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第8話 正座



俺と恭司さんはとある部屋で仲良く正座して、既に30分ほど時間が経っている。


足が痺れて痛い。


目の前には、楓さん、清水先生、それと恭司さんのお姉さんである近藤春香さんが口から泡を吹きそうな勢いで俺達に向かって話かけており、終わる気配がない。


何でそんな状況になったのかと言えば……






「ここがガキンチョの母親がいる病院か、しかし、でけえなあ」


陽菜ちゃんに聞いて向かったのは、都内でも有名な大学病院だった。


「こっちだよ」


お姉さんと来たことがあるのだろう、陽菜ちゃんが案内してくれた。

病室は4人部屋で、奥のベッドに母親はいた。


「陽菜、どうしてここに?ごほん、ごほんっ」


陽菜ちゃんのお母さんはたいそう驚いたようで、目を丸くして驚いている。慌てて咳き込んだかと思ったが、そうでもないらしい。


どうやら、陽菜ちゃんのお母さんは相当具合が悪いようだ。


俺は簡単に、ここまでのことをお母さんに説明し始めた。

説明を聞いたお母さんは、少し落ち着いてきた。


「すみません。陽菜がご迷惑をおかけしたようで」


「こちらこそ、本来は警察に知らせしたほうが良かったのでしょうが、そうすればお姉さんにも連絡がいきますし、何が正解かわからなかったのですが、最終的にこちらに来てしまいました」


「俺が行こうって言ったんだ。拓海のせいじゃない。お母さん、すみません、俺が強引にみんなを連れて来たんです」


「ええ、お兄ちゃん達が悪いんじゃないよ。陽菜がお母さんに会いたかったんだから」


それを聞いた陽菜ちゃんのお母さんは「良い人達で良かったです」と、安堵していた。


「でも、陽菜は学校はどうしたの?きっと先生やお友達、それにお姉ちゃんも心配してるよ」


「う……ごめんなさい」


淋しくて母親に会いたかったことに罪はない。

だけど、その行動で誰かに心配をかけたのなら謝るのがスジだ。

それをわかっている陽菜ちゃんは、賢い子だと思う。


「それで拓海、頼まれてくれるか?」


「わかってる」


俺は、ことわって陽菜ちゃんのお母さんの手を握る。


俺は眼を閉じて意識を集中する。

大腸ガンから肺に転移、既にリンパを通して全身に回っている。


本来なら、清水先生のいる病院に転院してから治療をするべきだが、このままでは、手術はできない状態だろうし、いつ亡くなってもおかしくない。


俺は力を込めて、能力を発動した。


頭の中に、痛みと共に身体の情報が流れてくる。

そして、1分ほどで病巣を取り除くことができた。


「はあ〜〜はあ〜〜」


フルマラソンをしたような息遣いが俺を襲う。


「あの〜〜どうかしましたか?それに何だか身体が軽いのですが……」


驚いたのは陽菜ちゃんのお母さんだ。

突然、手を握られてしばらくすると身体が楽になっているのだから。


「拓海、大丈夫なんだよな?」

「うん、これで問題ないと思う。だけど、新たな問題があるんだけど」


あの重篤な状態から完治したとなれば、大騒ぎになるのは目に見えている。それに、この事を誰かに知られるわけにはいかない。


清水先生にお世話にならないといけなくなった。


「恭司さん、悪いけどちょっと連絡してくる」

「おお、わかった。俺は、しばらくここで様子を見てるよ」


そして、俺は病院を出て清水先生に連絡を入れたのだった



その後、清水先生と楓さんがやって来て、陽菜ちゃんのお母さんの転院手続きが始まった。


こういう時、竜宮寺家の名前は融通が効く。


だが、しばらく病室にいるとこれだけでは終わらなかった。

警察の人達が来て、俺と恭司さんさんは少女誘拐の犯人として事情を聞かれたのだった。


陽菜ちゃんやお母さん、そして楓さん達の説明により話はついたのだが、

俺には楓さんが身元引き受け人として、恭司さんは家に連絡を入れられ、お姉さんの春香さんが身元引き受け人として病院まで来ることになったのだ。


それから、陽菜ちゃんのお母さんの転院の手続きが終わり、移動して清水先生の勤務する竜宮寺家直営の病院に来たのだが、現在、応接室の一室を借りてこの状況になったのだ。



「で、反省はしてるの?」


「拓海様、拓海様が望むのであれば治療行為は止めません。ですが一報入れていただかないと、拓海様の身に何かあったら私は……」


「バカ弟!みんなに迷惑掛けてどうするんだ!お前は拓海くんのボディーガードだろう?お前が拓海くんを危険に晒してどうするんだ!」


清水先生、楓さん、そして春香さんはたいそう怒ってらっしゃる。

楓さんの場合は、心配かけ過ぎて心が痛い。


(足の痺れって能力で治るかな)


怒られて反省もしながら、そんなことを考えていた。





その日、楓さんとホテルに泊まった。

別にイヤらしい目的とかではなく、ただ単に襲撃された部屋の修理が終わってないからだ。


それでも明日には終わるようで、普通の工期より大分早いという。


楓さんと夕食を食べ、休むことになった。

勿論、部屋は別々だ。


ベッドに横になるといろいろな事が頭に巡る。

助けられて、薬物が抜けてきはじめた時から、眠るとうなされるようになった。


それが、毎晩のように続き、次第に寝るのが怖くなってしまった。

今でも、睡眠導入剤無しでは眠ることができない。


(それでも、強い睡眠薬を飲んでいた時よりマシなのだが)


ひどい状態の時は楓さんが側に付きっきりに世話をしてくれた。

ほんと、楓さんには迷惑をかけっぱなしだ。


(それに、もう気づいているよな)


治療の後遺症で痛みを感じるとは言ってある。しかし、その他のことは言っていない。


襲撃があった時、明らかに霧坂さんが侵入者を倒したのではないと気づいているはずだ。


それに、霧坂さんからも話を聞いているはず。


(楓さんだけには話しておくか……)


一度楓さんを治療したことがある。

その時から感じている気持ちは嘘ではない。


だが、自分自身が怖いんだ。

人であって人ではない。

いつか、そんな事を言われてしまうのが……


薬を飲んだけど、今夜は眠れそうもない。

起き上がって、窓辺にある椅子に腰掛けて外のネオンを観る。


照らされた灯りひとつひとつに人の暮らしがある。

どんな事を考え、どんな事を夢見てるのか。


俺はこの先、どうなるのか?


「誰か、俺を助けてくれよ」


答えがない事は知っている。

だけど言わずにはいられなかった。


『タッくん、何黄昏てるの?』


ふと声がする。


「この声は……アンジェか」


『声を出しちゃダメだよ。この部屋には盗聴器があるから』


俺は黙って頷いて、念話に切り替える。


「風邪ひいてないか?」


『あっ、そうか。タッくんエッチだね。私、もう服を着てても透明になれるんだよ』


「そうだったのか、成長したんだな」


『うん、頑張ったんだ。だって、タッくんに姿見せられないじゃん。裸だと』


「施設の時は平気で裸になってたけどね」


『あの時は子供だったから、私、もう16才だよ。タッくんの一つ上のお姉さんなんだから』


「誕生日が俺より早いだけで同学年だろ。だけどあの頃とは違うか。もう、大人の仲間入りだよな」


『そうそう、ナイスバディーなんだから。見たらきっとタッくんも驚くよ。こんな超絶美人は見た事ないって』


「それは楽しみだ。それよりどうやって暮らしてるんだ?食事とかお金とか」


『それは、いろいろしてるよ。あとは乙女の秘密』


「困ったら訪ねてくれ。出来るだけの事はするよ」


『じゃあ、今夜一緒に寝てくれる?まだ怖い夢見るんだよね』


施設の時からアンジェは度々やってきて添い寝をしている。


「いいよ。俺も最近眠るとうなされるようになったし」


『それって薬が抜けたから?前は、タッくん朦朧としてたから都合がよかったのに、少し残念』


そんな事を言うのはアンジェだけだ。


「俺が朦朧としてた時、何したんだよ。言え」


『それは乙女の秘密だってさっきも言ったでしょ』


「乙女の秘密が多くないか?まあ、いいか、アンジェだし」


『酷い、こうなったら冷蔵庫にあるジュース、全部飲んじゃうからね』


「コーヒーだけ残しといて」


『へ〜〜タッくんコーヒー好きなんだあ〜〜、大人ぶっちゃってさ、なんかおかしい』


「いいだろう?好きなものは好きなんだから」


『じゃあ、私の事は好き?』


「……好きだよ」


『ちょっと間があったけど、許してあげる。さあ、一緒に寝よう。昔みたいに』


そして、俺達はいつの間にか眠りについていた。


夜、うなされることも悪夢を見ることもなく……



ーーーーーーーーーー


登場人物


近藤春香(22才)


近藤道場の長女。

空手の腕前は、弟、恭司よりも上。

大学在学中に服飾に興味を持ち、卒業後に今年からデザイナーを目指して専門学校に入学した。

密かにコスプレを楽しみ、ネット界隈では結構有名人でもある。





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