モノノケ〜二人の復讐〜
今回素人の新人ではございますが、私の力作、にして第一作目、モノノケ〜二人の復讐〜小説版を書かせていただきました。らーと申します。
隙間時間などに読むには長い文字数で一気には読めませんが自信を持って言えます!面白いです!ちょっとずつでもいいので読んでもらいたいです!
この作品はオリジナルストーリーで絶対面白いという自信がありますので是非とも多くの方に見ていただきたい作品となっております!小説家になろう以外でもXや他の小説投稿サイトにもあげてみたのですが小説家になろうが一番みてもらえるかなと思い、少し加筆修正しながら投稿しました。
読みやすくテンポ感が良い作品になったと思います!
よろしくお願いします!書籍化目指してます!
モノノケ〜二人の復讐〜
あらすじ
昔々のそのまた昔、この世にモノノケという名の怪物が蔓延っていた時代。
ここ、明石村は多喜川神社の巫女様の結界によってモノノケなどから守られていた。
ここ明石村は総勢二百名が暮らす村である。ここ明石村には大きな多喜川神社という神社があり、その神社に住む巫女様の作り出す結界によって世に蔓延っているモノノケという名の悪しき怪物から村を守ってもらっていた。
この物語はそんな村に暮らす二人の少年の物語である。
プロローグ
「おーい!君丸〜!今日も遊ぼうぜ〜!」
そう元気よく大きな声で言うこの少年の名は文吉、着古された質素な身なりに茶髪のロングヘアな髪型で、元気一杯の少年である。走ってきたのか、額には汗が出ている。文吉は幼馴染の君丸の家に来ていた。
「おはよう、文吉、今日も元気だね〜。」
中から眠たそうに出てきたこの少年の名は君丸、文吉と同じように着古された質素な服装に黒髪のショートヘアな髪型の少年だが、寝起きなのか、服や髪が乱れている。
「ちょっと待ってて。」
君丸はそう言うと身支度を整えるために家の中に戻った。
「早くしろよ〜!」
文吉は待ちきれない様子で、地面に足で絵を描きながら、君丸を待っていた。そうやってソワソワしている間に再び君丸が出てくる。
「お待たせ〜!」
君丸がそう言うと文吉が君丸の方を向いて、笑顔で言う。
「今日は何して遊ぶ?鬼ごっこでもする?」
「鬼ごっこか、鬼ごっこなら、みんなも呼んでさ、大人数でやろうよ!絶対楽しいよ!」
「いいなそれ!あいつらも呼んで、遊ぶか!そうと決まれば早速誘いに行こうぜ!」
文吉は鬼ごっこをする仲間を集めるため、君丸を置いて猛ダッシュして走り去ってしまった。
「もう!置いてかないでよ〜」
君丸もそう言いながら足早に文吉の後を走っていった。
一方その頃、村の結界を維持している多喜川神社では、不穏な空気が広がっていた
「これは……!まずいことになりましたね……!」
白衣を身に纏い神楽鈴を持ち何やら焦っているこの女性は、ここ明石村をモノノケから結界を貼って守っている多喜川神社の巫女様である。額に汗を流しながら巫女様はそう呟く。
「どうかされましたか?巫女様」
そこに焦っている巫女様を不思議に思った村人が巫女様に問いかける
すると巫女様は叫びにも近いような大きな声で村人に今の状況を伝える。
「今すぐに皆に知らせるのです!モノノケによって結界が破られます!」
「そんな…まさか…わかりました、今すぐ伝えて参ります!」
と村人は戸惑いつつも大急ぎで多喜川神社を出てみんなに知らせに行く。
モノノケによって結界が破られる、それが意味するのはつまり、結界すら破れるほどの強いモノノケが村を襲おうとしているということである。
村人が知らせに行ってすぐ爆音が村全体に鳴り響く、結界が破られたようだ。
「結界が破られた……こうしてはいられないわ。」
と巫女様は急いだ様子で多喜川神社を出ようとする。そこにもう一人の村人が問いかける。
「巫女様どちらへ?」
「こうなっては一か八かですが…今入ってきたモノノケを祓いに行きます…」
「そんな無茶です!一緒に逃げましょう!」
村人が必死に止める。それもそうだろう、結界を破る力を持つほどのモノノケがこの村を襲いに来たということなのだから。
村人は巫女様を必死に説得する、しかし巫女様は。
「無茶は承知です!でもここで食い止めなければ!」
このままでは多くの犠牲が出てしまう。そう思い巫女様は意を決して走り出す、村人は巫女様を守らなければと槍を持って巫女様の後を追う
一方その頃明石村の村の入り口、そこには何十体という鬼とそれらを従えている大柄な鬼がいた。
「クックック、ハハハハハハ!この程度の結界でこの酒呑童子様を抑えられると思っているのか?」
何十体という鬼達を従えているこの大柄な鬼の名は酒呑童子
金色の髪に赤く鋭い二本のツノ、黒い体、そして引き締まった体格に、身長は二mをゆうに超えているであろう巨漢、そんな鬼が明石村に大勢の部下を連れて襲いかかってきたのだ。
「酒呑童子様、ここは人間がたくさんいますなぁ、久方ぶりに満腹になりそうですねぇ!」
「あんまり一人で食いすぎるなよ?ちゃんと分けて食わないと酒呑童子様がお怒りになるぞ?」
ともう一体の真面目そうな鬼がそのお調子者の鬼を注意をする。どの鬼達も目は鋭く、今か今かと酒呑童子の命令を待つ
そして酒呑童子は腰にぶら下げている瓢箪瓶に入っている酒を勢いよく飲む
「プハぁ!どぉれ!挨拶がわりにぶちまけようか!」
酒呑童子はそう呟くと口から灼熱の炎を出して村をその炎で焼いていく。それを見た他の鬼達は愉快に笑っていた。
「爽快爽快!ハハハハハハ!では行くぞ野郎ども!存分にこの村の民を食ってしまえ!」
と酒呑童子が気分が良さそうに言う。そしてそれに呼応するように酒呑童子の部下達は一斉に雄叫びをあげた。
「おぉーーー!」
酒呑童子に続き、鬼達が村のあちらこちらに散りじりになって村人達を襲いにいく。
こうしてものの数分で村は地獄と化した
場面は変わって村の中
「モノノケが来るぞ〜!全員逃げろ〜!」
さっき多喜川神社にいた村人が走りながら村人全員に届くように叫び回る、それを聞いて慌てふためく村人達
「モノノケだって?!」
「そんな……結界で守られてるはずじゃ……!じゃあさっきの爆音って、、、」
君丸はさっきの爆音が結界が壊された音だと察し、どうすればいいんだと、固まってしまった。そして村のあちこちから悲鳴と炎が舞い上がる。それを聞いた文吉も混乱して動けずにいた。
「文吉!君丸!お前達こんなところにいたのか!逃げるぞ!」
村人が呆然としている二人を見つけ手を引っ張り走り出す
「くそっ!」
文吉は突如襲いかかってきた地獄のようなこの状況にそう溢した。
三人で村の反対側へ走る、だが村中はその頃には炎だらけになっていた。
「くっ!炎で囲まれた!ん?あれは!まずい!二人とも!ここに隠れなさい!早く!」
村人が炎の向こうから迫ってくる大きな影を見て二人に物陰に隠れるように促す
「でもおじさんは!」
「早くしなさい!」
「君丸!早く!」
文吉は察したのか君丸の手を引っぱる
「うん…!」
すると炎の中から酒呑童子と部下の二体の鬼が現れた
「クックック!おかしいなぁ?人間の匂いがもっとしたはずなのだが、まあいい、ハハハハハハ!」
酒呑童子はそう言いながら物陰の方をチラリと見る、そして村人に目を向け睨みつける
「ここまでか…!」
と村人は諦めたその時。走る足音が聞こえたと思うと疾風の如き速さで、手に神聖な力を込めて、
「ハッ!」
と巫女様が巫女の術で酒呑童子達を吹き飛ばした、そして遅れてやってくる槍を持った村人
「巫女様!」
村人は突如現れた巫女様を見つつ、巫女様と槍を持った村人がボロボロなのを見て、ここに来るまでに他のところでも戦っていたのかと悟り、目を逸らした
すると槍を持った村人が疲れ切った様子で言う。
「ハァ…ハァ…危なかったですね」
「ですが…もう…生き残りは私達だけのようです。」
巫女様が続いて声を漏らす、すると酒呑童子達が重い腰を上げるように立ち上がる
それを見て構える巫女様と村人、もうここにいる全ての人間が絶望していた。巫女様は酒呑童子達が立ち上がるのを見て
「くっ!」
と息を漏らす。
「なんだなんだ?今ので終わりか?つまらん!」
酒呑童子は何事もなかったかのように肩についた土埃を払い、巫女様達を睨みつける
巫女様は印を構える、それを見た槍を持った村人が、
「巫女様!力を使いすぎです!もう充分です!ここは逃げましょう!」
「ですが……!」
近づいてくる鬼達に対して震えながら印を結ぶ巫女様
「酒呑童子様、こやつら我々で食っても良いでしょうか?」
部下のお調子者な鬼が呟く。
「ふん!まあいい、好きにしろ」
「おっと、逃げるなんて考えるなよ?まあもっともこの炎の檻から逃げられるとは思わないがな」
もう1人の鬼が巫女様達に、諦めろとでも言うかのように、高らかに言う。巫女様は必死に抵抗しようとするが、力を使いすぎて、抵抗も虚しく鬼達に捕まり。
そして鬼達は巫女様と村人達を食っていく巫女様と村人達の悲痛な叫び、物陰でそれを聞いて怯えている文吉と君丸、だが文吉は何もできない自分と好き勝手にされる鬼達に怒りと憎しみを抱いていた
巫女様達を食い殺したお調子者の鬼がお腹を叩きながら
「久々に満腹ですぜ!」
「お前は食い過ぎだ!」
それに反応した真面目そうな鬼がお調子者の鬼を怒る
鬼達が言い争いしていると酒呑童子が、
「まだいるなぁ?隠れていても無駄だぞ?出てこい……」
その声に反応した文吉と君丸は隠れていてもどうせ食い殺されると思い恐る恐る物陰から顔を出す
鬼を見た瞬間文吉と君丸は死を悟った、赤くでかいツノ、そして村人達の血に染まった体に剛体な体、そして鋭い目に牙を見せながらニヤついて、自分たちの倍以上はある怪物達に圧倒されたのだ。
そして酒呑童子が呟く
「ほほぉ人間のガキか……」
怖い笑顔を見せながら二人を睨む
「まだ人間がいやがったか。こいつも食っていいですかい?」
「だからお前は食い過ぎだと言っておろう。」
「まあ待て、」
酒呑童子が二人を止める、そして二人に近づくと腰を落とし、
「おいガキ、いい目をしているなぁ」
と呟く。
「くっ!」
文吉は目の前にいる怪物達に震えながらも憎しみの目をしながら睨みつける。君丸は震えながら無言で文吉の後ろに隠れている
すると酒呑童子がニヤリと笑い立ち上がる!そして、高らかに大きな声で、
「我の名は酒呑童子!貴様の目、気に入った、今は食わずに置いてやる。せいぜい強くなれ。そしていつか我を殺しにくるがいい、ハハハハハハ!」
と、二人にそう言い放つ。そして部下に笑いながら
「おい行くぞお前ら。」
と命令する
二体の鬼は
「はっ」
と酒呑童子についていくそして、お調子者の鬼が
「命拾いしたなぁ!」
と吐き捨てていく。
酒呑童子達は去っていった
二人だけになって泣く君丸と悔し泣きする文吉。
それから一時間した頃、村の入り口にて
「くっ!遅かったか!誰か!誰か!誰かいないか〜!」
大柄な武士が言う。そしてその部下らしき武士が
「洞山様この惨状では生き残りはいないかと…」
どうやらこの必死に生き残りを探している大柄な武士の名は洞山と言うらしい、百八十を云うに超え、鎧を身にまとい周りを探索する
「ん?子供の泣き声…向こうからだ!」
洞山は泣き声のした場所へ向かうそこには文吉と君丸が炎に囲まれ泣いていた
「そこの二人大丈夫か!今助ける!」
そしてしばらくして二人は助けられ洞山に問われる
「二人とも言葉はわかるか?歩けそうか?」
泣いている二人に必死に問いかける洞山それを見た一人の部下の武士が
「洞山様…この二人相当気に病んでいるようですな……」
「二人とも名前は?」
洞山の質問にやっと泣き止んだ文吉が答える、だが、その声は枯れて、未だに整理できていない文吉は少し息を飲みながら口を開く
「……………文吉。」
「はぁ…はぁ…うぅ…」
そして君丸はさっき起きた出来事がトラウマでショックを受けていて、まともに話せず、ただひたすらに過呼吸になりながら頭を抱えていた。
「こいつは君丸……」
話せそうにないなと思った文吉が君丸の名前も言う
「そうか、文吉と君丸か。いい名だな。某の名は洞山だ。気軽に呼んでくれ。助けるのが遅くなってすまなかった……。」
と暗い顔をしている二人に対して深く謝る
そして少し落ち着いた頃、村の惨状をこの目で長くまじまじと見る二人、そこに広がっていた景色は、燃えて残骸となっている家や、誰のものかもわからない、人の血、そして焼き焦げた臭いと血生臭い臭いが鼻を通る。それを味わった二人は絶望していた。つい数時間前までは、のどかで自然あふれる村だったのに、その惨状を見て、さらに呼吸が荒くなる、君丸。そして何やら決意を固める文吉…
そして文吉は洞山にお願いする
「洞山…さん。俺強くなりたい、それであのモノノケ、あの鬼を倒したい!」
それを聞いた君丸が驚いた様子で口を開く。
「文…吉……それ本気で言ってるの?そんなの無理だよ!勝てっこないよ!」
「それでも俺は戦いたい!強くなりたい!君丸もそうだろ?」
それに対して文吉は君丸だって同じ気持ちだろ?と言うように君丸に問いかける
「うぅ…正直……もう…こんな思いはしたくない!あんな怪物と戦いたくはないけど…文吉を一人では行かせたくない!怖いけど僕も強くなりたい!もうこんな思いをしないために!」
「そうか、少々酷だが、君たちがそれを望むなら、某が君たちの面倒を見る。そして某がモノノケに対抗できる力をつけてやる」
それを聞いた部下の武士達が、洞山に抗議する。
「ちょっと洞山様、それ本気でございますか?」
「そうでございますよ!それは流石に…。」
「大丈夫だ、安心せい、責任を持って預かる。そうとなれば某は甘くないぞ!歩けるか?」
と、洞山は部下の言葉を一蹴し、二人に問いかける。
「大丈夫」
「僕も」
と二人とも頷く
「では城下町に帰還する。ついてまいれ」
洞山に言われ文吉と君丸は焼き払われた生まれ育った村を見ながら洞山達についていった。
ここから酒呑童子に復讐する二人の物語が始まる。
第一章、二人の新たなる旅の始まり
故郷の村を出て数日が経とうとしていた。洞山に連れられ、ひたすら歩いて、疲れ切った二人は、うとうとしていた。
「二人とも、おーい目を開けろ〜着いたぞ!」
「ん………洞山さん……って…文吉!」
「うん……?どうした?君丸…?」
「見てみてよ!周りを!」
そこには見渡す限りの人々、文吉と君丸はあまりの人の多さに驚愕していた。二人がいた村とは比べものにならないほどの人が視界には広がっていた。何やら物を売っている人に、木陰で談笑する人達、無邪気に走り回る子供や、椅子に座りながら食べ物を食べる人。沢山の人がいた。
「すっげぇ、たくさん人がいるな、こんな沢山人がいるところ初めてだ!」
「ね、すごいね。」
君丸が頷く
「そうか二人ともこんなに人が多いところは初めてか!まあここ以上に栄えているところはないからな!ここが時秀様が治めておられる城下町だ!」
行き交う人々を尻目に二人はつい先日の故郷の惨状のことを思い出していた。そして空気が重くなっていった。それを感じた洞山が少し考えながら呟く。
「うーむ暗いなぁ…どうにか笑わせたいが……」
「そうだ!おい!どうした二人とも!暗いぞ!さては、今朝《召し》あがった《飯》がお気に《召し》ませんでしたかな?」
「…………………」
突然のダジャレに呆気にとられている文吉と君丸、周りに寒い空気が流れる、部下の武士も呆れている様子だ、寒い空気を感じ取った洞山は、首を傾げながら、反応を見ている、すると異様な静けさに我慢できなくなった文吉が先に言葉を漏らす。
「洞山さん……寒いよ…」
「うん…寒いね…」
続いて君丸も頷く
「最近の若者はこれじゃ笑わないのか…。」
自分では最高のダジャレを言ったと思った洞山がそう呟く。洞山はどうやら自分では渾身のダジャレを言ったと思っているみたいだが、周りの空気は冷たい。するとその言葉に反応した文吉が
「洞山さんその「最近の若者は」って言い回し嫌われるからやめた方がいいですよ」
「え?そうなのか?」
「うん…」
「まあ気を取り直して普通に何か食おうか!ちょっと待ってろ!」
さらに空気がどんよりとしたのを感じ、洞山は二人をどうにかして明るくさせるために食べ物を買いに、二人の面倒を部下に任せて、一人で走り去ってしまった。洞山の影が完全に見えなくなるのを確認した部下の武士が、今のうちにと、二人に向かって声をかけた。
「あれでも洞山様はお二人へ気を遣っているのですよ、お二人が暗かったから笑わせたかったのです、ほんと不器用なお方だ」
「…………洞山さん…」
文吉がそう声を溢し、洞山が自分達のことをとても考えてくれているのを感じ少し涙が溢れそうになった時、洞山が走りながら戻ってきて、
「おーい二人とも〜!」
と、息を切らしながら、二人に笑顔で団子を差し出した。
「お団子買ってきたぞー!」
「お団子?」
文吉は初めて見る丸い食べ物を興味津々でまじまじと見る。
「美味しそうな匂い…」
君丸も団子の匂いを嗅いで、思わず唾を飲み込む。
「まあ騙されたと思って食ってみろ!」
洞山が自信満々にいいから食べてみろというように二人に言う。そして二人は一口食べると……
「「……!!!」」
「美味しい!こんな美味しいもの食べたの初めてだ!」
「美味しい……美味しいよぉ!」
と、どんどんと食べ進めていく。一本また一本と食べて文吉と君丸は笑顔になりながら明るく食べながら涙を流す。
「泣くほどうまいか!ワハハハハ!」
「気分が良さそうなところ申し訳ないのですが……あの……我々の分は?」
「あー……………うん……我慢してくれすまぬ」
洞山は部下に申し訳なさそうにしながら、二人が食べ終わるのを待つ、笑顔で食べている二人を見て、思わず笑う洞山と、我々も食べたかったなと思いつつも文吉と君丸が笑顔ならいいかと心の中で思う部下の武士、いつの間にか空気は軽く、明るくなっていた。
「食い終わったら城に行くぞ!…………ちょっとは明るくなったか!」
洞山がそう言うと、一行は将軍様がいる城を目指すのであった。
城の前にたどり着くと洞山がこう言う。
「いいか二人とも、将軍様の前では、ちゃんと礼儀正しく、失礼のないようにするんだぞ?」
二人とも頷く
「それじゃあ入るぞ!」
城内に入ると、城下町とは一変して、豪華な服装をしている人や、とてもたくましい武士が沢山いて、思わず委縮してしまう二人、今までに感じたことない雰囲気に押しつぶされそうになりながらもあっという間に将軍様のいる場所にたどり着く。
「時秀様!失礼いたしまする!」
すると奥には質の高そうな布に腰をかけている豪華な服装を身に纏った威厳のある、時秀という将軍様がいた、そして時秀将軍が口を開く
「よくぞ参った、洞山よ、その二人が例の村の生き残りか?」
「はっ!そうでございまする!時秀様!さあ二人とも挨拶せい。」
「将軍様、文吉と申します。」
「君丸と申します。」
「うむ、くるしゅうない」
「して時秀様!この二人はあの、モノノケの王、酒呑童子に襲われたと申しておりまする。」
ここで場の空気が一変し、周りで聞いていた、城の武士や貴族達もザワザワと話している。自分達の村を襲ったあの鬼達はそこまで騒つく程すごい鬼だったのかと二人は周りを見る。
「なんとあの酒呑童子にか!?して何か情報はないのか?!姿などはわかったのか?」
「はい、二人の話によれば酒呑童子は金色の髪に赤いツノ、肌は黒く、そしてとても大柄だと。そして子分を連れていたとのことでございます。」
それを聞いた時秀将軍は少し考えた後近くにいた武士に何やら命令をして。そして洞山達に向けて言う。
「うむ、わかった、下がって良いぞ。」
「はっ!失礼いたしまする!」
洞山達は頭を下げて、立ち去る、城の雰囲気はさっきとまるで天と地が変わったかのように、大勢の人が大慌てで走り去ったり、何やら騒がしくなっていた。そして城を出る。そこで洞山の部下の武士達が
「洞山様我々も一回家に帰りまする。」
「うむ、また後で道場に来てくれ。」
これで洞山の隊の者たちとも解散し文吉と君丸は洞山の後ろをついて行った。城下町を歩いて少しした後洞山の家に着いた。周りの家と違って、一際大きく、隣にはそれよりもさらに大きい道場があり、そこからは武士が鍛錬している姿が見える。文吉達がそれに見惚れていると
「二人とも、ここだ、ここが某の住んでいるところだ。隣で見ての通り道場もやっている、これからビシバシ鍛えてやる。まあ詳しい話は中に入ってから話そう。」
洞山に連れられ、家の中に入っていく。家の中は人一人が住むには大きすぎるくらいの部屋で、畳が敷かれており奥の方には木板で敷き詰められたところの中央に炊事などができる囲炉裏が置かれ、さらに奥には寝るスペースと思われる部屋まである。洞山は二人を奥へと案内し、適当に座っててくれと促すと土間の方へといきお茶を出そうとしていた。文吉達は初めて来る場所だったので周りを見渡し、緊張がほぐれないまま洞山を待った。そして洞山がお茶を二つ持ってきて二人の正面に腰をかける。文吉は出されたお茶を飲みながら一息つくと気になっていた疑問を洞山に問いかける。
「洞山さん…酒呑童子って今まで姿も分からなかったの?」
「あぁその通りだ。酒呑童子は残虐で冷酷な鬼というのは噂や伝承でわかっていたのだが、何せ今まで見たもの全て殺し、誰かが駆けつけた頃には全てが終わった後、その惨状とモノノケについて書かれている古文書以外情報がなかったのだ。だが君達が生き残ってくれたおかげで遂に酒呑童子の手がかりを得た。酒呑童子は古文書から推察するに何千年と生きているモノノケだ。やっと一歩進んだって感じである。」
文吉と君丸は黙って、洞山の話を聞いていた。文吉はなぜ酒呑童子は俺達を生かしたんだろうと不思議に思っていた。目が気に入っただけで、残虐で冷酷と言われる鬼が生かすかな?と思っていたのだ。しかし文吉にとっては、生かした理由がどういう理由であれ、好都合だった。文吉は自分の故郷が滅ぼされ両親も殺された。自分達を守ってくれた巫女様や村人を至近距離で食われた。そんなことをされた挙句、自分は何もできずただ隠れることで精一杯で酒呑童子に気づかれ正面から相対した時も、ただ震える自分を隠して睨みつけるのが精一杯だった。だから、文吉は自分の何もできなかった弱さと酒呑童子を憎み、いつか強くなって復讐し酒呑童子を倒す、と誓ったのだ。
一方の君丸はこう思っていた。故郷での一件の後ずっと村の惨状が頭から消えない自分の弱さと酒呑童子に睨みつけられ、咄嗟に文吉の後ろに震えながら隠れてしまった時の自分の醜さに、そして文吉が洞山に酒呑童子を倒したいと言った時、そんなの無理に決まっていると決めつけてしまった自分の愚かさに呑まれていた。でもこのままだと文吉は一人で自分を置いて、たった一人で立ち向かってしまう。いつも生まれた時から一緒に育ってきた友達、親友を一人では行かせたくないと、心のそこからそう感じていた。そしてもう二度とあんな惨状になるところを見たくない、だからこそ自分が強くなってみんなを守る、文吉を守る、自分も強くなって、文吉と一緒に戦うことを選んだのだ。
洞山の話を聞いて、一層文吉が覚悟の目をしているのを見て、君丸はまた強く心の中でそう誓ったのであった。二人がそんなことを考えているうちに洞山が二人に問いかける。
「二人ともモノノケについてどこまで知っている?」
二人は少し考えた後口を開いた。
「えっと……とっても恐ろしい怪物……」
君丸は数日前の酒呑童子達の顔を思い浮かべながらそう言った。
「人を襲ったり取り憑いたり不幸をもたらすって聞いたことがある……。後魂を摂るとも聞いた。」
文吉は昔巫女様や両親に聞かされたことを思い出しながらそう言った。
「まあおおむね間違っておらん、これはあくまで今時点での推察に過ぎないが、モノノケという存在は、人の想いや人の憎悪などが集まって生まれたと言われている。人が持っておる邪な想い、簡単に言えば悪〜い想いがたくさん集まってできたってことだ。」
「憎悪………」
「うむ、まあ聞き流してくれてかまわない。少し休憩したら、稽古を開始する。覚悟して臨んでくれ。準備ができたら隣の道場に来てくれ。」
「よし、君丸やるぞ。強くなるんだ。俺たち二人で一緒に。」
「うん、文吉一緒に強くなろう。」
二人が腕を組み合わせてここにもう一度強く誓った。文吉は強くなって、酒呑童子に復讐するため。一方の君丸はもう二度とあんな惨状にさせないため、文吉を一人で戦わせないため、そして自分が強くなってみんなを守るためと、色んな想いが交わった誓いをたてた。そして遂に、ここから二人の強くなるための修行が始まったのであった。
二人が道場に行くと竹刀を持った洞山が今か今かと待ち構えていた。すると二人に気づいた洞山が口を開く。
「来たか、それじゃあ早速稽古を始めるぞ!二人ともそこにある竹刀を手に取れ、まずは剣術における基本的な動作を教える!それが終わったら一回某と二対一で勝負してもらう。前にも言ったが某は甘くはない!手加減はせんからな!」
二人は竹刀を手に取り稽古を開始する。一通りの剣術を教えてもらった後洞山に二人がかりで挑んだが瞬殺されてしまった。それから数ヶ月間毎日基礎の剣術の練習をしたり、道場の他の武士と手合わせしたり、たまに洞山に挑んだりを繰り返していた。
そんなある日、洞山が二人にとある剣技を披露する。その剣技はまるで芸術とでもいうように美しく、そして、鋭い一撃であった。練習用の藁人形が一瞬で真っ二つに斬れてしまった。それを見た二人はあまりの美しさと素早く鋭い一撃に見惚れていた。
「今見せたのが、まあ必殺技みたいなものだ。相手の隙をついて素早く一撃をいれる技、某は疾風一文字斬りと呼んでいる。二人にもいつか、この技を習得してもらう。だがまずはさらに基礎を叩き込むぞ!」
「「はい!師匠!」」
それからも二人の修行は続き、三人での生活にも慣れ、二人は稽古に励んだり、勉強したり、いつしか季節は何回も移ろいでいた。そしてここに来て七年が経とうとしていた。
文吉と君丸は、心身共に立派な青年へと成長していた。文吉と君丸が十九歳の頃である。
文吉は、身長が百八十近くまで伸び、ロングヘアも紐で後ろで纏めて凛々しくなり、服も、ここ数年で仲良くなった城下町の人に仕立ててもらい、服の赤が似合う、好青年に成長していた。毎日稽古を怠らずにやっていたおかげで、筋肉もつき、体はとても引き締まっていた。少し目は鋭くなり、少年の頃の面影はほとんどなくなっていた。
君丸も、身長が百七十近くまで伸び、ショートヘアだった髪は少し伸びて、文吉と同様に凛々しくなり、少年の頃の弱々しい感じはほとんどなくなっていた。服装も動きやすい、布の生地に青色の服は、より一層、君丸を立たせる。
力強く、小回りが利き、素早く動ける君丸と、素早さは君丸に劣るものの、力強さと判断力と反射能力でカバーする文吉、この日も文吉と君丸は稽古をしていた、そして道場の武士達を全員手合わせで打ち負かし、二人はお互いに稽古に励み、二人で手合わせをして高め合っていた。
それを見守る洞山、そして手合わせをしていた二人の決着は文吉が勝って終了した。それを見ていた洞山が口を開く。
「ワッハッハ!二人とも筋が良くて強くなったなぁ…もうあれから七年か……早いものだ。」
洞山はもう七年経つのかと思いながら、二人に近づく、すると文吉が礼儀正しく、クールに言う。
「洞山師匠のおかげです、俺達が強くなれたのは。」
それに続いて君丸も落ち着いた声で喋る。
「そうですよ、洞山師匠のおかげでだいぶ自信もついて参りました。」
「もう二人は一人前だ。もう立派に戦えると思うぞ?………そうだ最後に某と一対一で勝負してみようか。」
突然の洞山の提案に二人はびっくりする。七年前、二人がかりでも瞬殺された、師匠に一対一で手合わせすると言うのだから。その提案に文吉は
「師匠と戦うのですか!?」
と、思わず声を上げてしまう
「勝てるかな………」
師匠からの提案に急に弱気になってしまう君丸、いくら強くなったとはいえ、君丸は師匠には勝てないと思っていた。その弱気な言葉に反応した文吉は
「おい、何弱気になってんだよ!君丸!俺達いっぱい修行して強くなったんだぞ?」
と、鼓舞する
「だって師匠だよ?…」
「じゃあ俺からやらせてもらおうかな、師匠!よろしくお願い致します。」
文吉達はここ一年師匠と手合わせをしていなかった。二人とも今までの洞山師匠との勝率はゼロだった。だがそれからも稽古により一層励み強くなった文吉には自信があった。文吉と洞山は竹刀を持ち、距離を取る。君丸はその光景をまじまじと見ていた。
「年寄りを労われよ?文吉。」
洞山がそう言うと手合わせが始まった。文吉は一気に間合いを詰めて洞山に斬りかかる、それを華麗に躱わす洞山、つかさず避けた洞山は、その隙を逃さず斬りかかる、それを見越した文吉は華麗なステップで軽快に躱し距離を取る。そして洞山が距離を詰めて斬りかかる。文吉はそれを竹刀で受け止め、横に竹刀を逸らす、君丸はこの間ずっと集中して観察していた。周りの道場の武士達も、その強者同士の手合わせをザワザワしながら見ていた。
文吉と洞山はいい勝負をしつつも文吉が押していた。文吉は洞山の竹刀を受け止めて受け流し、その隙をついて、攻撃する洞山はその攻撃を避ける、文吉はそこから体をゆるりと捻り、竹刀で鋭い一撃を喰らわせた。
そして勝負がついた。文吉の勝利である。文吉は少し息を切らしながら洞山に敬意を表して言う。
「流石にお強かった、流石でございます、師匠。」
「おいおい敗者に何を言うか、強くなったな!文吉!」
洞山は弟子の成長が嬉しく一粒の涙を溢しながら文吉の頭をポンと叩く。そして少し休憩した後
「次は君丸か。」
と、洞山が配置につく。文吉は君丸を鼓舞する
「君丸!頑張れよ!」
「うん!頑張ります!文吉についていけるように!師匠お願い致します!」
「さぁ、こい!」
そして今度は君丸と洞山の手合わせが始まる。
君丸は集中を研ぎ澄ませ、まるで別人のような空気をただよわせている。
お互いに距離を取りつつ様子を伺う二人、そして君丸が疾風の如き速さで間合いに入る、そしてつかさず斬りかかる、あまりの速さに洞山は一瞬動きが遅れたが、なんとか攻撃を受け止める。力の押し付け合い。君丸が相手の竹刀を右に受け流し素早く斬り込みに行く。洞山はそれを見越して一回距離を取る。だが君丸は考える時間を与えずに距離を縮めに行く、君丸のあまりの猛攻に洞山も焦る、そこの隙を君丸は見過ごさない、その隙をついて君丸は洞山に斬りかかり、洞山は尻餅をつく。勝負が決まった、君丸の勝ちである。洞山は高らかに笑い、そして言う。
「うおっ!やられちまったか、君丸にも負けちまったか!ワッハッハ!二人とも本当に強くなったなぁ!」
君丸は息を切らしつつも集中がきれて一気にいつもの君丸に戻る、そして君丸は言う。
「嘘、勝てた!文吉!勝てたよ!僕でもやればできるんだ!」
「よくやったぞ!君丸!これで俺達一人前だな!」
ハイタッチして腕を組み合う二人、道場の人達からも拍手と歓声が沸いた
「お前達の努力の賜物だよ、まさかここまで強くなって、ここまで圧倒的に負けるとは思わなかったがな!」
そして今日の稽古も終わり、道場の人達も家に帰り、洞山と三人で晩御飯を食べている時、洞山から質問があった。
「二人ともこれからどうするつもりだ?稽古での目標も達成したし、前に話した通り旅に出るのか?」
その質問に文吉は淡々と答えた
「はい、充分力もつきましたし俺達は旅に出ようかと思ってます。急ですが明日の朝、旅立ちます。」
「うん…二人で一緒に旅に出ます」
「そうか、寂しくなるな、復讐だけにとらわれすぎるなよ、旅に出るんだったら明日はお前達の好きな団子をたらふく用意せねばな!」
「ありがとうございます、師匠。」
「明日は早いんだろ?今日は早く寝な。」
文吉と君丸は色々なことを考えながら、眠りについた。あれから七年、自分達は自分達が思うよりも数倍強くなった。だけど油断は禁物、これからは手合わせや稽古とは違う、生きるか死ぬかの戦いをするのだ。自分の力に慢心せず、そして旅の意味を知ろう。そんなことを二人は考えていた。
そして朝がやってきた。早朝から二人は荷物をまとめて、身支度を整えて家を後にする。家を出た時に浴びる日差しが強く、文吉は口を開く。
「日差しが眩しいな、俺たちの旅を祝福してくれているみたいだ。」
「そうだね、遂に旅立つってなると緊張と不安が襲って来たよ………怖いな。」
「相変わらずだなぁ、大丈夫だ俺がいる!なぁ君丸!俺達二人で一緒に必ず酒呑童子を倒すぞ!約束だ!」
「うん!約束!怖いけど、みんなが笑って暮らせる世の中にするために!頑張るぞ!」
二人の気持ちはこの七年間で固く結ばれていた。文吉の酒呑童子を倒して復讐を遂げ世界を平和にすると言う願いと、君丸の二度とあんな惨状にしないためにみんなを守ると言う願いそれが一つになったのだ。そこに起きたての洞山が現れ
「なんだ朝早いなぁもう行くのか、」
「師匠今までお世話になりました、俺たち行って来ます!」
「おう!気をつけろよ!おっと、そうだ、忘れ物だ、団子たくさん入れておいた、持っていけ!旅をするならまずは城下町を出てすぐ右の道を進んで道沿いにある村に行くといい、最近低級のモノノケがたくさん湧いているって話だ。人を助けることにもなるし、肩慣らしにもちょうどいいだろう。」
「ありがとうございます!師匠!ではその村に行ってみます!」
「たまには戻ってこいよ〜!」
洞山に手を振り、二人は城下町を後にする。七年の時を経て、遂に二人の旅が始まるのであった。
第二章、旅の仲間
二人が旅に出てすぐ、同時刻、ここはモノノケの王、酒呑童子が住処にしている、古い集落、文吉と君丸が七年前に生き残り、姿などの手がかりを見つけたおかげで酒呑童子達は前より見つけやすくなった。手がかりのおかげで酒呑童子の住処を見つけ出した時秀将軍は、そこに武士を何十人も向かわせた。そして現在酒呑童子達が住処にしている集落は囲まれていた。
「はぁ暇だ…。この生活はいつまで続くのだろうか、暇つぶしに荒らせる村や集落も少なくなってきているし、何千年と生きていても変わることのないこの日常、つまらん。」
と、声を溢す酒呑童子、いつまでこの苦しみは続くのかと、ずっと嘆いていた、そう思いながらもそんなこと考えていても無駄だなと思い酒呑童子は酒を呑んでいた。そこに酒呑童子の部下が何やら慌ててやってくる。
「酒呑童子様!」
せっかく酒を呑んでいたのにと思いながら酒呑童子は声を溢す。
「……何事だ」
「何者かが、アジトに侵入したとの情報が入りました。」
「人間か?」
「はい!そのようです!すごい数です!いかが致しましょう?我々が食ってもよろしいでしょうか?」
少し考えた後、そうだその人間で発散すればいいと思い呟く
「いや待て、ちょうど我はすこぶる機嫌が悪い、そのもの達で発散することにしよう、皆は下がってろ。」
「はっ!!」
酒呑童子はアジトにしている屋敷を出て、一人で武士達の前に現れる。たった一人で出てきたものすごい形相の鬼に対して、武士達はどよめき一歩下がる。そこに隊を率いてきた武士が酒呑童子に対して怒りの声をあげる。
「その風貌、貴様が酒呑童子か!我らが受けた苦しみを味わってもらうぞ!」
その言葉に思うことがあったのか、酒呑童子はさらに怒りを増して、武士達に警告する。
「「我らが受けた苦しみ」だと?ふん!さらに怒りが増した!貴様らは生きては返さんぞ?」
武士達は一段と怖い形相になった酒呑童子とただそこにいるだけで空気が淀み、迫り来る殺気に押し潰されそうになりながらも、刀を構える。そして、隊を率いてきた武士が言い放つ。
「もとより命など捨てる覚悟!!ものどもかかれ〜!」
酒呑童子に一斉に攻撃を仕掛ける武士達、最初に矢の雨が降ってきたが酒呑童子は避けることもなく、その屈強な体で矢を弾き返す、そして次に武士達が一斉に斬りかかってきたが高く飛ぶことで武士達の攻撃を躱し、上から炎の息を吐き、かかってきた武士を一掃し焼き払った、それでも次から次へと武士達は攻撃を仕掛けてくる。着地して、ものすごい速さで武士達の群勢に突っ込み、そこから放たれる拳で武士を吹っ飛ばし、後ろから斬ろうとしている武士をその構えから後ろ蹴りで蹴り飛ばし、さらに向かってくる武士を鋭い爪で切り刻んだ。そしていつの間にか武士の群勢は壊滅状態までになった。隊を率いた武士が足を引きづりながら刀を持って酒呑童子に近づく、酒呑童子もゆっくり、その武士に近づきながら、不満を溢す。
「つまらん弱過ぎやしないか?もっと楽しませてくれよ……はぁ…」
ため息をついてる間にチャンスと思った武士が最後の力を振り絞り刀を振る
「うおおおおおおおおお!」
「うるさい!」
酒呑童子は容赦なくその武士に止めを差した、酒呑童子はあまりの弱さに憂いていた。そこでふと数年前に気まぐれで生かした二人の少年のことを思い出していた
「そういや数年前に生かしたガキはどうなっておるかな……。まあ人間に期待しても無駄だな……。人間など消えればいいのだ。」
そう吐き捨てると、とても憂鬱そうに空を眺める、そこに部下の鬼が奥から出てくる
「終わりましたか…」
「あぁ…アジトを移動させる…ここは人間どもにバレてしまったらしい……全ての鬼に伝えろ、行くぞ。」
「はっ!」
一方その頃 文吉と君丸は………洞山に言われた通り、村を目指していた。今までずっと城下町にいて、こうして二人きりになり、旅をするのが初めてだったので二人は喋りながら寂しさを紛らわせていた。
「こうして二人きりだとなんだか寂しいな。」
文吉がそう言うと、君丸が空を眺めながら
「そうだね……長い間師匠や道場の人と一緒だったもんね。」
「だな。思えばずっと一緒だったな。」
「師匠達は今頃道場で稽古してるのかなぁ。」
ここで文吉のお腹が鳴る、思えば城下町を出てから数時間歩きっぱなしで何も食べていないことに気づいた。周りを見渡して、休憩できそうなところを見つけ、君丸の肩を叩く
「君丸!そろそろ昼時だし、あそこの木陰で師匠から貰った団子食べようぜ。」
「おぉ!いいね!うん!食べよ食べよ!」
二人は木にもたれかかって、荷物から団子を取り出して食べる。
「美味い!師匠の手作り団子美味いなぁ!」
思えば城下町に来た頃のこと自分達が団子をまた食べたいと何度も言ったことで、洞山が団子の作り方を調べて、そこから洞山は団子を手作りして、頑張ったご褒美とかご機嫌斜めな時、新しく何かを覚えた時などに、自分達に作るようになったことを思い出していた。それを思い出しながら君丸は少し笑いながらこう言った。
「これ食べてると初めて城下町来た時の、師匠が僕達を笑わせるために寒い言葉を言ったのを思い出すね。」
「あぁ!あれは寒かったなぁ!今となってはいい思い出だよな。」
「僕達が空気悪くなったり暗くなったりしてる時いっつも笑わせようとしてくれたよね。寒かったけど。」
二人はそういう思い出話に花を咲かせながら、団子を食べた。
「さて食べ終わっただろ。休憩はこのぐらいにして目指している村に向かうぞ!」
「うん!」
そうして、二人が道沿いを歩いていると、正面から数体の四足歩行の何やら煙のようなものを出している謎の生命体と出会した。体は小さいが、全身黒色で禍々しい感じを出している。近づいてくる生命体に対して、二人は即座にモノノケだと判断した。すると文吉が。
「こいつはモノノケだな」
「でも文吉、特徴から見るに低級のモノノケだよ。古文書に記されている通りなら。」
「あぁ、洞山師匠の言う通り、低級のモノノケが沢山湧いているってのは本当だったみたいだな。行くぞ君丸。」
「うん!」
二人は腰に携えている刀を抜き、構える、そして疾風の如き速さでモノノケ達を片付けていく。一体また一体と倒していく。すると奥の方からさらに低級のモノノケが現れ、さらに倒していく。そしてあらかた倒し終え、一息つく二人。そこで君丸が。
「さすがに、モノノケの量が多いね、村の人達、結界があるとはいえ、村の周辺にこんなにモノノケがいたんじゃ、迂闊に外にも出れないね。」
「あぁ、だから俺たちで見つけ次第バンバン倒していこう。」
そして二人はさらに道を進む。その道中でも低級のモノノケは沢山湧いて、その度に退治する二人、そして村までもう少しと来たところ、二人は道端に倒れているお爺さんを見つける。
「爺さんが倒れてるぞ!助けないと!」
「大丈夫ですか?お爺さん!しっかり!もう息がない…。」
すでに事切れていた、助けられなかった二人は、お爺さんに手を合わせ、急いで村に向かう。ここからでも漂ってくる、焦げ臭い匂いが二人の七年前の惨状を思い出させる。二人は今出せる最高速度で村に向かった。
ところ変わってここは現在文吉と君丸が目指している村の中、今この村は混乱に満ちていた。それもそうだろう、村の結界がモノノケに壊され、炎が舞い上がっているのだから。村人達は必死に逃げながら、叫びの声を上げていた。
「モノノケだ〜!!」
「結界が壊されたのか?!」
「百々葉様〜!」
あたりはまさに地獄絵図であった、必死に逃げ惑う村人達、そんな中、モノノケのいる方に走り、モノノケに立ち向かおうとしているこの村の結界を貼っていた巫女様がいた。
「ぬふふふふ!この村はいいですねぇ!人間がこんなにたくさん!逃げ惑え人間達よ!」
人間の逃げ惑う様を愉快に見ながら村を燃やしているこのモノノケの名は磯天狗。天狗という名前ではあるが、種族的には河童の特性も持っているモノノケである。
人の倍はある大きな体に長い鼻、頭には河童特有の皿があり、背中には大きな翼を持ち、左手にはヤツデで作られた団扇、肌の色は藍色で、その顔は人間のことなど、ただのおもちゃのように思っているようなニヤけた顔、そんな磯天狗の前に巫女様が現れる。
「そこまでよ!悪しきモノノケよ!」
そこに現れたのはこの村の結界を貼っていた巫女様、百々葉である。白衣、と緋袴を身に纏い、ロングヘアは光沢が見える程に美しく、顔は整っており、身長は百六十前後、村の被害をこれ以上出さないため一人で磯天狗に立ち向かう。そこに磯天狗が煽ったような口ぶりで百々葉に感謝する。
「貴方は誰ですか?格好を見るに巫女のようですねぇ?ぬふふふふ!貴方の軟弱な結界のおかげで随分と食べさせてもらいました!」
その言葉に怒りが湧きつつも冷静に状況を分析し、落ち着いた素ぶりを見せながら、手のひらに巫女や神職者だけが使える神力を纏わせ、
「それもここまでよ!ハァ!」
と、言いながらその神力を纏わせた神力玉を磯天狗めがけて打つ。磯天狗はその術をひらりと躱しながら不敵な笑みを浮かべる。
百々葉は身体中に神力を纏わせ、体術を使いながら磯天狗に立ち向かう。しかし、百々葉は上手く力が出せずにいた。私のせいで村がモノノケに襲われ、多くの人が食べられた。そして今までも低級のモノノケぐらいなら退治してきたのに、自分の倍以上ある、モノノケに恐怖を覚えていた。震えつつもここで私がやられたらさらに被害が出てしまう、そう思い、死ぬ覚悟で戦っていた。しかし力が思ったように出せないせいか、攻撃が全然当たらず声を溢す。
「くっ…!」
磯天狗は百々葉が恐怖に染まっているのを見透かしながら、さらに絶望を与えようとする。
「ぬふふふ!奇妙な術を使うのですね!いいでしょう!ならばこちらも!さぁ行きなさい!」
磯天狗は家に押しつぶされて、動けなくなっている村人に術をかけて無理やり操った。村人は顔が豹変し、家を力だけで押し戻し、百々葉に襲いかかる!
「ヴぅぅぅぅぅガァあああああああああああ!」
「まさか操って?!」
磯天狗は姑息にも操っている村人に気を取られている百々葉の後ろをとり、
「はい隙あり!」
と、百々葉を団扇で吹き飛ばした。
「きゃあ!!」
操られている村人と磯天狗に挟まれる百々葉、
「じゃあそろそろいただくとしましょうか!」
死を覚悟したその時、ものすごいスピードで走り、磯天狗の背後を取って斬りかかる文吉。それに反応した磯天狗は突然現れた文吉の攻撃をギリギリで躱わす
「ぬっ!」
思わず声が溢れる磯天狗、そして文吉が大声で
「君丸!お前は操られている人を止めてくれ!」
「うん!わかった!」
と、操られている村人の拳を受け止める君丸、力が何倍にも膨れ上がっている村人の攻撃を必死で踏ん張りながら文吉を心配し声をかける
「文吉!一人で大丈夫?」
「俺を誰だと思ってる!こんぐらい朝飯前だ!」
突然現れた二人の青年に戸惑いつつ、文吉に問いかける百々葉。
「あなた達は?誰なの?」
「話は後で!とりあえず助けに来た!二度とあんな惨状にはさせない!」
と、磯天狗に刀を向けて構える文吉。磯天狗は突如現れた二人の青年を見て、さらにニヤつき、落ち着いた態度で。
「お喋りは済みましたか?いきなり現れて堂々としてますねぇ!この磯天狗に勝てると思っているのかな?」
「そんなん当たり前だろ!」
君丸は、村人を抑えながら、磯天狗の方を見て、古文書に書かれていたことを思い出す。
「文吉!古文書で見たことがある、磯天狗は火を自在に操る!気をつけて!」
「そっちこそ!気をつけて戦え!そいつは操られているだけだ!傷をつけるなよ!」
そして磯天狗との戦いが始まる。文吉は磯天狗の様子を伺いながら少しずつ距離を縮めていく。磯天狗は団扇を大きく振ると、突風を起こし、文吉を吹き飛ばした、咄嗟に受け身を取り、刀を地面に刺して耐え凌ぐと、文吉は風が切れるようなスピードで磯天狗に近づく。すると磯天狗は右手から炎の玉を出し、文吉に当てるように三発打つ、文吉はその玉を躱しながら近づき、高くジャンプし一刀両断するかのように斬りつける、それを咄嗟に避ける磯天狗、掠りはしたが、そんなにダメージにはなってない。一方の君丸は操られている村人を傷つけないようにしながら攻撃を受け流したり、躱したりしながら、受け止めていた。文吉は七連撃の剣術を磯天狗にお見舞いするが、鋼鉄の鼻でガードされたり避けられたりしながら、思ったダメージを与えられずにいた。磯天狗はその間にも炎の玉を出したり、周りの炎を集めて大きな玉で攻撃したり、突風を起こして吹き飛ばしたり、鋭い爪で文吉を追い詰めていた。文吉は傷だらけになりながらも持ち堪えていた。その間に百々葉は何やら神力を集めて何かを作っているようだった。
「ハァ…ハァ…くっ!強い!それにこの炎当たったら一発であの世行きだ!」
「ぬふふふふ!さあどうしますか?」
絶体絶命の中、百々葉が立ち上がり、文吉に声をかける。
「文吉さんでしたっけ…このお札を使ってください!今術で作り出しました!これをあのモノノケの頭に!」
「ありがとうございます!巫女様!」
「こっちも巫女の術で支援致します!」
そして百々葉も戦いに加わり、戦いはさらに激化していく。
文吉は磯天狗の炎の玉の攻撃を躱しながら磯天狗に近づいていく。百々葉は神力を集中させ神力玉を磯天狗めがけて放つ。磯天狗は避けながら突風を起こそうとするがその時には文吉が間合いに入っていたので攻撃をガードする態勢を取る。そして刀を鋼鉄のように硬い腕で弾き返す。そこに百々葉がチェンジするように前に出て、神力を纏って、平手で吹き飛ばす。そこにつかさず追い込みを入れる文吉、磯天狗にやっといいダメージが与えられる。そして膝をつく磯天狗、そしてニヤリと笑い息を切らした様子で言う。
「ハァ…これは少々厄介ですねぇ!そうだこの剣士を操ってしまえば…なんだ?操れない!」
磯天狗は文吉を操ろうとしたが何故か操れなかった。そこに百々葉が言う。
「無駄ですよ…加護の力を与えましたので!これでも巫女ですもの?それと隙だらけですわよ?」
磯天狗は百々葉の言葉に気を取られ、文吉の方を見ていなかった。その隙を文吉は見逃さない、そして磯天狗は言葉を溢す。
「はっ!しまっ!」
「くらええええええええ!!」
磯天狗は文吉の方を見た瞬間文吉に、百々葉に作り出されたお札を貼られ、眩い光に包まれた。そして磯天狗はお札の効果によって痺れ、思うように体が動かせなくなっていた。磯天狗は叫びながら無理やり動かそうとする。だがその前に文吉が鋭い一撃を入れる
「止めだ!五月雨斬り!」
文吉はこの七年間の間に編み出した技で磯天狗を斬り刻む!磯天狗は断末魔をあげ、消滅していく。磯天狗が消滅したことによって操られていた村人も元に戻り、戦いは終わった。文吉と君丸はお互いに満足気にお互いの腕を組み合った、しかし文吉は。
「いてててて!」
「あっ文吉!ごめん!痛かったよね。」
「あぁ、だが何とか勝てたな!」
二人がそう話していると百々葉がモノノケに焼き払われた村をまじまじと見ていた。そして絶望するように座り、涙を溢し言う。
「でも…大勢の人が食われてしまったわね…。うっ!自分の弱さが憎い!村を守りきれなかった!!ぐすっ…!」
その光景を見た文吉は昔の自分と重ねてしまった。文吉も村人は少なからず三分の一は救えたが、村はあの日の惨状を思い出すかのように、もう住めないほどに焼き壊されていた。文吉はその光景を見て、やっぱりモノノケは憎いし、許せないけど、以前君丸に言われたことを思い出していた。
【文吉、洞山師匠も言ってたけど、復讐に囚われすぎるのは良くない、モノノケは人の悪い想いから生まれるんだよ?ってことは文吉の憎い想いとかからでも生まれちゃうかもしれないんだよ?だから前を向こう!ね!】
その言葉を思い出した文吉は心の中で(しっかりしなきゃ)と思いながら百々葉に言葉をかける。
「あまり思い詰めても仕方ない…亡くなった命は戻らないが結果的に巫女様が時間を稼いでくれたおかげで少なからず村人は救われたし俺達も村人から聞いてすぐに現場にこれた…モノノケは憎いけど…前を向こう。」
「そうだよ!巫女様のおかげで助かった命があるんだから!そういえば巫女様のお名前は?」
君丸がそう言うと、百々葉は立ち上がり、泣くのを堪えて、二人に感謝を伝える
「百々葉…百々葉よ。さっきは二人とも助けてくれてありがとう。でもしばらく一人にさせて。」
そう言うと百々葉は家の残骸などを見ながら、一人で俯いていた。それを見て、文吉はまた、自分と重ねてしまっていた。七年前、自分がモノノケ相手に何もできずに、ただ泣くことしかできなかった。そんな自分と今の百々葉を重ねてしまっていた。百々葉さんの状況と自分の状況は似ている。似た経験をした自分は何か百々葉さんに声をかけられたんじゃないかと、そう思っていた。
「百々葉さん大丈夫かな?とりあえず他の村人の安否を確認しないと!文吉!行くよ!」
君丸も同じようなことを考えながら、とりあえず村人の安否を確認しないといけないと思い、文吉に声をかけた。
「…………………あ、あぁ。」
文吉はモノノケに対しての憎い気持ちや百々葉さんの受けている状況に同情する気持ちなど、複雑な気持ちを抱えながら、少し遅れて、君丸の言葉に反応した。
奥の方に行くと村人達が集まっていた。村人が自分達に気づくと近づいてきて。
「ありがとうございます!ありがとうございます!おかげで命拾いしました!このご恩は決して忘れません!」
「お礼は俺達だけでなく百々葉さんにも言ってあげてください。今は一人にしておいたほうがいいですが、あの巫女様がいなかったらもっと被害が出ていました。」
文吉は俺達だけの力じゃないと、説明すると、痛みを和らげるため、ちょうど良さそうな岩に座った。そして君丸が。
「文吉!今伝書鳩で城に知らせを送ったよ!多分数時間ぐらいで来ると思う!」
君丸はこの村は焼き払われて、もう住めないと思い、とりあえず村人達を安全な城下町に避難させるために城下町に伝書鳩で護衛をお願いするよう、知らせを送ってくれていた。その言葉を聞いた文吉は。
「あぁ!わかった!皆様もうじき、護衛の部隊が来ますのでひとまずは城下町に行ってください。あそこは一番結界も強く安全です。」
「あぁ何から何までありがとうございます!」
「護衛の方々が来られましたら俺達は旅の続きに行きます。あっそうだ、酒呑童子というモノノケについて何か知りませんか?俺達そのモノノケを追っているんです。」
「酒呑童子ですか、確かに最近よく耳にしますなぁ、そういうことでしたら百々葉様が一番よくご存知のはずです。後で聞いてみてはいかがでしょうか?」
「その必要はないわ!」
どうやら話を聞いていたらしい百々葉が話に割って入ってくる。それを見た君丸が、心配そうに言葉をかける。
「あっ!百々葉さん!もういいんですか?」
「えぇ、心配かけてごめんなさい。今の話聞いていました。その酒呑童子について少し情報を持っています。あと、さっきは本当にありがとう…おかげで助かりました。それで良かったらなんだけど、私もあなた達の旅に同行させてくれないでしょうか?助けてくれたお礼がしたいんです。」
それを聞いた文吉が少し心配そうに言う
「いいのか?それに失礼だけどもさっきは助かったが戦えるのか?」
「本当に失礼な人ね、巫女になる前は武士になりたくて武者修行してたから多少の剣術の心得はあるし、巫女が使う術も使えます。足手纏いにはならないわ。それに酒呑童子の話だけど、私は酒呑童子にゆかりのある場所を知っています。だから同行させてくれないかしら。」
文吉は百々葉の圧に負けて承諾する、そして村人達にお願いをするのであった。
「そこまでいうなら、是非お願いしたい。皆様すいません、巫女様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ちょっと!人を物みたいに言わないでください!失礼な人ね。」
その言葉に少しムッとしたのか頬を膨らませ、そっぽを向く百々葉。
「命の恩人様のお願いとあれば仕方ありませんなぁ、百々葉様今まで村を守っていただき村人一同感謝致します。」
そんな百々葉に対して村人達は今まで守ってくれたことに対してお礼をする。それにちょっと戸惑いを見せる百々葉
「ちょっと頭をあげてください!こっちこそごめんなさい、最後まで村を守れなくて、巫女失格ね。」
「そんなことはございません。百々葉様はとても立派に巫女を務めてくれました、感謝致します。」
それにまた困った表情をする百々葉。ちょっと申し訳なさそうにしながらも、お辞儀をする。一方その頃文吉は傷の手当をしていた。
さすがに初の大型のモノノケ退治だったため、力の差や、初めてのことに対する適応能力、大型との戦い方などを色々手間取ったため、文吉は自己反省をしながら、強くなったって言ってもまだまだ足りないと思いつつ、もっと強くならなきゃと心に刻むのであった。
そんなこんなしている間に護衛の武士達がやってきた。
「伝書鳩にて状況は把握しております。この者達を城下町まで護衛すれば良いのですね。」
「はい、よろしくお願いします。」
と、君丸が深くお辞儀をする。
「しかし文吉殿と君丸殿が旅に出て早々大型のモノノケを退治するとは見事でござる。洞山様も鼻が高いでしょう。」
それに対して君丸はちょっと暗くなりながら下を向き。
「でも村人全員は守れなかったけどね……」
その言葉を聞いた百々葉も君丸と同じように下を向いて落ち込む。
「……………」
そんな二人を見た、文吉は二人を鼓舞する
「もぉ、また暗くなるなよな、君丸といい百々葉さんといい!前を向け、前を!俺達は酒呑童子を倒すんだぞ?約束したろ?」
「そうだよね、前向かなきゃだよね、よし。」
「そうね、しっかりしなきゃよね。」
二人は文吉の言葉に力を貰い、何とか自分を奮い立たせた。少しはいい顔になったかなと思った文吉は護衛の武士に言う
「では村人達をお願いします。」
「お任せくだされ」
護衛の武士達と村人達を見送った後少し休憩して文吉達も村を後にする
時刻はいつの間にか日も落ちてきた頃。
「もう夕刻だね。これ以上は暗くて危ないし、ここら辺で野宿しようよ、文吉。」
「そうだな。そうしよう。」
「そういうことなら私に任せてください。」
そう言うと百々葉は印を結び、神力を集中させるとそれを解放した。何をしたのか分からなかった君丸は百々葉に疑問を問いかける。
「え?今…何したの?」
「ここに簡易結界を貼りましたの。低級のモノノケぐらいなら、弾き返しますわ。」
「そんなことできるんですね!巫女の術ってすごいんだなぁ!」
「ま、まあ巫女ですもの。」
巫女の力に驚く君丸と照れくさそうにしながら髪をくるくるしながら照れを隠している百々葉。文吉は君丸の肩を叩きこう言う。
「モノノケ以外にも注意することはある、君丸忘れたのか?」
そう言われた君丸は手をポンっと叩き洞山師匠の教えを思い出していた。
「そうだったね、外ではモノノケ以外にも人を襲って金品や荷物を盗む盗賊だっているもんね師匠の教え!」
「だから交代しながら見張って夜を越そう。とりあえず晩飯にするか、君丸は焚き火の準備を、俺は食材を集めてくる、百々葉さんは今日色々あって疲れているだろうから休んでてくれ。」
その提案に少し反論したいかのように百々葉は文吉に待ってと止める
「文吉さん、そんな傷では体に痛みます。私にだって、食材集めぐらいはできますから文吉さんはちゃんと休んでください!」
「そうだよ文吉!そんな怪我じゃ危ないよ!準備なら僕達に任せて休んでて!」
「そうか…悪いな。」
君丸と百々葉は互いに野宿の準備を進めていた。文吉は少し休もうと木にもたれかかっていた。そして完全に夜になり、野宿の準備ができた。
君丸が百々葉の取ってきた山菜と荷物から他の食材を出して、焼いていく。そして晩御飯の準備ができて、三人は合わせて食材に感謝しながら食べ始めた。そして食べている途中、百々葉が二人のことを聞いてきた。
「ねぇ?貴方達はなぜ、あの酒呑童子を追っているの?何か特別な理由があるの?」
二人は少し考えた後君丸が喋った。
「んー、僕達の故郷はね、酒呑童子の一味に滅ぼされたんだ…。僕達二人はその村の最後の生き残りでね。それでいつか必ず倒そうって文吉が言って、いっぱい、いーっぱい修行して、今日、酒呑童子を倒す旅に出たんだ。」
「ごめんなさい。辛いことを聞いちゃったわね。配慮が足りてなかったわ。そうだったのね。」
「全然大丈夫だよ!気にしないで、そういえば三人になったからか、寂しさが減ったかも。」
それを聞いた文吉が優しい笑顔で笑いながら反応した。
「そうか、それはよかった。」
君丸は久しぶりに文吉の優しい笑顔を見てにっこりしていた。
「あぁ、そうだえっと百々葉さん、どう美味しい?」
君丸は、焼き加減どう?と言うように言った。
「えぇ、意外といけますわね、これ。美味しいわ!」
「それは、嬉しいなぁ!」
そうこうしている合間に文吉が食べ終わり。
「ふうごちそうさまでした。」
「文吉、食べるのいつも早いよね。」
早く食べ過ぎだと思った君丸がそう投げかける。思えば文吉は少年の頃の村での生活の時も、城下町での洞山師匠との生活の時も、いつも早く食べ終わっていた。君丸はちゃんと噛んでないのかなぁと思いつつ、そんなこと言うのも失礼かなぁとか思いながらいつもそこで会話が終わっていた。
「そうかな?そっちが食うの遅いだけじゃないか?」
それに反応した百々葉が鋭い一撃を文吉に言い放つ。
「ちゃんと噛まないと栄養にはなりませんよ。」
正直文吉は君丸が思っていた通り、ちゃんと噛まずにガツガツといつも食っていた。でもいつもは君丸も洞山師匠もいつも早いね〜ぐらいでその会話は終了するのだが今回は違った。几帳面で、何事にも真面目そうな百々葉がいた。百々葉から言われた言葉に文吉はクリティカルダメージを受けた。ただでさえ磯天狗から受けた傷があるというのに、と冗談混じりでそう思った。
「はい、これからはちゃんと噛むよ。」
「よろしい」
それを聞いていた君丸は百々葉さんに同意して
「百々葉さんいい事言う〜!」
と、完全に百々葉側についていた。それを見た文吉は意気投合してるなぁと心の中で思ったのであった。そんなこんなで雑談していると君丸と百々葉も食べ終わり、会話は自己紹介の話になった。文吉が。
「そういえば自己紹介とかそういうのしてなかったな。」
「そういえばしてませんでしたね。そういうのすっかり忘れてました。」
と、百々葉もここまで雑談していたのにすっかり忘れた様子だった。
「じゃあ改めて俺の名前は文吉、歳は十九だ。君丸とは幼馴染でずっと一緒にいるんだ。君丸が話していたが、村を滅ぼした酒呑童子を倒すため、酒呑童子を追っている。よろしくな。」
「改めまして僕の名前は君丸…。歳は文吉と同じの十九で、文吉も言ってたけど文吉とは幼馴染。よろしくお願いします…。」
「私は百々葉、見ての通り巫女をやっています。歳は二十です。よろしくお願いします。一応巫女の術以外にも剣術と体術もできるわ。」
「なんだ、歳近めなのか、じゃあ気軽に呼び捨てで呼んでくれ。それにそういう堅苦しいのは苦手なんだ、気軽にして欲しい。こっちも呼び捨てで呼んでいいか?」
「まあいいですけれど。それじゃあよろしくね。文吉、君丸。」
文吉の言葉に若干戸惑いはしたが、承諾する百々葉。
「僕は慣れないから百々葉さんって呼ばせて貰います。よろしく。」
自己紹介も終わり、一層距離が縮んだ三人これからは三人で旅をする。君丸も少し寂しさも消えて美人な巫女様が仲間になって嬉しそうだった。
「とりあえず軽く自己紹介は終わったし明日に備えて寝ようか、酒呑童子の話については明日の道中に話そう。夜の見張りくらいは俺でもできるから最初は俺が見張るよ。」
「ありがとう!」
「悪いわね。」
第三章、仲間との絆
こうして二人から三人に増えて、最初の朝を迎える。君丸が百々葉を起こす。
「百々葉さん起きて〜!朝だよ!」
君丸の声に反応した百々葉がゆっくりと目を覚ます。小さくあくびをして、文吉がいないことに気づく。
「おはようございます。……?あれ、文吉は?」
「あぁ〜えっと、止めたんだけど…文吉なら朝の鍛錬しに、向こうに行っちゃった。」
それを聞いた百々葉はまだ傷も癒えていていないのになぜそう無理をするのかと思っていた。そこに鍛錬を終えた文吉が戻ってくる。
「おっ百々葉も起きたか。」
「おはようございます。文吉?まだ傷も癒えてないんだから鍛錬するにしても無理はしちゃダメですからね?」
「あぁ、わかってるよ…ちゃんと抑えめにやってたよ。」
文吉はちょっと不満そうに呟く、まあ傷が癒えていないのは本当のことだからぐうの音も出ないのだが。
「それじゃあ、ちゃちゃっと朝食とか済ませて早速百々葉のいう場所に向かおうか。」
それに二人とも頷く
朝食を食べる三人、文吉は百々葉からの圧が込められた目線に気づきながらゆっくり噛んで食べる。文吉はそんな目で見なくてもちゃんと噛んで食べるよと言う態度でしっかり噛んで食べていた。それを見た君丸は微笑ましく見ながら食べていた。そして朝食を食べ終わって、文吉が二人に声をかける。
「じゃあ向かおうか。」
そこに百々葉が提案をする。
「それなんだけど途中で集落に寄っていい?目的地へは結構な時間がかかるの。だから途中で集落に寄って、色々買い足さないと。」
「わかった。君丸もいいよな?」
「うん、大丈夫だよ。」
二人とも承諾して三人は途中で集落に寄ることになった。そして道を歩いている道中、文吉が昨日百々葉が言っていた酒呑童子の情報について、百々葉に問いかける。文吉にとってはそれが一番気になっている情報だった。
「早速で悪いが、酒呑童子について知ってるって言ってたよな、聞かせてくれないか?」
「えぇ知っていますよ。鬼仙崎神社っていう、今は朽ち果てているんだけど、そこは酒呑童子が生まれた場所だと言われているの。」
突然の驚きの情報に思わず君丸は声を溢した。
「あの酒呑童子が生まれた場所……。」
「えぇ、今の時代の教えでは、モノノケは人の想いや悪い邪な想いがたくさん集まってできたと言われているけど、酒呑童子は違うと言われているの。」
「酒呑童子は人が非人道的な儀式を行なって、人為的に生み出されたモノノケだと言われているのよ。」
驚きの情報の数々に思わず混乱する二人、酒呑童子が人が人為的に作ったってだけで驚きだった。そこに君丸が疑問を投げかける。
「初めて聞いたけど、どうして百々葉さんはそんなことを知っているの?」
百々葉は少し考えた後、まあこれから一緒に旅をする仲間だし、話してもいいかと思い、口を開いた。
「それは私がその鬼仙崎神社がある村の遠い遠い子孫だからよ。村はもう千年以上も前に無くなっているけど、戒めとして代々教えられてきたの。昨日の村の住民もほとんどそのことは知らないのよ。」
続けて百々葉は喋る。
「鬼仙崎神社がある村までは最低でも一週間以上かかるの。だからここから数日行った先にある集落でちゃんと準備をしないとね。」
こうして、三人は先に集落に寄ることとなった。君丸と百々葉は文吉の傷を労りながら、ゆっくりと歩いた。その道中も低級のモノノケ達が立ちはだかり、君丸と百々葉は文吉にあまり戦わせないために前線に立ち、モノノケ達を次々とやっつけていく。文吉は二人に申し訳ないなと思いつつも、今の俺じゃそりゃ足手纏いかと思い後方から二人を見守りながら二人が取り逃したモノノケを退治していた。そんなことを繰り返して三日が経った頃、道の奥に何やらモノノケではなく人に襲われている、商人を発見した。三人は猛ダッシュで止めにいく。どうやら盗賊が商人の荷物を盗るために襲っていたようだ。君丸は
「文吉は、商人を守って!ここは僕と百々葉さんで戦う!」
「わかった。気をつけろ!」
盗賊の数は五人、対してこっちは君丸と百々葉の二人、五対二だが、君丸と百々葉は盗賊達の攻撃をひらりとかわしながら気絶させていく。
君丸は百々葉さん大丈夫かなと心配していたが、心配は無用だったようだ。百々葉は体術で盗賊の攻撃を受け流して簡単に気絶させていた。君丸はそれを見ながら、百々葉さん強くて美しくてすごいなぁと思いながら盗賊の攻撃をかわして気絶させた。
二人は怪我もなく、簡単に盗賊を全員気絶させた。助けた商人がお礼を言うと、百々葉が護身用にお札を何枚か渡し、商人は走っていった。そして三人はこの盗賊達はどうしようかと思ったがとりあえずこれに懲りたら悪さはしないだろうと思い、念の為の警告の文だけ書いて集落を目指した。
そして夜、いつものように野宿して、ご飯を食べていた時、君丸が今日の百々葉の体術を見て、問いかける。
「そういえば今日の盗賊との戦いの中で思ったんだけどどうして百々葉さんって体術できるの?村の時に武者修行もしてたとは聞いてたけど、そこのところ気になるなぁ。」
すると文吉も君丸の意見に同意し、
「そういえばそうだな、巫女なのに武士になりたかったってところも気になるな。」
百々葉は少し言いずらそうにしながら自分で言った話だしと思い、過去の話をする。
「私の父ね、武士だったの。それで六歳の頃かしら、そんな父に憧れて武士になりたくて、剣術とかを独学でひたすら練習してたの。そんな時、他の子に《女は武士にはなれない》ってバカにされてね。だったら見返してやろうとさらに張り切って稽古してたの。その時に刀がなければ戦えないと思って体術の修行も始めて、それでもバカにしてくる子はいたけどそんな日々を三年ぐらい続けてた時に神社の神主さんに言われたの。私には巫女になれる才があるって、最初は断ったんだけど、武士よりも強くなってみんなを守れるならと思って巫女になる修行を始めたの。それで今に至るわ。だから私は巫女の術も剣術も体術も使えるのよ。」
二人はずっと黙ってそれを聞いて、百々葉も色々大変だったんだなぁと深く思った。そして百々葉は二人にも問いかける。
「二人は前にも聞いたけど酒呑童子に村を滅ぼされた後、洞山って人のもとで修行してたんでしょ?その話聞きたいわ。」
文吉と君丸は二人で頭を悩ませた後、難しい顔をして、口を開く。
「俺達はなぁ、もうただひたすらにずっと修行の毎日だったからなぁ、特に話せそうな変わった話はないかなぁ。」
「あっでもちょっとだけならあるよ。修行の中でモノノケとかについて学ぶ普通の勉学の勉強とかもあったんだけどね。文吉ってばいっつも頭かきながら《わかんねぇ!》って言ってたよ。」
「それは変わった話か?」
文吉は少し不満そうにしながら君丸にちょっかいをかける。
「後はそうだね、洞山師匠は僕達がたまに故郷でのことを思い出して落ち込んでいたり、喧嘩して暗くなったりしてるといつも笑わせようと色んなことをしてくれたんだ!」
そう言うと君丸はいつも洞山師匠が言っていた寒いギャグやダジャレの数々を百々葉に説明した。三人は時には笑いながら、時には真剣に話しながら、その日は寝るのが遅くなるぐらい会話が盛り上がった。この日の三人の周りには暖かくて明るい空気が漂っていた。
そしてさらに一日が経った頃、目的地の集落に辿り着いた。
「ちょっと時間がかかっちゃったわね、ついたわよ。」
文吉は辺りを見渡すと結構な人の数と家の数々を見て口を開く
「結構でかい集落なんだな。」
「文吉。傷はどう?」
君丸が文吉に問いかける。
「ん?だいぶマシになってきたし、もういつも通り動けるぞ?」
それを聞いた百々葉が少し引いたように心の中でこの人おかしいんじゃないかしらと思いながら、空を眺めて口を開く。
「ちょうど夕刻だし、ここで宿があればいいのだけれど。」
そこに君丸のお腹が鳴る、咄嗟に恥ずかしそうにしながらこんだけでかい集落なら飯が食べられるところがあると思い、呟く
「お腹も空いたし、食事処があるといいんだけど。」
そんな三人を見つけ、近づいてくるお爺さんがいた、お爺さんはお辞儀し、三人に声をかける
「これはこれは、遠路はるばるようこそお越しくださいました。旅の途中ですかな?ここでゆっくりして行ってくださせぇ。」
三人は親切なお爺さんにお辞儀して、君丸がお爺さんに質問をする。
「わざわざご丁寧にありがとうございます。お爺さんここって宿とかあるかな?」
「えぇありますよ。私についてきてくだされ。」
お爺さんに連れられて、集落の中をどんどん進む三人、ここの集落は今まで見てきた中で一番大きく、人もとても多かった。お爺さんの話ではここは約千人が暮らす集落で、みんな平和に過ごしていたはずなのだがその話をする時にお爺さんは少し口をもごつかせた。それに三人は疑問に思ったが、集落はとても広く、とても賑やかだった。三人は今日のご飯の話やお爺さんと話しながら、宿屋に着いた。
「ここです。旅の一行様、明日になったら、向こうにある屋敷に来ていただけませんか。見たところお強そうだ。頼み事があるのです。」
そう言うとお爺さんは向こうにある一際でかい家の方を指差し、そう言った。
「わかりました。明日になったら伺います。」
文吉がそう言うとお爺さんは感謝して向こうへと歩いていった。
「頼み事ってなんだろうね?」
そう言うと文吉が疲れた声で
「今はわからないがとりあえず旅の疲れを取るか。久々に野宿じゃないしな。」
「今日は安心して眠れそうね。」
そして三人は宿屋に荷物を置いて村人に聞いて、ご飯が食べれる食事処に行きご飯を食べた。そして食べ終わって、早々に宿屋に戻って、眠りについた。三人、特に君丸は久しぶりのちゃんとした寝床ですぐに寝てしまった。文吉はさっきのお爺さんや集落の人達の顔が少し暗く怯えている様子なのを感じとり、少々考え事をしながら眠りについた。百々葉もそれを感じ取っていたが、とりあえず考えていても疲れは取れないと思い目を閉じた。
そして、三人が眠りについた頃、場所は変わってとある朽ち果てている古い城、そこにはアジトを移動させた酒呑童子とその部下達、そして、酒呑童子と同じぐらい体格に恵まれている白髪の大柄な鬼がいた。酒呑童子がその白髪の大柄な鬼に向かって言葉を放つ。
「茨木童子よ」
「はっ!何用でしょうか我が主。」
この白髪の大柄な鬼の名は茨木童子、酒呑童子と同じように大柄で引き締まった体格をしており、白髪の髪は不気味な程に美しく、額には一本の巨大な黒いツノ、そして灰色の体に、鋭い爪、そして鋭く細い目、腰には刀を携えており、剣術もできるようだ。そしてその茨木童子に、酒呑童子は問いかける。
「お前から見て、我はどう見える?」
その問いに茨木童子は少し悩みながら、言いづらそうにしながら、口を開く。
「とてもお辛そうに見えます、そしてとても苦しそうにも……。」
「何千年と生きて、我はもう疲れた…いつまで続くのだろうな…」
そう呟く酒呑童子、酒呑童子は拳に力を込めて城の壁を壊した。それを見て茨木童子は悲しそうな目をしながら呟いた。
「酒呑童子様……」
「すまないな…茨木童子…下がってくれ…」
「はっ!」
茨木童子は部下達を連れて、下がった。酒呑童子は一人で夜空を眺めていた。満点の星空を見ながら、自分が生まれた頃のことを思い出しては、その時のことで怒りを感じていた。そして酒呑童子は何千年と生きていて、もう自分の願いも想いすらも見失って、それはこの先もずっと、願いや想いもなく、ただ平然と村や集落を襲うことに疲れていた。そして、ずっと変わらないこの日常に嫌気がさし、この先も永遠と同じことを繰り返すのが怖く、絶望した。だが酒呑童子自身にもわからなかった。自分が本当はどうしたいのか、どうなりたいのか、何もわからないままだったからだ。ただ一つあるとすればこの何の変わり映えもしなくただ生きることに疲れた私を誰かが殺してくれることぐらいだった。そんなことを思いながら、酒呑童子は立ち尽くしていた。
そして場所はまた変わって、文吉達が宿を取っている集落、朝になり、文吉は目を覚ましていた。久しぶりにぐっすり寝れた文吉は腕を伸ばし、君丸と百々葉の方を見る。二人はまだ起きていないようだ。それにしても文吉はいつも君丸の寝相の悪さに逆に感心を覚えていた。そして一足先に少し鍛錬をしに身支度を整えて、走りに行く。そして、走って、帰ってきた頃に百々葉も目を覚ました。
「あら、文吉、早いわね。鍛錬していたの?」
「あぁ、君丸はまだ起きてないみたいだな。」
「まあ、もう少し寝させてあげましょう。」
そう言いながら百々葉は身支度を整えて、文吉も昨日お爺さんに言われた屋敷に向かうための準備をしながら君丸が起きるのを待っていた。そして百々葉と文吉が全ての準備を終わらせた頃、君丸はと言うと………未だに熟睡していた。文吉と百々葉は、流石に寝過ぎじゃないと思っていた。昨日もいち早く、最初に寝ていたのに未だにおかしな寝相で熟睡していた。流石にこれ以上は待てないし、文吉は君丸を揺さぶりながら、君丸に声をかけた。
「おーい!君丸起きろ〜!」
「zzz」
「きーみーまーるー!」
さらに大きな声で、そしてさらに力強く揺さぶりながら起こそうとするが、君丸は一向に起きようとしない、起きそうな素振りを見せることもない。文吉は頭を悩ませた。そこに百々葉が。
「完全に熟睡してるわね………」
どうやら百々葉も同じ気持ちらしい、
「どうしたもんか……。」
文吉は悩みながら声を溢す。
「ここは私に任せてちょうだい。」
百々葉がそう言うと指を鳴らし君丸に近づくと大きな声で
「起きなさい!君丸!」
と、言って、思いっきりお尻を叩く。そのお尻を叩いた音を聞いた文吉は、おいおい叩いて出る音じゃなかったぞ…と心の中で思い、君丸に同情した。そしてあまりの声と痛さに君丸が起きる。
「いっったーーーー!!なになになになに!?」
「あっ起きたか……」
お尻の痛さにヒリヒリしてお尻をさすって、涙を浮かべながら文吉の方を見る君丸。
「あぁおはよう文吉……」
そして自分の隣を見て、不気味なほどに満面の笑みを浮かべる百々葉さんを見て思わず恐怖を覚える君丸。
「と百々葉さん…何?なんでそんな笑顔なの?!」
それに対して百々葉は冗談混じりにまた指を鳴らしながら手のひらをさすりながら笑顔で言う。
「いやいや?全然笑顔じゃないですわよ?それよりまだ寝ぼけているならもう一発お見舞いしようかしら?」
「いえいえ大丈夫です。………怖い…」
君丸は百々葉の強烈な一撃を思い出し、恐怖を覚え、急に縮こまる。そして文吉は今の一部始終を見て、百々葉は怒らせると笑顔で怒ってくるんだな、怖いな。強い女性というのはこういうことを言うのか、これからは百々葉を怒らせるのはやめておこうと心に誓うのであった。そして百々葉が笑顔で君丸に話しかける。
「身支度整えたら早速屋敷に向かうわよ!君丸?支度が済んでないの貴方だけよ?お早くね?」
「は、はいぃぃ!」
君丸は大急ぎで身支度を整える。文吉はその光景を見て慌てすぎだろと一瞬思ったが、まあ百々葉のあの笑顔を正面から見たら流石にそうなるかとも思いつつ、気長に待った。百々葉もやれやれという感じで君丸を待った。
そして君丸が身支度を終えて、三人は宿屋を出て、昨日お爺さんが言っていた屋敷に向かうのであった。屋敷の入り口に行くと、昨日のお爺さんが笑顔で待っていてくれた。そして挨拶をするとお爺さんが声をかける。
「皆様ようこそおいでくださいました。よく寝れましたかな?」
その言葉に思わず苦笑いする君丸と君丸の方をチラ見する文吉と百々葉。そして文吉が本題に入る。
「それで頼みというのは?」
お爺さんは下を向きながら、悲しげに喋り出す。
「はい…最近この集落では失踪が相次いでいるのです。」
「し、失踪?」
文吉が思わず口に出す。
「はい、かれこれ二十人にもなります。」
「二十人……多いわね。」
お爺さんは少し歩き、文吉達が来た入り口とは反対方向にある入り口の方を指差して
「あそこから先にある道を行ったものだけがいなくなってしまっているのです。」
「なんらかのモノノケの仕業だろうな、まず間違いなく。」
文吉は毅然とした態度で、はっきりと確信する。君丸も話を聞いてそうだよねと言いながら頷く。そしてお爺さんは頭を下げて文吉達に頼み込む。
「お願いします。失踪の原因を突き止めていただけませんか?」
「そういうことなら俺たちにお任せください。必ずや突き止めて見せます。」
文吉がそう言うと百々葉が文吉と君丸に向かって
「こういうのは早い方がいいわ。早速いきましょう。」
と、促す。
二人は頷き百々葉の後に続く。お爺さんは三人にお辞儀して。
「ありがとうございます。お気をつけて!」
と、屋敷の前で見送った。
三人はお爺さんに言われた入り口を通り、道を進む。山道をどんどんと進んでいく三人。すると君丸が口を開く。
「今の所特に変化はないね。」
君丸がそう言うと、文吉が。
「油断は禁物だぞ。モノノケは姑息でずる賢い、集中していこう。」
「そうね、油断してるとすぐにやられてしまうわ。」
そう言いながら山道をさらに進むと奥から人影が見えてきた。どうやら女性が道に倒れていた。
「ねぇ、あそこ……女性が倒れてるよ!?助けなきゃ!」
咄嗟に君丸は早く助けなきゃと、女性を助けようと走り出そうとするが百々葉に止められた。文吉も道端に倒れている女性に不自然な違和感を覚えていた。
「君丸……待って、あの女性からはモノノケ特有の邪気を感じる。」
三人の声に反応した女性が奇妙にくねくねしながら立ち上がりながら言う。
「なんだ……巫女がいたのか……そのまま気づかなかったら苦しまずにあの世に行けたのに……フフフフフ。」
女性がそう言うとその女性は人間の姿から徐々に姿を変え、大きな動物のような姿へと変貌を遂げる。
「なるほど、人間に化けてたってわけか。」
「このモノノケは狐?」
「このモノノケは特徴から見るに玉藻前!」
四足歩行になり、後ろには大きな九本の尻尾、顔は鋭い嘴のように細長く変形し大きな狐の耳を生やし、口からは何やら煙を出している。体は大きく細長く、四本の足はとても筋肉質で爪はどんなものでも斬り裂けるように鋭い。そして玉藻前は百々葉の言葉に反応し。
「あら?妾を知っているのか?フフフフフ!」
「2人とも気をつけて!玉藻前はモノノケの中でも上位に匹敵するわ!そして玉藻前が吐く玉には絶対に当たらないで!」
「わかった!上位だろうがやることは変わらない!行くぞ!君丸!百々葉!」
二人が頷き、三人は構える。玉藻前は高らかに笑うと口から青い閃光の玉を吐き出した。三人はバラバラにその玉を避ける。文吉と君丸は挟み撃ちにし両端から斬りかかる。玉藻前は華麗に体を捻って回転させ二人の攻撃を弾き返す。百々葉はその回転した後の隙を狙って一本の足に神力を込めた一撃をお見舞いする。それによれついた玉藻前に対し文吉と君丸は順調にダメージを与えていく。玉藻前は軽快にバックステップをし距離を取ると大きく息を吸い込みさっきの倍はある青い閃光の玉を打ち込んだ。三人は避けきれないと思ったが、百々葉が印を結び、強力なバリアを展開し、左右に逸らした。三人は玉藻前が呆気に取られている隙に距離を詰め攻撃をする。百々葉が神力を纏わた拳を玉藻前の脳天にくらわす。玉藻前は少し後退りし前足二本で百々葉に斬りかかろうとする。それを刀で逸らす文吉と君丸。玉藻前はさらに前足二本で爪を立てて、さらに攻撃する。文吉と君丸は刀でその攻撃を受け流していく。玉藻前の猛攻に文吉達は防戦一方だった。そして玉藻前の力を込めた前足の蹴りに二人は吹き飛ばされる。玉藻前はそれでも立ち上がる二人に対して上から目線に言葉を発する。
「フフフフフ!人間のくせにやるではないか!」
「くっ!」
「文吉!大丈夫?」
「どうしてだろう、こんなに劣勢なのに、三人でいると全く負ける気がしない!」
そんなことをしている合間に後ろで神力を溜めていた百々葉が二人に言う。
「二人とも目を瞑って!」
百々葉の両手から眩しい光の波動が出て、玉藻前は咄嗟にガードしようとするが間に合わず、玉藻前に直撃する。すると玉藻前は目が見えなくなり、叫びを上げる。そして玉藻前は暴れ出し、無差別に周りに攻撃する。文吉と君丸はその無差別攻撃をかわしたり受け流したりしながら着実にダメージを与えていく。玉藻前はどんどんダメージを負い、声を溢す。
「くぅ〜ちょこまかと!」
さらに暴れ出す玉藻前、百々葉が神力でお札を作り出すのを見た文吉と君丸は玉藻前の攻撃をかわしながら前足の二本を攻撃して玉藻前の体勢を崩し、百々葉はその体勢を崩した玉藻前の頭にお札を貼り、玉藻前の動きを一時的に痺れさせ止める。百々葉が。
「今よ!二人とも!」
と、言うと二人は力を最大限に込めた素早く鋭い重い一撃を玉藻前に喰らわせた。
「ヴァアアアアアアアアアアアア!妾が!妾が!ガアアアアアア!」
玉藻前は断末魔をあげる。玉藻前は足掻いて口から青い閃光の玉を放ったが的は外れて玉藻前は煙と共に粒となって消えた。
三人は息を切らしながら声を溢す。
「最後はあっけなかったな。ふう」
大きな怪我もなく勝った三人は少し休憩し、お互いにハイタッチをした。
「とりあえず報告に戻ろうか。百々葉さん!超お手柄だったよ!」
「もうそんなこと言っても何もでませんよ?」
君丸が褒めるも、百々葉は少し照れくさそうにしながら髪をくるくるして照れを隠す。
「それに仲間なんだから当然でしょ?」
その言葉を聞いた文吉と君丸は笑顔で頷く。すると君丸が。
「なんか絆が深まった気がするね!まだ出会ったばっかりなのに!」
「ふっ。そうだな。」
こうして三人は来た道を戻り、集落に帰ってきた。
屋敷にいるお爺さんに今回の失踪の原因について説明をした。
「お爺さん………玉藻前というモノノケが道中にいる人を人間に化けて騙し、食っていたようです。俺たちが倒しましたので、もう失踪事件は起きません。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!なんとお礼を言ったらよいか……。」
お爺さんは深く感謝し、周りで事の顛末を聞いていた集落の人々も安堵し、三人にお礼を言った。
「いえいえ!そんなそんな、でもこれで一件落着かな。」
君丸がそう言うと、百々葉も。
「そうね、私達も旅の準備をしたら目的地に向かいましょう。」
それを聞いたお爺さんが旅の準備なら我々が無償で提供しようと三人に提案するが、流石に申し訳ないと思い、文吉は断った、それでもお爺さんや集落の人にせめて安くさせてくださいと頼まれ、その圧に、これで断るのも失礼だよなと思った文吉達はお礼を言って旅の準備の買い出しをした。そして、大きな怪我をしてないとはいえ、傷はついたし、戦いに疲れたのでもう一日この集落で休んでから旅に出ることにした三人はもう一度宿屋に泊まった。そして朝になり、今度は君丸もちゃんと起き、百々葉の尻叩きを回避しつつ、三人とも身支度を整えて、入り口でお爺さんを含め多くの集落の人から見送られ集落を後にするのであった。
第四章、変なモノノケとの出会い
一方その頃酒呑童子から命を受けた茨木童子は鬼仙崎神社の中で座りながら、酒呑童子様の事について考えていた。私は酒呑童子様の苦しみや悲しみをどうにかしてあげたい、だがそれは同族の鬼である私では解決できる問題ではないこともわかっていた。以前酒呑童子様から聞いた数年前に生かした子供の話を聞いた時も酒呑童子様は少し期待の眼差しはしつつも声はとても悲しそうだった。私はどうにかして酒呑童子様の悩みを解決してあげたかった。だが何も解決策はなくずっと茨木童子は悩んで頭をかきながら考えていた。
一方その頃、集落を後にした文吉、君丸、百々葉の三人は目的地の鬼仙崎神社がある村に向かうため道沿いを歩いていた。ここで文吉が百々葉に問いかける。
「百々葉、目的地の鬼仙崎神社までは後どんぐらいだ?」
「そうね、ここまでの道のりを考えると、まだ一週間以上はかかるかしら。」
「集落でいっぱい買い足しといてよかったね。これで結構保つと思うし。」
一行はそんな会話をしつつどんどん先に進んでいく。他愛のない会話をしながらたまに襲ってくる低級のモノノケ達を退治しながら進んでいく。そして集落を出て、三日が経った頃、奇妙な出来事に遭遇する。
なんと低級のモノノケ達が子供を襲っていたのだ。
それを見た三人は低級のモノノケを退治して、子供を助けた。そしてモノノケを退治した後、文吉は子供の方に目を向け驚愕した。
姿こそは子供のような見た目だがところどころに人間とは思えないものがついている。身長は子供のように小さく、編笠をしており、顔は整ってはいるが、耳が人間とは違って尖っており、肌の色は少し肌色よりかは濃く、手は人間と同じ、服はボロボロの布を身に纏っている。そして目は大きくまんまるであった。文吉は咄嗟に構えるが、百々葉に止められる。
「文吉待って、この子からはモノノケ特有の邪気などは感じないわ。」
「だけどモノノケだろ?退治した方が……」
そこでその子供のようなモノノケが口を開く。
「えっと、確かに僕はモノノケだけど、悪いモノノケじゃないの!信じて!僕の名前は座敷童子!」
それを聞いた百々葉が思い出したように口を開く。
「聞いたことがあるわ。基本的にモノノケは人の悪い想いなどから生まれて、その邪悪な想いが形となることで凶暴なモノノケになる。それに対して、いい想いや祈りからは神様などが概念となって生まれるんだけどごく稀にそのいい想いからもモノノケが生まれることがあるって。」
「じゃあつまりこの座敷童子って子はいい想いから生まれたってこと?」
君丸がそう言う。文吉は百々葉の話を聞いて妙に納得し刀を鞘に納める。そして少し考えて悩みながら疑問をその座敷童子に投げかける。
「じゃあお前はなんでモノノケに襲われていたんだ?想いの生まれ方は違っても同じモノノケなんだろ?」
座敷童子はその問いに答える。
「僕達座敷童子はその巫女様が言ってくれたように人の優しい想いなどから生まれます。そして僕達はその人間の気持ちに応えたくて、人間に元気を与えたり幸福にする力を持っているんです。でもそれは他のモノノケからするとよく思わないみたいで、それに僕達はモノノケですけど、他のモノノケとは違う力を持っているので他のモノノケからは嫌われているんです。本当は僕の他にも仲間が数人いたのですが、道の途中で悪いモノノケだと勘違いされて武士にやられてしまいました……。そこから必死に逃げていたら、他のモノノケに遭遇してしまい、危うく食べられるところだったんです。」
三人は真剣に座敷童子の話を聞いていた。
文吉は、本当に良いモノノケがいるのかと最初疑心暗鬼になっていたが、話を聞く限り悪い感じではないし、他のモノノケとは違い、話もちゃんと通じる。そしてその話に納得もした。文吉は信じることにした。
君丸も文吉と同様に良いモノノケがいるなんて信じられなかったが、今実際に会ってちゃんと言葉も通じ合っているので信じることにした。
百々葉は神社の神主や他の巫女様からたまにいい想いからモノノケが生まれ人々に幸福をもたらすという噂を聞いたことはあったが実際に見るのは初めてだったので最初は驚いたが、噂は本当だったと思い、信じることにした。
そして座敷童子がお願いをする。
「あの、もし良かったらなんですけど、僕を座敷童子が住処にしている森まで守っていただけませんか?一人だと心細いし、戦えないし、他のモノノケや人間にやられてしまうかもなので。」
文吉達は少し考えた後。
「わかった、それで?その座敷童子の住処の森ってのはどこにあるんだ?」
座敷童子は地図を開いて
「ここから歩いて数日行った先に術で隠れているんですけどその森に通じる道があります。その道を行ったらすぐです!」
「まあそれなら、俺たちが目指している目的地からもあんまり外れないし、まあいいか。二人もいいか?」
二人とも頷く
そうして座敷童子に案内される形で三人は座敷童子の住処の森を目指す。
そしてどんどん道を進み、座敷童子を守りながら進み、座敷童子に出会った、一日目の夜。いつものように簡易結界を貼ろうとする百々葉だったが、座敷童子が弾き返されるんじゃないかと思い、躊躇っていると、座敷童子にこう言われる。
「僕達はあなた方がいう邪気はないので結界も自由に出入りできますし、村や集落にも入れるんですよ!僕の友達も座敷童子の住処を出て、とある村で人に幸福を分けてるって度々帰ってきて聞きますし!」
と、言うと百々葉は安心して結界を貼り、三人は座敷童子と共に晩御飯を食べた。
百々葉が座敷童子に質問する。
「えっとあなた座敷童子って言う名前以外に何か名前ないのかしら?」
「えっと特にはないです。」
それを聞いた君丸が座敷童子に近寄って少し考えながら笑顔でこう言う。
「じゃあ今日から君は、座敷童子から取って『ざっくん』!どう?」
「ありがとうございます!じゃあざっくんって呼んでください!」
「一応あなたの分のご飯も焼いたけど、人間のご飯って食べれる?」
「はい!一応食べれます!いただきます!うわぁ!美味しい!」
それを聞いた三人は嬉しそうにしながら、会話をする。ざっくんに色々質問をしたりしながら談笑していた。ざっくん曰く、ざっくん達も座敷童子の住処を出て、人に元気や幸福を与えるために、村を目指していたそうだ。そんなところに武士に姿を見られて、あとはさっきざっくんが話した通り、武士から逃げた先に悪いモノノケと出会して、危うく食べられそうになった時に三人に助けられたそうだ。三人は他にも座敷童子の住処ってどんなところなのと質問するが、それはついてからのお楽しみと笑顔で言われた。他にも会話をしながら夜を越した。
三日が経ち、もうすぐで森の入り口というところで道の奥からとてもでかい化け猫が姿を現した。尻尾が二本あり、姿は猫が巨大化したような風貌だが顔の部分が凶暴な獣になっていた。
「このモノノケは猫又ね。巨大な二本の尻尾にとてもでかい体に猫の風貌。間違いないわ。」
三人は戦闘態勢に入る。
「ざっくんはそこの木の後ろに隠れててね?」
百々葉がそう言うと、ざっくんは木の後ろから応援していた。
猫又はものすごいスピードで体当たりしてくる。百々葉はバリアを展開してその体当たりを食い止めていた。さすがの力の強さに長く持たないと思った百々葉は二人に合図して、猫又の足を斬り刻んでいく。だが思ったよりも硬くあまりダメージは与えられていない。猫又は痛みを感じたのか文吉と君丸の方にターゲットを変え噛みつこうとしてくる。二人は刀を重ね合わせて、牙を受け止める。その隙に百々葉は後ろから尻尾を掴み神力を流し込む。それに反応した猫又は叫び、暴れ出す。そしてその隙に文吉と君丸は猫又の首めがけて五月雨斬りをお見舞いする。
猫又はさらに叫ぶと尻尾を大きく振り回して百々葉を吹き飛ばした。猫又はかなりのダメージを負ったがまだ倒すには至っていない。猫又は高くジャンプすると文吉と君丸めがけて飛び込んだ。その威力は地面を崩すほどだったが、二人はなんとか避け、百々葉が後ろから体術で神力を纏わせた拳で高くジャンプし猫又の背中に重い一撃を喰らわせる。その衝撃で足を崩して倒れ込む猫又。その隙に文吉と君丸は二人で編み出した技、十字兜斬りをお見舞いする。それを喰らい断末魔をあげる猫又。
猫又は粒となって消えていく。だいぶ、モノノケとの戦闘にも慣れてきて、自分達でもここ最近の目まぐるしい成長に驚きを隠せなかった。ここ最近でさらに数倍は強くなったと実感していた。猫又を倒し、ざっくんと三人は進んでいく。もう少し歩いて、ざっくんがなんの変わりもない道の脇に止まると手を合わせて手を叩くと道の脇に道が出てくる。三人は驚いた様子でざっくんを見つめる。そしてざっくんがこっちにおいでと言うように三人を道に案内する。少し歩くと大自然に囲まれたまるで秘密基地のような幻想的な村が広がっていた。三人がぼーっとしていると、ざっくんが。
「ようこそ!僕達の村へ!ここが座敷童子の住処だよ!」
そして何やらざっくんが奥にいる小さいお爺さんのような座敷童子に声をかけるとそのお爺さんの座敷童子が三人に挨拶してきた。
「この度はこの子を助けていただき誠に感謝いたします。少しあなた方人間には小さい村かもしれませんがくつろいでいってください。」
そう言うと三人の前にとても多くの座敷童子が近寄ってきた。座敷童子達はいっぱい三人と話をして盛り上がっていた。三人も束の間の休息をここで取っていた。そして一晩ここで寝泊まりをし、座敷童子達に挨拶をすると座敷童子達から。
「ささやかではありますが、あなた達三人に幸福が宿りますように」
そう言うと光が溢れて三人の中に光が入ってくる。どうやら祈ってくれたらしい。
「みんなに幸福を分け与えたよ!僕を助けてくれてありがとう!あなた達ならいつでも歓迎するよ!またきてね!」
ざっくんはそう言うと涙を流しながら手を振った。三人も短い間ではあったが、良いモノノケとの出会いやざっくんとの楽しい旅を思い出し笑顔で手を振り、村を後にした。そして、道を少し戻り、三人は目的地の鬼仙崎神社を目指すのであった。
第五章、酒呑童子の秘密
三人は道なき道を進み、座敷童子の村を出てから五日が経とうとしていた。その間低級のモノノケ以外にも少し成長した、子供と同じぐらいの大きさのモノノケや大型のモノノケまで出てきた。三人は連日連夜戦いっぱなしであった。夜も低級以外のモノノケが出るせいで、簡易結界が役に立たず、戦いの日々を過ごしていた。
「ここ数日どんどんモノノケが増えてきたわね。もしかしたら村がモノノケの巣窟になっているのかも。」
百々葉さんの言葉に君丸は恐る恐る言った。
「百々葉さん怖いこと言わないでくださいよ〜!ただでさえここ数日モノノケと戦いっぱなしで疲れているのに。」
「あとどんぐらいだ?百々葉。」
文吉も流石に疲れた様子で言う。
「あともう少しのはずなんだけど。」
百々葉も疲れていた。そこで百々葉は母親から聞かされていた話を思い出す。
「そうだわ。確か母様が言っていたわ。目的地の村の近くにはモノノケですら寄りつかない神聖なとても良い天然温泉があるって!最近戦いっぱなしで疲れたしそこに行きましょ!」
その言葉にいつもは強気な文吉も流石に疲れたのか、それはありがたいと言いつつ、百々葉に従うのであった。君丸も賛成〜と言いながら百々葉についていく。
「一応言っておきますけど温泉入る時、こっち覗かないでよね。」
二人はそれはもちろんと言うように大きく頷く。そして文吉はこう言う。
「温泉に入れるのはわかったが具体的な位置ってわかるのか?」
「それは安心して頂戴!地図には載ってないけど、目立つ大きな山の麓って聞いてるから。」
その言葉を信じ、さらに一日歩き、モノノケの数が減っていき、お目当ての温泉についた。三人はお湯の温度を確かめるために手を突っ込む。これは良いと思った三人は岩を挟んで右側と左側に分かれて入った。君丸が気持ち良さそうな声で。
「これは最高だねぇ〜疲れが一気に取れちゃうよ〜」
「そうだなぁ〜これはさすがに気が緩んでしまう気持ち良さだ。」
文吉もいつもの強気な態度はどこへやら、とっても気を緩め、気持ち良さそうに温泉に浸かる。百々葉も岩を挟んで、
「確かにこれは最高ね〜一気に全てが回復するわ〜もしかしてざっくんの言っていた幸福ってこれのことだったのかしら。だったらざっくんに感謝ね。」
今の時刻は夜、夜空の絶景を眺めながら入る温泉はまさに天国にいるかのように心が洗われる。そして三人はしっかり温泉に浸かった後、温泉の近くで夜を越した。そして朝になって、鬼仙崎神社を目指すこと半日、ついに目的地の鬼仙崎神社がある村まで辿り着いた。
「ついた、ここよ。」
百々葉がそう言うと文吉と君丸は辺りを見渡す。村というにはあまりにもボロボロで百々葉が言っていたように朽ち果てていた。原型すら留めていなかった。そして百々葉が奥の方を指差すとそこにはこの朽ち果てている村には不自然なほどに小綺麗な鬼仙崎神社の姿があった。
君丸もその神社を見て不気味なくらいに綺麗と口を溢し、百々葉が。
「多分何かがいるんだと思うわ。二人とも構えて!」
と二人に言い、三人は構えながら鬼仙崎神社に入っていく。
村に入ってから異様な空気と大きな邪気を感じ取っていた百々葉は、息を飲みながら、邪気のする方に進んでいく。すると、奥の方から白髪の大柄な鬼が姿を現した。そしてその白髪の大柄な鬼は三人を見るとニヤリと笑い。
「ほぉ…人間か。」
と口を溢した。そして文吉は七年ぶりに見る鬼の姿に思わず怒りの声で。
「…………!!鬼!」
と叫ぶ。百々葉は、その大きな体と異様な邪気から推察して白髪の鬼に言い放つ。
「貴方、酒呑童子の部下ね!」
君丸は驚いて。
「え?酒呑童子の!?」
と声を漏らす。それを聞いた白髪の鬼が小さく笑いながら答える。
「ご明察だ、小娘、私は酒呑童子様の右腕、茨木童子だ。貴様ら何用でこんな朽ち果てた村に来たんだ?」
酒呑童子の右腕と知った文吉は、怒りを抑えつつ、でも強く、響く声で言い放つ。
「俺達は酒呑童子に村を滅ぼされた生き残りだ!酒呑童子を討つために、ここに手がかりを探しに来た!」
それを聞いた茨木童子は酒呑童子様が前に言っておられた、気まぐれで生かした二人の少年の話を思い出す。今、目の前にいるこの二人が酒呑童子様が話していた少年達だと知り、茨木童子は期待を膨らませながらニヤついた顔で言う。
「………ほぉ…ということはそこの二人が酒呑童子様の言っておられたガキか、面白い!」
「俺達を知っているなら、話は早い、お前を倒して、情報を貰うぞ!」
「ふん、倒せたらいくらでも情報をくれてやるよ!例えば居場所とかな!倒せたらの話だが…」
茨木童子は二人の青年が感情に任せながら刀を握っているのを見透かし、自分の刀を鞘に納めた状態で素手で、こいよと言うように手を向ける。
文吉はその仕草を見て、頭に血がのぼり、君丸に合図し二人で一斉に斬りかかる。やはり感情に任せて、突っ込んできた二人の青年に対し、茨木童子は手に力を込めて二人の攻撃を素手で受け止める。そしてそのまま押し返して吹き飛ばす。二人は即座に受け身を取ったがあまりの怪力に手が痺れていた。そして百々葉は二人に近づき注意する。
「ちょっと二人とも!なんの考えもなしに突っ込まないで!落ち着いて!」
それに対して二人は反省する。
「あぁ…すまねぇ!頭に血が昇った…」
「ごめんなさい…」
「私達三人仲間なんだから!三人で協力して倒しましょう!」
二人は同時に頷くと二人は改めて冷静になり、集中する。今目の前にいるのはこれまで戦ってきたどのモノノケよりも強く格が違うことを冷静になってようやく感じた。下手に突っ込むとすぐにやられてしまうのを肌に感じていた。
百々葉が両手で神力を集中させ大きな神力玉を作ると、それを見た茨木童子が突っ込んでくる。咄嗟に二人は百々葉を守るべく防御の構えを取った。茨木童子は刀を抜きその剛力から放たれる剣術で二人の防御を崩し、隙を見せた二人に片手で吹き飛ばした。二人は咄嗟に受け身を取り、なんとか大事には至らなかったが片手のただの腕の振りだけでも相当なダメージを受けた。その間に茨木童子は百々葉に攻撃を仕掛ける、しかし百々葉は事前に地面に神力を纏った罠を仕掛けており一瞬、ほんの一瞬茨木童子の動きを止めた。百々葉はその一瞬の隙に作った大きな神力玉を体術と合わせて直接、茨木童子の腹に喰らわせた。それを喰らい吹き飛ぶ茨木童子、つかさず文吉と君丸が百々葉のサポートのもと茨木童子に追い討ちをかける。百々葉は神力を集中させ連続で神力玉を両手から放ち、茨木童子に当てる。文吉と君丸は長期戦になるとこっちがどんどん不利になると思い、一気に決めようと五月雨斬りや十字兜斬りを喰らわす。茨木童子もダメージを負ったが、その剛体な体でなんとか受け切り、茨木童子は刀で文吉と君丸に攻撃を喰らわす。二人はその猛攻を受け切り、頃合いを見て、一旦距離を取る。その隙に百々葉はまた大きな神力玉を作り、後方から放つ。茨木童子はガードして、最小限にダメージを抑える。そして距離を取った、二人に突っ込み、刀で猛攻を仕掛ける。ここで文吉が
「流石に…強い!三人で戦っているのに…!」
「私をその辺のモノノケと一緒にしないで貰おう、私は酒呑童子様の血から生まれたのだ!そこら辺のモノノケとは格が違うのさ、しかし貴様らも充分強い、ここまで強いとは思わなかったぞ!クックック!」
「文吉!君丸!もうちょっとだけ二人で耐えて!私が一か八かやってみるわ!」
百々葉は何やら印を結び、全身から神力を放っている。それは曇りで暗い神社を明るく照らすように眩い光だった。どうやら百々葉は力を限界まで溜め大技を放とうとしているようだ。それを見た茨木童子が息を切らしながら、あれはヤバいと直感で思い、百々葉に向かって言う。
「敵に筒抜けだがいいのか?何か仕掛けてくるというのに、私がそれを見過ごすわけなかろう?!」
茨木童子は百々葉の方へ行こうとするが、文吉と君丸が必死に受け止める。茨木童子は剣術で二人をさっきのように崩そうとするが、二人は根性で受け流したり、受け止めたり、しながら猛攻を耐えていた。そこに百々葉が。
「ばーか。バレても大丈夫だから言ってるのよ?」
「ちっ!どけ!ガキ共!」
と、茨木童子が言うと、茨木童子は刀を投げ捨て素手に全ての力を込めて二人の防御を崩そうと全力の拳で連続で殴りかかる。文吉と君丸は、必死に堪える。文吉が君丸に歯を食いしばりながら叫ぶ。
「君丸!持ち堪えろ!」
「う…ぐぐぐぐ!」
二人は茨木童子の猛攻をなんとか食い止めていた。そして百々葉が。
「二人ともありがとう!もう充分よ!離れて!」
文吉と君丸は茨木童子の攻撃を逸らして離れる。そこへ百々葉が素早く茨木童子に近づき、茨木童子は百々葉に向かって拳で殴りかかるが、百々葉は華麗に避けて間合いに入り片手に全ての力を込め。
「喰らいなさい!秘術!清鎮め!」
百々葉は茨木童子に眩い光の波動をゼロ距離で放つ。それをノーガードで受けてしまった茨木童子は叫び、あまりの一撃に一気に茨木童子の力を削り取った。そして吹き飛ばした。そして煙を出しながら、消えかけながら息を切らしていた。
「ハァ…ハァ…」
そして三人は息を切らしながら吹き飛んだ茨木童子に近づき茨木童子に力が残って無いとはいえ悪あがきすると思い文吉と君丸は刀を向け、文吉は茨木童子に問いかける。
「もう力も残っていないはずだ…吐いてもらうぞ!酒呑童子の情報を!居場所を!」
「あぁ…教えてやる…どの道消える運命さ…その前に酒呑童子様について話させてくれ。」
茨木童子はこの青年達ならと思い、この三人に酒呑童子様の過去を語り出した。
「酒呑童子様は人間によって作られた神様だった。」
文吉はいきなりの茨木童子の発言に驚いて声を溢した。
「神だと?」
そうして茨木童子は続けて語り出す。
「酒呑童子様は人間に作られ、人間は酒呑童子様を崇拝した、そしてある時は「あの者を殺してください」ある時は「対立してる村を滅ぼしてください」と利用された。好き勝手にな…そして人間達は都合が悪くなると放置し、置き去りにした!そこから酒呑童子様は完全なモノノケとなられた。酒呑童子様は人間を憎んだ、そしてこの村を滅ぼされた。だが、それでも人間に歩み寄ろうとした。違う村で新しく人生を始めようとされたのだ。だが迫害された!どこの村や集落に行っても迫害され、酒呑童子様はその度に村を滅ぼした、もう人間に何も期待せず一人で旅を始めたそうだ。そしていつしか村や集落を襲っているうちにモノノケの王と呼ばれるようになったのだ。」
三人は茨木童子の話を聞いて、複雑な気持ちになった。
文吉は、自分の故郷を滅ぼし自分の村の人々を殺した酒呑童子が神様だったことも驚いたが、元はと言えば人間に利用され、そして捨てられ、モノノケになっても人間に歩み寄ろうとし、でも迫害されたことに驚いていた。酒呑童子にも人間のような感情があったのかと思ったのだ。だが迫害される度にやり返しとして、滅ぼすのはやりすぎだと思った。だが、少しわかることもあった。他の人にいじめられて、やり返したことは文吉にも少年の頃にあったからだ。でもそうだったとしても酒呑童子にそんな過去があったとしても酒呑童子はやりすぎたし、自分の村を滅ぼされたし両親も殺された、だから復讐する。だがそう思った時に文吉は酒呑童子と自分になんの違いがある?と思った。酒呑童子は人間に利用されてその復讐に村を滅ぼした。自分もそうだ。酒呑童子に村を滅ぼされ、その復讐に酒呑童子を討とうとしている。そこになんの違いがあるのだろうか。そう思ったが文吉は、それにしても酒呑童子は多くの村や集落を滅ぼし、人々から恐れられている邪悪の権化だし、もう最近となっては好き勝手に殺している悪になっている、そう自分の中で決め、酒呑童子は悪だから、自分達が復讐とか関係なく討たないといけない、そう思った。そしてやっぱりそうだったとしても仇打ちはしたい。復讐したいと思ったのであった。
一方の君丸は酒呑童子にも悲しい過去があったんだと思った。前に酒呑童子は人間が人為的に作り出したとは百々葉さんから聞いていたが、神様だったこともそうだし、あんなに強いのに、最初は抵抗もせず人に歩み寄ろうとしたことに、複雑な感情を覚えた。酒呑童子にも孤独感があったんだろうなぁと君丸は思った。自分も文吉がいなかったら一人ぼっちでずっと悲しんでいたり、苦しんでいたかも知れないし、結果的に文吉がいたからいつでも楽しかった、嬉しかった、でも酒呑童子は人にことごとく利用された挙句最後には見捨てられて、酒呑童子は人間の言われるがままにしてきたのに都合が悪くなると切り捨てられて一人になった。だから酒呑童子は孤独感や一人でいる苦しみを忘れるため、そして人間にもいい人はいると思いたかったため、他の村で人生を始めたかったんじゃないかなと思った。それでも見た目や容姿だけで人に迫害された。結果的にやり返しとして滅ぼしたのは良くないと思ったが、わかる部分も多々あった。ざっくんとの出会いの中で良いモノノケもいることを知った君丸は酒呑童子も最初はそうだったんじゃないかなと思った。そして酒呑童子とは結果的に戦うことになると思うけど最後には酒呑童子に寄り添いたいと思った。君丸には故郷を滅ぼしたこととかは許せないけどそれでも酒呑童子に寄り添いたいと思った。
そして百々葉は酒呑童子の過去を聞いて、人はいつの時代でもそういう悪いことを考える人はいるのねと思っていた。そして酒呑童子がそういう生い立ちで、一度は裏切られたにも関わらず諦めずに歩み寄ったことに、酒呑童子の本当の気持ちを見た気がした。酒呑童子は悪くいえば子供と同じだったのだ。一人が嫌で、違うところで新しく始めようとしたけど、いじめられて、やり返した。一人が嫌っていうのはわかる。この暗い時代、昔とは違うかも知れないけど、モノノケに脅かされる恐怖の時代で一人きり、孤独なのは嫌っていうのは百々葉も同じだった。酒呑童子も同じ気持ちだったのかもしれないと思った。でもやったことは許されることではないし正しいことでもない結果的に人々を恐怖のどん底に陥れている。気持ちは少しわかるところもあるが今では立派な悪だから討たないといけない。そう思った。
そして君丸は茨木童子とここにはいない酒呑童子に向けて。複雑な気持ちになりながら優しい声で言った。
「そうだったとしても…そのやり方は正しいことじゃない……」
「そうね…その過去が事実だったとしてもやり方は間違っています。」
文吉はその間も下を向きながら黙り込んでいた。そして茨木童子が口を開く。
「あぁ、そうさ、そんなことはわかっている…酒呑童子様も生きるのが苦しそうだ…何千年と生きているからな…何度も殺してくれる人はいないかとぼやかれていた、お前達は酒呑童子様を討ちに行くのだろう?鬼の私が言うのもなんだが苦しそうな我が主を楽にしてやってくれ…酒呑童子様はここから北に行ったところにある古びた城におられる…私から…言う…こと…は…これで……全て……だ…………」
茨木童子はそう言い残すと粒となって消えていった。
文吉と君丸は刀を納め、文吉は少し空を眺めながら重たい声で言った。
「……………酒呑童子の場所はわかった…行こう…」
「………………うん。」
すると百々葉はこの酒呑童子が生まれた神社の中を調べればもう少し酒呑童子について何か知れると思い二人に声をかける。
「先に行っててくれる?もう少しだけ情報を集めてみるわ。何かあるかもしれないし。」
「あぁ……………。わかった…。」
「じゃあ…外で…待ってるね……?」
「えぇ…ちょっと待ってて。」
百々葉は神社内をくまなく探索する。ほとんど埃をかぶっていて、探索も一苦労だった。
「ん〜千年以上も人が来てないとなると埃だらけね…やっぱ千年以上も経ってるし、情報らしいものは……あら?これは…古い書物…?
百々葉は神社の中で【鬼神滅伝】と書かれた書物を見つけた。少し埃を落として、中を少しパラパラっと見てみる。そしてこれは役にたつと思いこの書物を持ち神社から出てくる。
「お待たせ。」
「何か……あった?」
「後で話すわね。」
「じゃあ……行くぞ………。」
そして三人は茨木童子に教えてもらった北にあるという古い城を目指すのであった。そして茨木童子の話の後からずっと三人の空気は重く暗かった。それを肌でビリビリ感じていた百々葉は二人の目にも見える重い空気に仕方ないと思いつつ、気持ちもわかるけど、まだ二人とも心の整理がついてないな、と思い、気分を変えるため、少し整理をさせるために二人に提案する。
「ねぇ!二人とも!ここら辺で一回休憩してご飯を食べない?えーっと、ほら、体力は万全にした方がいいでしょう?」
百々葉は少しわかりやすすぎたかなぁと思いつつ。文吉も百々葉が少し気を遣ってくれているのを感じ、提案にのる。
「…………………そうだな…飯に…するか…。」
三人は木陰で焚き火を焚いてご飯にした。そして君丸が地図を広げて言う。
「地図によると…ここから数日行った先に茨木童子が言ってたずっと使われてない古い城があるみたい。」
「そうか…だとすると…あと数日で酒呑童子と戦うことになるのか。」
二人の話を聞きながら、百々葉はさっき鬼仙崎神社で拾った書物を開く。それを見た君丸が百々葉に興味津々に問いかける。
「あれ?百々葉さん、その本なに?」
「あぁ、これ?さっき鬼仙崎神社で見つけたの、読んでみる?」
君丸が頷くと百々葉は君丸に書物を渡した。
「うーん……ところどころ掠れて読みにくいな…。」
文吉はやはりさっきの茨木童子の話が衝撃的すぎて心の整理がつかないので二人に一応声をかけて寝る体勢に入る。
「………………ちょっと仮眠していいか?心の整理をつけたい。」
「うん、わかったよ。」
「安心して眠ってくれて構わないわ。」
百々葉は一生懸命目を擦らせながら書物を読んでいる君丸に対しても声をかける。
「君丸も寝なくて大丈夫?まだ気持ちの整理ついてないんじゃない?」
「僕は大丈夫…気持ちの整理がついてるって言えば嘘になるけど…」
そして頑張って書物を読んでいる君丸の隣で百々葉は歌を歌う、百々葉の歌を横で聞いていた君丸は百々葉に質問する。
「百々葉さん…その歌は?」
「ずっと心にある歌なの…私の記憶にずっと印象強く残ってる歌…もしかしたら昔の人の想いが記憶として残っているのかも。」
「なんだか…素敵だね…」
君丸の素直な言葉に百々葉は照れを隠しながら
「そうかしら?そうかもしれないわね…」
そして気づいた頃には夜になって焚き火の火を強めながら君丸が言う。
「すっかり夜だね…文吉もまだ寝てるし最初の見張りは僕がするから百々葉さんは寝てていいよ。」
「そう?ありがとう。」
そうして百々葉も寝た頃君丸はさっき百々葉さんから渡された書物を読みながらさっき百々葉さんが歌っていた歌を口づさんでいた。
第六章、vs酒呑童子
そして夜が明け、三人は目的の古びた城を目指す。道中モノノケが襲ってきたが難なく撃退していくそして道なき道をどんどんと進んでいく三人、そしてある日を境にモノノケが一切出てこなくなり、三人は城で待ち伏せされていると思い、集中して進んでいく。そして四日がたった頃遂に茨木童子が言っていたであろう古い城を見つけた。
「あれか…茨木童子が言ってた城…随分古いな…」
文吉がそう言いながら城を観察する。そして君丸が。
「ちょっと不気味だね…お化けとかでそうで怖いね。」
その言葉にツッコミを入れる百々葉
「お化けもモノノケもそう変わらないでしょ?」
そこに君丸が反論する。
「違うよ…お化けは斬れないけどモノノケは斬れるじゃん…。」
どうやら君丸は自分の力でどうにもできない斬ることもできないお化けと自分でどうにかできる斬れもするモノノケを完全に別として捉えているようだ。そんな二人の会話を聞いていた文吉はさすがに敵の総本山である城がすぐ目の前なのにちょっと緊張が足りないと思っていた。
「話はそこまでにして行くぞ!」
そして二人は文吉の言葉に従い、集中しながら敵の根城、城の中へと入っていった。そして案の定城の中には、数えきれないモノノケと酒呑童子の部下と思われる鬼達がいた。三人は一斉に攻撃する。次から次へと押し寄せてくるモノノケや鬼をどんどん倒していく。あまりここで体力を使わないようにしながらモノノケ達を一掃する。もちろんそれはこの城の奥にいる酒呑童子の耳にも届いていた。
一方その頃その城の奥に佇む酒呑童子、そこに七年前満腹だなどと言っていたお調子者の鬼とそれを止めていた真面目そうな鬼が慌てた様子で酒呑童子に耳を入れる。
「酒呑童子様!只今、城に侵入者が現れ、集めたモノノケ共がどんどんやられていってます!同族の鬼まで!どんどんやられていっております!いかがなさいますか?」
その言葉を聞いた酒呑童子は高らかに笑い、部下に指示する。
「ハッハッハ!遂に来たか!まあいい…お前達も戦いに行け、我もすぐに向かう…!」
「はっ!」
お調子者の鬼と真面目そうな鬼もその戦いに参加すべく戦いの場に向かった
酒呑童子は一人で空を見上げて、遂にあの時の少年達が来たと、ワクワクを隠せずにいた。酒呑童子は部下に城の周辺を見張らせ、三人がくるのをいち早く知っていた。そしてこの城で迎え撃つと決めていたのだ。
「遂にこの時が来た!この時をどれほど待ち侘びていたことか!クックック!ハハハハハハ!」
そして酒呑童子もゆっくりと戦いの場に向かった。
そして戦いが起きていた場所では三人は全てのモノノケを既に倒していた。
「モノノケの数が思ったより多かったな。あらかたやっつけたか…。」
そう言う文吉に君丸もそう思い。
「大量にいたね…流石に多かった…。」
そして百々葉はいち早く邪気を感じ取り二人に注意を促す。
「二人とも!構えて!何か来るわ!」
そしてお調子者の鬼と真面目そうな鬼が現れる。そしてお調子者の鬼が文吉と君丸を見て。
「おっとそこの2人は見たことがある顔だ!」
それに続いて真面目そうな鬼も。
「おぉ懐かしい!あの時のガキ共じゃないか!」
その二人の鬼に対して文吉は怒りを露わにしながら声を上げる。
「お前らは!」
文吉と君丸にとってはまさに七年ぶりに出会う鬼達であり、至近距離で巫女様や守ってくれた村人を食べていた鬼達であった。まさに因縁の相手であった。怒りを表に出している文吉に対して百々葉が鎮めようとする。
「文吉、落ち着いて。お願いだから」
「大丈夫だ。心底落ち着いている。」
「そう見えないから言っているのよ。」
文吉の怒りはもっともだった。だがしかし茨木童子との戦いで学んだ。感情に任せて戦うのは良くないと。君丸はその言葉を文吉に言う。
「文吉…僕も同じ気持ちだけど…感情に任せて戦うのは良くない…。」
「わかっている!」
二体の鬼はもういいか?と言うように首を鳴らして襲いかかってくる
文吉と君丸は疾風の如き速さで刀の間合いに入り、百々葉は後方から神力玉を鬼に当て、鬼がよろつくと、その隙を逃さず二人は二体の鬼をいとも簡単に斬って倒してしまった。
二体の鬼が断末魔を上げる暇もなく粒となって消えていく。
そしてその様子をこっそりと見ていた酒呑童子が奥から拍手をしながら歩いてくる。
「………素晴らしい…あの時のガキ共が立派に成長したじゃないか!」
「「酒呑童子!!」」
二人は七年ぶりに相対する酒呑童子に刀を向ける。もはや二人には恐怖などはなかった。七年前はあれほどでかく圧倒的な存在として見ていた酒呑童子も今までの戦いや経験を経て、冷静に落ち着いた様子で見ることができた。そして百々葉は初めて見る酒呑童子の姿に声を溢す。
「あなたが…モノノケの王…!」
このモノノケが二人の故郷を滅ぼした元凶であり、茨木童子が言っていた人間に利用された悲しき過去を持つ鬼。だが今更同情の余地はない。入ってきて早々に感じた圧倒的な邪気と血生臭い匂いがこのモノノケがどれだけ多くの人間を殺してきたかを感じさせる。すると酒呑童子が口を開く。
「お互い見知った顔だ、多くは語らなくても良いだろう…名前だけ聞いておこうか?」
と、余裕そうな笑みを浮かべる。
「文吉だ…!お前を倒す者の名だ!」
「君丸…………!」
「文吉と君丸か…そっちの小娘…巫女だな?なんと言う名前だ?」
「貴方に名乗る名なんてないわ。」
「クックック、まあいい…我の名は酒呑童子!では早速始めようか!」
酒呑童子がそう言うと互いに走り出す。酒呑童子はいきなり拳を突き出してくる。それを刀で受け止める君丸。その隙に隣から斬りかかる文吉、それを片手で受け止める酒呑童子。百々葉はそこを狙って神力玉を放つ。顔面に直撃したが、酒呑童子はまるで蚊が止まったかのようにケロッとしている。そしてニヤリと笑うと文吉を左足で蹴り飛ばし、君丸も刀を持たれて、引っ張られ頭突きをかまされる。そして刀を持ったままその腕力で君丸を軽々と持ち上げ投げ飛ばす。百々葉はつかさず体術で神力を纏わせ平手打ちする。そして酒呑童子の攻撃を受け流しさらに神力の拳を喰らわせる。そして投げ飛ばされた君丸と、蹴り飛ばされた文吉は両端から斬りかかる。それを鋼鉄のような腕でガードする酒呑童子。多少斬れてはいるが思ったようなダメージにはなってない。百々葉が一度下がり、もっと強めの神力玉じゃないとダメージを与えられないと思い、集中して、大きな神力玉を酒呑童子めがけて放つ。酒呑童子は咄嗟にガードする。文吉と君丸はさらに追い込みで酒呑童子に斬りかかる。酒呑童子は楽しそうにその攻撃を受け流したり避けたりしていた。そして笑いながら。
「いいねぇいいねぇ!お前達強くなったじゃないか!ハハハハハハ!」
こっちも全力の攻撃を与えているのに一向に弱る姿を見せない酒呑童子。ダメージは与えているはずだが、酒呑童子はまだ笑う余裕があるようだ。さらに猛攻撃する三人。そして百々葉が連続で神力玉を放ち、それを華麗に避ける酒呑童子。
「当たらぬ当たらぬ!スゥーーーー!(息を吸う)」
ここで酒呑童子が何やら息を吸い何か危険なことを君丸めがけてしてくると思った文吉は叫ぶ。
「君丸避けろ〜!」
文吉は君丸を押し飛ばし代わりに酒呑童子の焼ける息を喰らってしまった。文吉は顔が変わったかのように叫ぶ。
「ガァあああああああああ!」
それを見た酒呑童子は笑いながら奥に下がっていく。
「ハハハハハハ!これは面白い展開だ!」
「文吉!文吉!くっ!待て!酒呑童子!どこへ行く!」
「クックック、ここから見守らせてもらうぞ!仲間割れをな!」
酒呑童子に気を取られている君丸の背後から文吉が君丸にめがけて斬りかかる咄嗟に百々葉が。
「君丸!危ない!」
百々葉の声に素早く反応した君丸が文吉の攻撃をギリギリで躱わす。
「うわぁ!何するんだ文吉!」
「おそらくさっきの攻撃で操られたんだわ!」
「ハハハハハハ!御名答!ここからはそいつが戦う!お前に友を殺せるか?ハハハハハハ!」
君丸は酒呑童子の煽りに激しい怒りを覚えながら文吉に刀を向ける。
そこに百々葉が。
「君丸落ち着いて、まだ助かるわ。それまで耐えて!」
君丸はなるべく文吉を傷つけないように防戦しながら百々葉を信じて時間を稼いでいた。文吉の猛攻は止まることなく君丸が声を溢す。
「力が何倍にも膨れ上がってる!くっ!」
「ハァ…できた!」
百々葉は鬼仙崎神社で拾った書物に書かれていた、酒呑童子の術を無効化するお札について思い出し、なんとか作り方を思い出してお札を作ることに成功した。百々葉は君丸にこっちにくるように促すと君丸は頷き、百々葉の方へと文吉を誘導する。そして百々葉はつかさず素早く動き文吉にお札を貼る。するとお札が輝き文吉の自我が戻ると共にお札も燃え尽きた。それを見た酒呑童子は驚いた様子で。
「なんと我が術を解くとは貴様…ただの巫女じゃないな?」
「すまん…ありがとう…」
「気にしないで…」
「さぁ行くわよ!」
三人は改めて構えて酒呑童子の様子を伺う。酒呑童子はさらに大きな笑い声を出し、そして言う。
「面白い…面白いぞぉ!さぁここからが本当の戦いだ!」
三人は酒呑童子に向かって走り出し百々葉が前線に立ち、神力を纏わせ酒呑童子に突っ込む、酒呑童子はさっきの百々葉の体術を見て守りの体勢に入る。百々葉は酒呑童子に色々な技をお見舞いするが、守りの体勢を崩さない酒呑童子を見て、一歩下がり、神力を込めた玉を放つ、そしてつかさず文吉と君丸が続いて剣技を酒呑童子に喰らわせる。酒呑童子は二人の猛攻撃に対応しながら後方からどんどん強力な神力を込めた技を放つ百々葉の攻撃を喰らいながら、その一瞬の隙をつかれ、文吉と君丸の攻撃も喰らう。それを厄介に思った酒呑童子は大きく叫び、体から邪気を放つ、咄嗟に下がる文吉と君丸。酒呑童子は腰にぶら下げている瓢箪瓶の酒を吸い込むように手に集め、そして。
「秘術酒あられ!」
と、叫ぶと百々葉に向かってその攻撃をお見舞いした、避けきれなかった百々葉は倒れ込み苦しそうにする。
「ゔっああああああああ…ハァ…ハァ…」
「百々葉!!」
「まさか………!」
君丸はさっきの攻撃に見覚えがあった。その反応を見た文吉が慌てた声で。
「なんか知っているのか!?」
「少し前に鬼仙崎神社で拾った書物に書いてあったんだよ!酒呑童子の持っている鬼の酒には人を呪う力があるって!まさか…それを!?」
酒呑童子は上を向きながら笑い、拍手し、言う。
「クックック!ハハハハハハ!御名答だ!小僧!」
「あああああ!!、、っ…ハァ…ハァ…」
苦しそうに悶えている百々葉を見て二人は酒呑童子に対し睨みつける酒呑童子は笑い終えると煽った口調で。
「どうした?助けないのか?このままではあの巫女は死ぬぞ?ハハハハハハ!」
「君丸!どうしたら呪いは解除されるんだ!書いてあったんだろ!?」
君丸は慌てた様子で言う。
「酒呑童子が持っている瓶を壊せば呪いは解ける!でもどうすれば!」
酒呑童子は驚いた表情で君丸の博識を褒める。
「なんだそんなことまで知っているのか、わかったところでだがな!瓶ならほらここにあるぞ?」
酒呑童子は腰にぶら下げている瓢箪瓶を持ちながら煽ったように見せつけてくる。文吉は叫ぶ。
「その瓶をよこせ!」
文吉は咄嗟に走り、酒呑童子に斬りかかる。酒呑童子はひらりとかわし文吉を拳で吹き飛ばす。
「あれを壊せば……!」
「クックック…だが、そんな簡単に渡すと思うか?」
文吉はそれでも立ち上がり一人で酒呑童子の前に立った。それを見た君丸が咄嗟に文吉!と声を溢す。
「大丈夫だ、ここは俺がやる!だからお前は隙をついて、瓶を壊せ!」
「で、でも!」
文吉は君丸の言葉を遮って、続けて言う。
「いいからやれ!お前にしかできないんだ!」
君丸は頷き。酒呑童子の様子を伺う。文吉は酒呑童子と一対一で戦い、なんとか隙を出せるように立ち回る
「急がなければ!」
文吉のその言葉に酒呑童子は笑いながら煽ってくる。
「焦っているなぁ!愉快だ!ハハハ!」
文吉は酒呑童子に一人で立ち向かう。君丸は回り込みなんとか瓶を壊そうと立ち回る。
酒呑童子の猛攻に文吉の体力は限界を迎えていた。
全身傷だらけになりながらも君丸を信じて、根性で耐えていた。そして酒呑童子は文吉の疲れ切った顔を見て。
「どうした小僧、お前の力はそんなもんか?」
と、呟く。
そして文吉は一歩下がり、息を切らして酒呑童子を睨む。それを見た酒呑童子はこう呟く。
「どうした?諦めがついたー」
「隙あり…!」
その瞬間倒れている百々葉が少しずつ神力を溜めて神力玉を作り、瓢箪瓶の紐めがけて放った。咄嗟の攻撃にたじろぐ酒呑童子。
「なっ!?」
「っ…巫女…の……根性…舐めないことね!」
そう言うと瓢箪瓶の紐が切れて瓢箪瓶が落ちる。
「今だ君丸!瓶を壊せ!」
咄嗟に君丸に叫ぶ文吉。君丸は瓢箪瓶に向かって走る、そして刀で壊そうとする君丸とそれを阻止しようとする酒呑童子。酒呑童子の攻撃を刀で受け止める文吉。
「させるかよぉ!」
「ぐっ!」
「はぁああ!」
君丸が刀で瓶を斬り瓶を壊す。すると百々葉についた呪いが抜けたのか、百々葉は死にかけになりながらも息を整えていた。
「百々葉さん!」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「百々葉さん!大丈夫ですか!百々葉さん!!!」
咄嗟に百々葉に駆け寄る君丸。
酒呑童子は瓶を壊され不機嫌そうに文吉に猛攻撃する。
文吉はギリギリで戦っていた。
そして文吉が限界なのに気づき、君丸は酒呑童子に向かって走る。
文吉は膝をついて息を切らす。
酒呑童子も少し息を切らしながら言う。
「ハッハッハ…ハァ…ハァ…これで止めだ!」
酒呑童子の拳が文吉に当たりそうなところで君丸が刀で受け止める
「させない!」
「何?!」
君丸の思った以上の火事場の馬鹿力に酒呑童子は戸惑うそして君丸は叫んだ。
「これ以上、誰も、犠牲を出させない!あの日!あの村が焼かれた日、僕は、本当に怖かった!両親も、何もかもを失った!けど、けれど!…こんな弱い僕でも!守れるものがあるのなら!こんな僕でも守りたいものがあるのなら!僕はそれを!守り通す!!」
それを聞いた酒呑童子は怒りの口調で君丸に問いただす
「小癪なぁ!そんな詭弁な言葉一つで何ができる!貴様には何ができるんだ!」
君丸は落ち着いた声で。
「できるよ」
と、呟く。咄嗟に文吉が君丸の名前を呼ぶ。
「大丈夫、大丈夫だよ文吉、僕達はあの修行で強くなったんだ、こんなところで負けたりしない!そうだろう?」
「あぁ!」
そして文吉も立ち上がり構える。
「これが僕達の力だぁああああ!」
二人は今までの全ての想い、力を込め酒呑童子に重い一撃を喰らわせた。
酒呑童子は今までで一番のダメージを負った。激しい痛みにさらに逆上し二人に攻撃しようとする。
「この…ガキぃいいいいい!」
その時眩い光が酒呑童子に直撃する。
「なんだ!この眩い光は!!力が…!まさか!?」
酒呑童子は向こうの方を見て震えながら手をこちらに向けて息を切らしている百々葉を見る
「ハァ…ハァ…巫女はねぇ!死にかけでも…力は…!使えるのよ……!」
「小癪なっ……!どいつもこいつも…我の邪魔をしおってぇええええ!!」
酒呑童子はあまりの攻撃と百々葉の渾身の一撃で後ろに後退りする。その隙を文吉と君丸は見逃さない
「行くぞ君丸!」
「うん!」
二人は後退りする酒呑童子に素早く近づき間合いに入ると両方から洞山師匠直伝の必殺技をお見舞いする。
「「疾風一文字斬り!」」
酒呑童子は大きく叫び倒れ込む、すると文吉が、息を切らしながら。
「お前の…ハァ…敗因を教えてやる…それは俺達を生かしたことだ!!
酒呑童子はもう力が残っていなかったただ叫ぶことしかできなかった酒呑童子から煙が出る。
「くっそ!……クソクソクソ…!おのれええええ!」
そして君丸が刀を鞘に納め酒呑童子に近づき声を溢す。
「きっと寂しかったんだよね。」
「君丸?」
いきなりの言葉に文吉は君丸の名前を呼ぶ。そして君丸は続ける。
「茨木童子から全て聞いたよ。一人でずっと、苦しかった、そうだよね。僕だってそうだった、文吉がいなかったらどうなってたか…。だから、人との友達を作りたくて、村に赴いたのに、モノノケだからって攻撃されて、自分はこんなにも人間に従ってきたのに、それが憎くて、村を襲った、集落を襲った、……君がしたことは、正しいことじゃないし、決して許されることではないけど、これだけは言える、今まで1人で良く頑張って生きたね。もし来世というものがあるのならその時は友達になろう!」
酒呑童子は死に際に君丸からの優しい声と優しい言葉をかけられ涙を流しながら心の中でこう思った。
(あぁ…きっと我は…私は…この言葉が欲しかったんだ…この優しさが…欲しかったんだ…)
酒呑童子は粒となり眩い光と共に成仏していく。
文吉が酒呑童子が成仏するのを見て声を溢す。
「終わった…のか」
すると君丸が。
「うん…全部、………あっ早く百々葉さんを診てもらわないと!」
「そうだった!行くぞ!君丸!」
「うん!」
終章、いつかの平和な未来へ
二人は百々葉さんに応急処置をして大急ぎで伝書鳩を出し、百々葉さんを担いで城を出た。
その後急いで駆けつけた武士と巫女…そして救護班が百々葉を診る。二人もそれについていき、城下町に戻るのであった。
そして百々葉も一命を取り留め三人の傷も癒えて元気になった頃城下町は賑わっていた。何せ昔から恐れられていたモノノケの王、酒呑童子を討伐したというのだから、三人は多くの人に歓声をもらっていたが三人はその歓声を素直に受け取れずにいた。
酒呑童子の最後の涙と優しい笑顔、君丸はちゃんと成仏できたのかなと思っていた。酒呑童子は最後、自分の言葉で救われたのだろうか、酒呑童子の人間に対する復讐は最後僕の言葉で果たされたのだろうか。こんな人間も本当にいたんだと、思えただろうか。そして僕はちゃんと寄り添えたのかなと考えていた。
文吉はひとまず酒呑童子は倒せたし仇打ちという形で復讐も成し遂げた。だがしかし、茨木童子の話と最後の酒呑童子の表情から、もうちょっと他のやり方があったんじゃないだろうかと思っていた。それを君丸と百々葉とも共有していた。三人で出した結論としては、本当だったらもう少し話していたら変わっていたかもしれない、でもやったことは許されないし正しくない、けれど、悲しい過去があったのも事実だし、結論から言えば酒呑童子は自分たち人間が作り出してしまったもの。だから最後まで責任を持ってこっそりと城下町が見える丘に酒呑童子の墓を建てた。
この物語は酒呑童子という名の悲しいモノノケと文吉、二人の復讐である。
こうして時は経ち数年後
文吉は大きく腕を伸ばすと酒呑童子の墓の前で酒を飲んでいた。そこに君丸がやってくる、そして文吉が君丸に気づくと声を溢す。
「旅に出るのも慣れたもんだよなぁ」
「そうだね…」
「君丸…これから色んなところに行こう…町が見える丘、綺麗な夜空が見える山、夕陽の見える海、全部全部見よう!そしてこの目で記録しよう!」
「文吉…」
そこに猛ダッシュして二人の背中を叩く百々葉。
「いい雰囲気のところ悪いけど私をお忘れじゃないかしら?」
文吉は笑いながら
「忘れてねぇよ!気を取り直して、君丸!百々葉!俺達三人で色んなところに行くぞ!だってお前達となら、なんだってできる気がするからな!いいだろう二人とも!」
「断ると思う?ねぇ百々葉さん。」
「えぇ、そうね。」
三人は酒呑童子の墓の前で一杯の酒を飲み、合掌し。合掌を終えると。文吉が。
「じゃあ行こうぜ!」
そして文吉に続くように二人は声を上げた。
「「うん!」」
さらに時は流れて、ここは昭和の日本。空き地でブランコに乗りながら悲しそうにしている少年のもとにもう一人の少年が声をかける。
「僕の名前は桐丸…君のお名前は?」
ブランコに乗っている少年に声をかけたこの少年の名前は桐丸。ショートヘアが似合う少年だ。そしてその桐丸の問いに答える少年
「酒井アキラ…」
このブランコに乗っている少年の名前は酒井アキラ。少年というには少し背は高いが少し黄身がかった髪にロングヘアが似合う少年だ。そしてアキラの名前を聞くと桐丸が。
「素敵な名前だね!僕達友達にならない?一緒に遊ぼうよ!」
「いいの?」
「うん!行こう!」
そしてアキラの手を引っ張る桐丸そして向こうに行くと二人の少年少女がいた。
「文男!桃子!紹介するね新しいお友達のアキラ君!」
「おっ新しい仲間か!歓迎するぜ!」
このリーダー感溢れる少年の名前は文男、ロングヘアをゴム紐で纏めて短めのポニーテールをしている少年だ。
「この人数なら鬼ごっこでもしない?」
そういうこの少女の名は桃子。長いロングヘアの髪に少し清楚感溢れる少女だ。
「いいね!アキラ君もいい?」
「うん!」
アキラを新たに仲間にして四人になったこの少年少女達は今日も鬼ごっこで遊んでいた。
〜完〜
最後まで読んでくださりありがとうございます!
いつかこれの後日談や前日談など設定とかも色々公開できたらなと考えております!
裏話なんですが、私は表現者を目指してまして、声優や俳優、舞台役者などですね。まあ表現者を目指していまして、長期の休み期間中に作る側の気持ちや考えていることを知るために生まれたのがこの小説の舞台版です。
そこから小説にするとイメージつきやすいという意見をもらい小説版を書きました。
好評でしたら色々また作ってみたいです!
作る側も楽しいですし!最後になりますが本当に最後まで読んでくださりありがとうございます!