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第9話 冷血公爵の独占欲

 夕刻、広間ではレオンを交えた食事が始まった。レオンは当然のようにリリエッタの隣に座り、矢継ぎ早に話しかける。


「リリエッタ嬢、舞踏会での君の踊りは最高だったって噂だ! 今度、俺が王都の舞踏会に連れてってあげよう! こんなところでアルヴァンの相手をしていても、退屈するだけだろ?」


 彼はウィンクし、リリエッタはくすくす笑う。


「そんな退屈だなんて。私、花を見て外を散歩させて貰えるだけでも幸せです。それに私の踊りなんて……アルヴァン様がすっごく優しくリードしてくれたからなんですよ」


「優しくリード!? あのアルヴァンがッ!?」


 アルヴァンはフォークを握る手に力を込めた。


「レオン、黙って食え」


 彼の声は低く、鋭かった。レオンは笑いながら肩をすくめる。


「おっと、怖い怖い! あぁ、リリエッタ嬢。こいつの不機嫌は今に始まった事じゃない。気にせず笑っていてくれ」


 そう言って彼はリリエッタの髪に触れようと手を伸ばすと、アルヴァンの視線がひと際鋭く光った。


「レオン、触るな」


 アルヴァンの声は静かだが、まるで剣のように鋭かった。どこかのらりくらりとしていたレオンも苦笑いを浮かべながら、軽く手を上げ降参を示す。自称ではあるが、アルヴァンの親友だからこそわかる。これ以上のおいたはいけないと。

 何が起きたのか分からずリリエッタがきょとんとし、「アルヴァン様? どうかしましたか?」とアルヴァンに尋ねる。彼女の無垢な瞳に、アルヴァンは言葉を詰まらせた。


「……何でもない。食事を続けろ」


 レオンはニヤリと笑いながら内心で「おやおや、アルヴァン、嫉妬してる? 珍しいな!」と茶化す。流石にそれを口にすればアルヴァンから目をつけられるので言えないが。

 普段なら口にしなくても態度でレオンが何を考えているか察する事は出来るアルヴァンだが、この時はそんな事を察する事も出来ないくらいに胸のざわめきが収まらなかった。

 リリエッタがレオンに笑顔を向けるたび、彼の心に小さな棘が刺さり胸のざわめきが大きくなっていく。そんな感情に、彼自身が驚いていた。


 その夜、リリエッタはアルヴァンの執務室を訪れた。


「アルヴァン様、レオン様は楽しい方ですね! アルヴァン様の他にもお友達がいっぱいいるなんて、羨ましいです」


 彼女は無邪気に笑ったが、アルヴァンは書類から顔を上げず、「あいつは友達じゃない。煩いだけだ」と吐き捨てるように言う。

 リリエッタは少し首を傾げ、「でも、アルヴァン様のこと、親友って呼んでましたよ?」彼女は近づき、アルヴァンの机に花冠をそっと置いた。


「これ、今日の庭で作ったの。今朝レオン様から教えて頂いた赤い薔薇も入れてみました! アルヴァン様に似合うかなと思って」


 アルヴァンは花冠を見て、胸が締め付けられた。レオンの名前が出るたび、なぜか苛立ちが募る。レオンが自分の事を親友と言った事を訂正する事も忘れ。


「……お前は、誰にでもそんな笑顔を見せるのか?」


 彼の声は低く、どこか拗ねた響きがあった。リリエッタは彼の言葉に目を丸くする。


「はい。だって、みんなの笑顔が好きだから」


 でも、と言葉を続ける。


「アルヴァン様の笑顔が一番好き、かな」


 その言葉と笑顔に、アルヴァンの心が大きく揺れた。彼は立ち上がり、リリエッタの手を取り、花冠を彼女の頭に乗せると、優しく抱きしめる。


「……これはお前に似合う」


 彼の指が彼女の金髪に触れ、灰色の瞳が柔らかく彼女を見つめた。リリエッタは顔を赤らめ、「アルヴァン様……あの、ありがとうございます」と呟く。


 その瞬間、アルヴァンは自分の感情を自覚した。リリエッタの笑顔を、誰かと共有したくない。その独占欲が何なのかを。

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