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第14話 動き始める破滅の足音

 その夜、リリエッタはアルヴァンの執務室を訪れた。


「アルヴァン様、本当に宜しかったのでしょうか……」


 彼女の声は震えていた。昼間はアルヴァンやレオンがその場に居たおかげで、マルクスの言葉も着にはならなかった。だが、部屋に戻り、一人になると考え込んでしまう。生まれてからずっと言われてきた「不吉の象徴」は、彼女にとってそう簡単に消えるものではない。

 アルヴァンは書類から顔を上げ、彼女の肩をそっと抱きしめる。


「何度だって言ってやろう。お前のせいじゃない……」


 彼の灰色の瞳は優しくリリエッタを映す。

 リリエッタは涙を浮かべながら笑った。


「アルヴァン様、……私、頑張ります。せめて皆を笑顔にするために!」


 その言葉に、アルヴァンの笑顔を見せる。彼は彼女の金髪を撫で、耳元で「お前は十分に頑張っているさ」とそっと呟く。



 数日後、ヴェルディ家では、執事マルクスの報告を受け、ロドリックとエレノアが苛立たしそうにしていた。


「あの『冷血公爵』は変わり者だと思っていたが、どうやら変わり者でなく、愚か者だったようだな」


「そうですね。でも、こちらの方が都合が良かったのではないですか?」


 エレノアの言葉に、ロドリックが満更でもない笑みを浮かべ、答える。


「あぁ、これでこちらはクローヴェル領へ攻め入る口実が出来る。おい、マルクス!!」


 ロドリックが扉へ向かって叫ぶと同時に、扉が開き、マルクスが顔を出す。

 一礼し、扉を閉めるとロドリックの顔を見た。マルクスの顔にはロドリックと同じように卑下た笑みが浮かんでいる。


「クローヴェル領へ攻め入るための準備をしろ。それと奴を糾弾をするために懇意にしている王都の貴族へ文を送れ。内容はそうだな。オッドアイは不吉だと言われているが、それでも愛した我が娘を奴は興味本位で攫って行った。公爵という位を利用し無理やりに」


 リリエッタに対し、心にもない愛の言葉を囁くロドリックに、エレノアが思わず吹き出すと、ロドリックとマルクスも共に笑い始める。


「不吉をもたらすオッドアイ。今度は我が家の為にその力を発揮して貰おう」 


 その日のクローヴェル公爵領の夜は、満天の星空に覆われていた。

 だが、その穏やかな夜を切り裂くように、遠くの村から炎が上がると、叫び声と馬の嘶きが響き始める。ヴェルディ家の雇った傭兵団によって、クローヴェル領の村への襲撃が開始されたのだった。

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