第16話 冷血と獅子の確かな信頼
村に到着した三人は、炎に包まれた光景に息を呑んだ。
魔法使いが火を放ち家々を焼き、逃げ惑う領民たちを傭兵が追い回し無慈悲に刃を振るう。どこへ逃げれば良いか分からず、ただ立ち尽くす者も少なくはない。リリエッタが叫ぶ。
「皆、こちらへ。アルヴァン様が助けに来ました!」
リリエッタの言葉が耳に届いた村人たちが一人、また一人と救いを求めるように彼女の元へと駆け出す。
「アルヴァン様が助けに来たぞ!」
救助に来たと叫ぶ村人たちの声を聞き、他の村人たちも同じ方向を目指し走り出す。だが、それは傭兵たちの耳にも届いていた。
村人が逃げる方向へ先回りをする傭兵に向け、アルヴァンは剣を構え、氷魔法を発動させる。剣の柄が蒼白く輝くと、辺り一面を氷の結晶が月光に反射させながら漂い始めた。広範囲に放たれた冷気が、傭兵たちの足元を凍らせる。準備も無しに広範囲に発動させたためか、その効果は一瞬足止めをする程度にしかならない。が、その一瞬があれば、アルヴァンには十分な時間であった。
馬を走らせ、村人たちを背に、傭兵たちと対峙する形で躍り出る。アルヴァンがリリエッタを馬から下ろす隙を狙って、魔法使いが炎を放つが、アルヴァンは氷の盾で弾くと、「リリエッタに手出しした罪は重いぞ!」と一蹴し、魔法使いへ氷の矢を放つ。
数では圧倒的な有利なはずの傭兵たちが、アルヴァンの魔法の威力に顔をしかめる。氷で出来た矢は、魔法使いの胸を貫通し、その後ろに居た傭兵たちを巻き添えにしながら、目にもとまらぬ速度で、はるか後方へと飛んでいったからである。
「お、おい。どうするよ?」
戦場で冷血伯爵の活躍を見たことがない者達ばかりだったのだろう。自分たちにも魔法使いが居る、たとえ冷血伯爵が出て来たとしても何とかなる。そんな甘い考えでいた。実際に目にして分かる。これは自分たちの手に負える相手ではない。怪物だと。
一人の傭兵が、悲鳴のような声を上げ逃げ出そうと振り返った時だった。
「冷血公爵を相手にする必要はない。リリエッタを捉えれば良いだけだ。リリエッタを捉えたものには50、いや100倍の報酬を約束しよう!」
100倍の報酬と聞き、傭兵たちが声を上げる。それで鼓舞された者も居たが、声を上げたのはそれだけが理由ではない。
傭兵たちを率いるリーダー格の男が、奮起するために剣で傭兵の一人を串刺しにし、高く掲げていたからだ。もし逃げだせば、お前たちもこうなるぞと脅すために。
半場ヤケのように、リリエッタへ向かい走り出す傭兵たち。ただ剣を振るうだけの戦闘と比べ、何かを守りながらの戦闘というのは遥に難しい。リリエッタを守りながらアルヴァンに戦わせる。これでアルヴァンの戦闘力が著しく下がったとリーダー格の男がほくそ笑む。後は消耗したところで自分がリリエッタを横から?っ攫い、傭兵たちを肉壁にして逃げる算段を立てながら。
しかし、その計算はすぐに狂わせられることになる。
「炎獅子の咆哮!」
四方八方から襲い掛かる傭兵の陣を炎の奔流が焼き払い、魔法使いを炎の渦で包む。
冷血伯爵と共に、金獅子が傭兵たちの前へと立ちはだかる。
「おいおい、俺にも良い格好させてくれよ」
レオンはいつもの軽い口調で軽やかな笑みを浮かべているが、その瞳には、確かに怒りの炎を灯していた。アルヴァンは「フンッ」と返事をした後に、レオンの顔を見ず小声でボソリと言う。
「すまない……頼む」
「任せろ、親友!」




