しだけ距離が縮まる……かもしれないお話です。
異なる魔法、異なる価値観、それでも通じる瞬間があると信じたい。
そんな出会いの一幕をお楽しみください。
「あなた、ほんとうに何者なの?」
次にリアンと再会したのは、偶然のようでいて、どこか必然のようでもあった。
町の一角にある広場で、魔法学舎による公開講義が催されていたのだ。
「またお会いしましたね、リアンさん」
奏がそう言うと、リアンは面倒くさそうにため息をついた。
「……名前で呼ばれるの、苦手なのよね。でも、まあいいわ」
講義の内容は、初歩的な魔法制御のデモンストレーション。
集まった見物人たちは、火や水、土の魔法が形を変えて動く様子に歓声を上げていた。
そのとき、講師のひとりがこう言った。
「この中に、魔法を扱える方はいませんか? 一芸披露にご協力いただける方がいれば──」
リアンが無言で、奏の背中を押した。
「……え、わたし?!」
「あなた、なりゆきで手伝ったときの風。ちょっと気になるのよ。どこまでできるか、見せてみて」
(なんで……リアンさん、そんなに挑発的なの?)
奏は戸惑いながらも、広場の中央へと進み出た。
周囲の視線が集まる中、奏は静かに目を閉じた。
(風。きみたちと、わたしと。見てる人たちに……届けよう)
そよ、と風が舞った。
それはただの風ではない。奏の声に応えるように、いくつもの流れが交差し、回転し、ひとつの螺旋を描き始める。
布地が揺れ、髪が舞い、光が風に乗って煌めいた。
やがて風は、ふわりと花の香りを運びながら静かにほどけ、消えていった。
数秒の静寂ののち、拍手が沸き起こった。
「……どういう魔法体系ですか?」
「風との“共鳴”? 精霊系?」
「名前と出身を、教えてもらえますか?」
講師たちが興味深げに近づいてくる。
奏は戸惑いながらも名乗った。
「奏。小さな村の出身です。風と……話ができるんです。きっと、そういう魔法だと思います」
講師のひとり──白髪の穏やかな男が頷いた。
「なるほど……珍しい。形式にとらわれず、心で風を動かす。学舎でも例の少ない系統です。君のような魔法使いには、ぜひ我々の門を叩いてもらいたい」
「え……?」
「魔法学舎では、来月、選抜試験を兼ねた“開門式”が行われます。来てみませんか? 君の魔法と、風の在り方を、我々も知りたい」
それは、まるで物語のようだった。
その日の夕暮れ。広場を離れたところで、リアンが奏を待っていた。
「ねえ、あんた」
「……はい?」
「本当に、“風と話してる”のね」
奏は少し驚いて、頷いた。
リアンは、それを確認するとふっと小さく笑った。
「やっぱり、ちょっと腹立つ」
「……え?」
「努力しても、理屈で詰めても届かなかった“もの”に、あんたは自然と触れてる。
でも……羨ましい、って言う気はない。あんたには、あんたの道があるから」
言い終えると、リアンはくるりと背を向けた。
「学舎で待ってるわよ。風の子」
そして夕日の中へ歩き出していく。
奏は、少しの風を肩に受けながら、その背中を見つめていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
火のように真っ直ぐで厳しいリアンと、風と対話するように魔法を使う奏。
一見まったく噛み合わないふたりですが、少しずつ、重なる瞬間が増えていく予感を感じていただけたなら嬉しいです。
次回は、思いがけない事件から、奏が魔法使いとして一歩踏み出す展開へ。
どうぞお楽しみに!
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