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短編

ラッキースケベの末路

毎週、水曜日に短編小説を、木曜日に長編小説の追加エピソードを投稿しています!

それぞれシリーズにまとめてありますので、よろしければ読んでみてください!

短編小説は仲良しカップルの日常系ラブコメが主ですが、たまに獣人とかも出てきます。


作品における既存のエピソードが更新されることがありますが、理由は誤字脱字及び細かな表現等の修正です。

作品の内容が大きく変わることは原則ございませんので、ご安心ください。

 私には、どうしても、もう一度だけでもいいから見たい彼の姿がある。


 彼が台所で食器を片付けてくれている幸せな夜に、私はソファの上でギュッとクッションを抱き締めながら思案に暮れていた。


『ごく自然なラッキースケベって、どうやったらできるんだろう?』


 私と彼はチマチマ結婚の話なんかも始めている、付き合って二年半、同棲してからは二年ほどになるカップルだ。


 初めの頃はいざ知らず、一緒に住む時間も長くなってくると互いに遠慮が抜けるようになって、今では仲良く家事を押し付け合ったり、だらしのない姿を見せつけ合ったりしている。


 スキンシップの扱いも付き合いたての頃に比べると随分と軽くなっていて、軽く彼のお尻に触れることなど、もはや挨拶の領域に達している。


 流石に外で触ると怒られるからしないが、家の中でならば、すれ違いざまにスッと彼のお尻を擦ることも可能であるし、寝っ転がってボーッとしているところを狙ってモチモチモチッと揉みこむことも可能だ。


 たまに面倒くさそうな、あるいは物言いたげな視線で私を見つめてくることはあるが、それでも私の行動をとがめたり、やめるように言ってきたりすることも無い。


 普段、柔らかな態度の彼がたまに見せてくれる冷たい視線がけっこう好きなので、お尻を触られても無関心を貫いている姿は非常に魅力的だ。


 触るのにも都合が良い。


 しかし、どうにも、そればかりでは物足りない。


 ほんの少しふれ合っただけで照れていた初心で愛らしい彼の姿を拝みたくなってしまった。


『やっぱり、初めてお尻に触っちゃった時の彼の反応は最高にかわいかったな……』


 過去、本当にうっかりと手が滑って彼のお尻をガッシリも見込んでしまったことがあったのだが、その時の彼は非常に優しくて、慌てて謝る私に、

「大丈夫だよ。事故だもん、しょうがないよ。俺は気にしてないから心配しないで」

 と、ほんのり頬を赤らめながらニコリと微笑んでくれていた


 冷たくされるのも良い。


 良いのだが、やっぱり以前までの優しくて色々と甘々だった彼も恋しい。


『本当にうっかり触っちゃったっていうのを再演したら、また優しく、しょうがないよって笑ってくれるかな?』


 最近はそんなことばかり考えて、ごく自然なラッキースケベの方法を必死に模索していた。


『やっぱり、うっかりフローリングで足を滑らせて腕を大きく揺らした先に彼のお尻があった、というのが最善のシチュエーションかしら? でも、手が滑ってお尻を揉むって、どういう状況よ。いや、実際にあったことではあるんだけれど、あの時って、どういう状況だったんだっけ……駄目だ! 彼の表情とかしか思い出せない!』


 より自然に触るためにも過去の経験を踏まえて行動したいのだが、肝心なことが何一つ思い出せない。


 確か、彼の腰くらいの高さの棚の上に乗っかっているぬいぐるみか何かをとろうとして、うっかり揉み込んだような気もするが……


『まあ、あれこれ考えても仕方ないし、取り敢えず触りに行きますか』


 台所へ向かうと、すっかり食器を片付け終わった彼がタオルでキュッキュと手を拭いている。


「お疲れ様」


 声をかければ、振り返った彼が「ありがとう」とニッコリ微笑む。

 私もニッと口角を上げて彼に微笑み返した。


「冷蔵庫、使いたいからさ、お隣、失礼するね」


「分かった。俺、先にリビングに行ってるね」


 こちらは彼の突っ立っている場所を見て、どのくらい転べば彼の胸元へ飛び込むことができるのか、計算しながら行動しているのだ。


 勝手な行動をとられては練り上げた作戦も台無しになってしまう。


 片手を上げてサッサと台所から出ようとする彼の姿に思わず、

「え!?」


 と、声が出た。


「なに?」


 私の心のうちなど知らない彼が不思議そうに首を傾げている。


「いや、あのさ、冷蔵庫漁るのなんてすぐだからさ、そこで待っててくれない?」


 私に咄嗟にうまい言葉を出すなんて言う応用力は存在しない。


 一度ミスったら墓穴を掘り続けて転落し続けるのが私だ。


 そのため、だいぶ不審なお願いをしてしまったが、彼は「別にいいけど」といぶかしげな表情を浮かべながらも頷いてくれた。


『さて、行きますか』


 彼の隣を横切る段階では、まだ何もせず、まずは普通に冷蔵庫へと向かう。


 カパリとふたを開けると、中には残り一パックになった納豆や消費しかけのキムチ、半分以上も中身が無くなった卵のパックが入っていた。


 冷蔵庫に用があるといった手前、何も取り出さないでは彼に不信感を抱かれてしまうから、私はカモフラージュに麦茶のペットボトルを取り出した。


『今回の一番の目的は彼のかわいい姿を拝むこと。もう、この際、お尻は捨ててもいい。それでも構わないから、どうにか彼にハプニング風で接触して、甘やかしてもらう!』


 お尻を撫でて驚かせることができたり、照れさせることができたりするのならば、それに越したことはない。


 だが、彼の胸に飛び込んで優しく抱き締められながら「大丈夫」と頭を撫でてもらうのも大いにアリだ。


『問題は、上手くコケることができるかどうかよね』


 この間、ワックスがけを行ってしまったせいで極端に滑りが悪くなってしまったフローリングに内心で舌打ちをする。


 冷蔵庫までの道のりにあった水滴を利用すれば、少しは不格好に足を滑らせることができるだろうか。


『一か八かだけど、やるしかない!』


 私は覚悟を決めると冷蔵庫のふたを閉め、キッと睨みつけるようにして後ろを振り返った。

 そしてそのまま、一切、足元を見ずに真直ぐ彼の元へ向かって行く。


『今だ!』


 足の裏に水が触れた瞬間、私は足を滑らせた振りをして前のめりに軽く倒れ込んだ。


 そうすると、彼の背中か胸元に飛び込めることになっている……はずだったのだが、どういうわけか彼にヒラリとかわされてしまい、私は本当にコケただけになってしまった。


 元々、彼に飛び込むつもりで威力を殺して転んでいたから多少前のめりになっても派手に転げることはなく、怪我を体を痛めることも無かったのだが、代わりにえげつない喪失感に襲われた。


 無駄に抱き締めた空気がむなしい。


 この孤独感や空虚さを埋められるのは彼の温もりしかない。


 私は急いで体勢を立て直すと、必死に彼に抱き着きに行ったのだが、やはりヒラリヒラリとかわされてしまって、ついぞモチモチの温かさに癒されることはできなかった。


 せめてもの思いで撫で上げるようにして彼のお尻に触れようとした手も、ペチンと叩き落されてしまう。


「なんで、いっつも触らせてくれるのに今日は触らせてくれないの! 触りたい! あなたの雄っぱいとお尻は私の物で、いつでもどこでも触れるフリーパイとフリーお尻でしょうが!」


 思わず涙目になった瞳で彼を睨みつけ、叩き落された手の甲を擦りつつ抗議を入れる。

 すると、彼も呆れたような冷たい目で私を睨みつけてきた。


「さっきから挙動不審だと思ってたけど、やっぱり、しょうもない事ばっかり考えてたんだね。俺の体は俺の物だし、フリーじゃありません。特に最近思うけどさ、———ちゃん、俺のこと触りすぎじゃない? 俺に対して、そう言うことしか考えてないわけ? このスケベ!」


 どうやら彼がスキンシップを受け入れてくれているというのは私の勝手な思い込みで、実際にはチマチマと怒りを溜め込んでいたらしい。


 ケッ! とやさぐれた表情で毒づく彼は大層ご立腹だ。


 両腕をしっかりと組んで仁王立ちし、ジトッと私を睨みつけている。


 これは、不味い事になった。


 真剣に対応し、早急に怒りを鎮めてもらわねば。


 さもなくばガッツリと拗ねられて、しばらく無視をされたり睨まれたりしてしまう。


 戯れで冷たくされるのは良いが、本気で不機嫌になった彼に冷たくあしらわれるのだけは嫌だ。


 最悪の場合、彼に素っ気なくされた寂しさと悲しさで、とっくに成人しているのに泣いてしまう。


「勿論、スケベなことばかりではありませんが、概ね貴方のお尻と雄っぱいを触る事ばかり考えてはいます。大好きなので」


 私は壊滅的に嘘が下手だから、適当な言葉で誤魔化すという手段がとれない。


 加えて、普段のアレな生活態度からプラトニックを気取っても絶対に信じてもらえない。


 私に残された手段はキュッと口角を結んだ非常に真面目な表情で、清廉潔白に己が心情を吐露するのみだ。


 キリッと目元を引き締め、真直ぐに言葉を出し、畳みかけるように彼の目を見つめる。


 すると、彼の真っ黒い瞳が同様で少しだけ揺らいだのが見えた。


『よし! 光が見えた!!』


 機嫌が直ることを切に祈って彼を見つめ続ける。

 数秒の間をおいて、彼がポコッと私の額に手刀を落とした。


「大好きで誤魔化せるほど、色欲は可愛くないからね」


 彼が冷たい口調でボソッと呟く。

 だが、強張っていた声も表情も少し和らいでいて、ほんの少しかもしれないが確実に怒りは薄れていた。


「身も心も愛しています」


 とどめを刺すようにシッカリと言葉を出して、何度も彼を見つめる。

 そうすると彼はキュッとへの字に結んだ唇をムグムグと動かして何かを言いあぐねた後、赤くなった耳や頬を隠すようにフイッとそっぽを向いた。


「とにかく、俺は恋人にも自分の体を安売りしたりしないの! フリーじゃないし、親しき中にも礼儀ありだからね!」


 一応は機嫌を直してくれたらしい彼が捨て台詞のように言葉を吐く。

 だが、そんな彼の機嫌を再び下降させることになったとしても、そのまま捨ておくことはできないような重要な話が彼の言葉の中には練り込まれていた。


「フリーじゃない!? え!? じゃあ、そしたら私は、今日から今まで見たいに———君に触れなくなるの!? 私の胸とお尻は、———君にはフリーで開放されてるのに!? ズルくない!? 酷くない!?」


 狼狽し、激しく抗議する私に対して彼の方は、

「えっ!? フリーだったの!?」

 と、目を丸くして固まる。


 ツンデレっぽい雰囲気でそっぽを向き、少しだけ頬を染めていたのがボンと発火したように真っ赤に染まっている。


 動揺した雰囲気の彼がモジモジ、チラチラと私の方を見た。


 私も幾度となくそういう視線を彼に向けてきたから、言われなくても察するものがある。


「いいよ。いくらでも触っていい。代わりに貴方のことも、これまで通り触りたい放題させてほしい」


 少し上目遣いになる彼に私は慈愛の笑みを浮かべ、鷹揚に頷いた。


「でも……」


「でも、どうしたの? いいじゃない。互いにフリーで触りたい放題できるなら、公平だよ。貴方だって相手に触れたい気持ちは分かるでしょう?」


「それは、そうだけど……でも、俺、照れてあんまり普段から触れないから、そうするとやっぱりフェアじゃないというか。大体、いつでも引っ付かれるのが面倒くさくて駄目って言ったのに、本末転倒というか。それに、結局———ちゃんが俺の体目当てになるのも不満というか」


 モゴモゴ、モソモソと口を動かす彼の姿がじれったい。


 うんうんと頷きつつ、そっと近寄っていって背中からモギュッと彼を抱き締めた。


 すると、ふんわり優しい香りが鼻孔に広がって非常に癒されたのだが、

「ちょっと!」

 と、彼に鋭く叱られ、もがかれてしまった。


「いいじゃない。もう少しだけ。好きなんだってば」


「それは分かったけど、ちょっ、コラ! 今、お尻触ったでしょ! 結局そればっかなんじゃん。もう知らない。色欲まみれな———ちゃんなんて、もう知らないからね!!」


 私と彼では体格的にも腕力的にも彼の方が優れている。


 そのため、物理的な争いにおいては圧倒的に彼が有利だ。


 私などは簡単に振りほどかれてしまい、あっという間に、彼のダルっとしたスウェット越しの腰にしがみつくだけで精いっぱいになってしまった。


「もうちょっと抱き着きたい! もうちょっとだけだから」


「駄目だって! ていうか、なんか恥ずかしいからお尻の近くで喋らないで!」


 グイグイと頭を押し付けてくる彼とは反対に、私はスウェットの腰回りに抱き着いて這い上るように力を込め続ける。


 そうやって争っていると、突如、彼のスウェットの下が脱げた。


 主な原因は私が彼のスウェットにガッチリとしがみついていたことと、そもそもスウェットがかなり緩くなっていたことだ。


 だが、同時にボクサーパンツまで脱がしてしまったのは、私のしがみつき方が原因である。


 私は確かに彼と戯れたかった。


 彼に触れて、ちょっぴりスケベなこともして、とにかくイチャイチャしていたかった。


 ラッキースケベも欲しかった。


 だが、流石の私も彼の立派な息子さんをLEDライトの下に晒してやろうとは微塵も思っていなかった。


 ひたすら気まずく申し訳ない空気を生むコレはラッキースケベなどではない。


 大事故である。


 私は無言で彼のパンツとズボンをずり上げた。


「———ちゃん」


「はい」


「俺に言うことあるよね」


「ごめんなさい。あの、本当に反省しています。流石の私も、本当に、———君の股間を晒してやろうとか思ってなかったんです。あの、こればっかりは、あわよくばとかも思ってなかったんです」


「本当に?」


「本当です」


 確かに私は彼に対して痴女だろうが、それでも比較的ライトな痴女だ。


 比較的触りやすい所しか触らないし、悪戯するにしても軽いものばかりで下ネタだって小学生レベルの物しか基本的に取り扱っていない。


 そこまでのゲスではないことを、どうか信じていただきたい。


 今日で数度目かになる真摯な瞳で彼を見つめると、彼は少し考えた後に小さく頷いた。


「じゃあ、事故なのはわかったけど、でも、そもそもは———ちゃんが俺に襲い掛かったから起こった事故だよね」


「はい」


「今日は俺に接近禁止ね」


「眠る時も?」


「ベッド一個しかないから、せめてもの恩情で一緒に入ってもいいけど、触るのは禁止ね」


「抱き着くのも駄目ですか」


「駄目です」


 毅然とした態度で出される判決に私の顔色がサァッと青ざめていく。


「酷い。私、何かしら抱っこしてないと寝れないのに!」


「当然の報いだから、今日は大人しく抱き枕でも抱っこしながら寝なよ」


「……はい」


 自分でもわかるほど声に覇気が失われ、視線も伏せがちになった。


『かわいい彼に触れないのキツイ。特に寝る時にくっつけないのがキツイ。彼の香りを嗅ぎながらモチモチの胸に包まれて、しがみついて、そうやってぬくぬく安心しながら寝るのが大好きだったのに』


 仮に自分が原因だと分かっていても、辛いものは辛いし悲しいものは悲しい。


 切なくなったら彼に触っておくのが鉄則なのだが、今日はそれができないので落ち込んだままでいるしかない。


『今まで息するように触ってたから、呼吸をはく奪された気分になっちゃった。見てると触りたくなっちゃうから、今日はもう、寝ちゃおうかな』


 幸い、風呂は済んでいる。


 ふて寝をするようにベッドで寝転がって抱き枕をギチギチと抱き締めていると、そう時間の経たない内に彼も隣にやってきた。


「寝るの早くない?」


「そっちこそ」


「だって、私は……」


 なんと説明したらいいものか、モゴモゴと口籠っていると彼がムギュッと私を抱き締めた。


「俺はさ、一人で起きてるのも暇だから、一緒に眠ちゃおうかなって思ってきたんだ」


「そっか。あ、あのさ?」


「どうしたの?」


「抱っこしてくれたってことは、許してくれた?」


 抱き返してもいい? と希望の籠った瞳で暗に問いかけ、期待の渦巻く瞳でジッと彼を見つめる。

 しかし、彼は無情にも首を横に振った。


「駄目だよ、今日は許してあげない」


 悪戯っぽく笑う彼がアッサリと絶望を吐く。

 パキリと固まる私を見て、彼はますます無邪気な笑みを深くした。


「さっきさ、———ちゃんは『いくらでも自分のこと触って良いよ~』って言ってたでしょ」


「言ったね」


「そしたらさ、もしかして今日って普段あんまり触れてない———ちゃんに触るチャンスなんじゃないかと思ったんだ」


「え、いや、チャンスも何も、明日も明後日も、ずっとそうだよ。チャンスは常に目の前に転がっているよ?」


「確かにね。でも、———ちゃんが俺に触れないのは、一方的に俺が———ちゃんを触れそうなのは、今日くらいじゃん。せっかくだから楽しんでおこうと思って」


 彼の大きな手が毛布の中をモゾモゾと這いまわって大胆な行動に出る。

 反動でビクッと私の肩が跳ね上がり。抱き枕を抱き締める力が強くなった。


「変なところに手を入れないでよ」


 抱き枕を可能な限り体に密着させて、彼の触れることができる範囲を狭めているのだが、貪欲な手が簡単に防壁を突破してくるから笑えない。

 にっこり笑う彼は優しい姿をしていたが、中身はまるで優しくなかった。


「変なことはしてないよ。それに、触っていいって言ったのは———ちゃんでしょ」


「それは、そうだけど」


 少し前に、彼に「いくらでも触って良いよ」と言っといてなんだが、本当は、私は触られるのが苦手だ。


 嫌悪感は全くないが、とにかく恥ずかしくて、一方的に触られると逃げ出してしまいたくなる。


 そして多分、彼は触ることも好きだが、どちらかというと「私をいじめること」が特に好きだ。


 この状況は、多分、まだちょっぴり私に怒っていて報復がしたくて、それでいて遊びたいとも思っている彼にピッタリだ。


『不味い事になった』


 サァッと顔から血の気が引いて、ゾワリと二の腕に鳥肌が立った。


 逃げ出す腰をキュッと引いて、ついでに手首を柔らかく握り自分の方へ軽く引く彼は相変わらず無邪気で子どものような明るい笑顔を浮かべている。


「そんな風に何処かへ行こうとしないの。俺と一緒にいよう」


 逃げようとしても咎められることはないが、実際に逃走することはできず、おまけにキリキリと拘束も深まってイチャつきが苛烈になっていく。


 真っ赤になった耳に入り込む彼の言葉がやたらと色っぽい雰囲気で、せめて触り返さなきゃ羞恥の募る甘さに対抗できないのに、触れることだけは明確に禁じられている。


 恥ずかしい夜に頭をぼかされて酷い目に遭った私は明け方、今後は可能な限り彼を怒らせないようにしようと心に誓った。

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