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霧の館3

--- 廊下 ---

僕はキリとの半ば詰問に近い会話に耐え兼ね、逃げるようにして大浴場を後にした。

慌てて部屋を出たこともありその先どうするのかを考えていなかったのだが、部屋のすぐ横を見ると女性が一人ポツンと佇んでいた。

白髪の髪を後ろでに括り、顔にはうす張りで丸みを帯びた眼鏡をしている。

白と黒で統一された給仕服を着用していることから、恐らくはこの館の使用人か何かだと思うのだが。

と、呑気に考えを進めていると、部屋の中から出てきた僕に気づいたのか、彼女がこちらを見やりお辞儀をする。


「お待ちしておりました、コガネハラ様」


僕は「どうも」と小さく返す。


「使用人のタカハラと申します」

「本日ご使用頂くお部屋へとご案内を差し上げに参りました」


彼女は抑揚のない透き通るような声でそう言い放つ。

僕よりも少し大きい身長(目算で170と少しだろうか)も相まってか、弱冠にして威圧感を感じるような態度だ。

そうして気後れしながらどきまぎとしていると、彼女は体をクルリと反転させ客室へと進み始める。

一連の動きや表情から見て、まるで機械の様な人だなと内心で思いながら、早足な彼女の後を付けていった。


--- 客室 ---

案内をされるまま廊下を進むと、先程通り過ぎた玄関ホールに差し替かった。

どうやら客室というのは2階にあるらしく、タカハラは玄関ホールの奥に位置する、階段へと足を進めた。

2階へと続く階段は踊り場で二手に分かれる形になっており、僕らは左に進路を切って階段を上る。

と、突然前を行くタカハラの足が止まった。

何事かと思い顔を上げてみると、段差の途切れた先に1人の青年が佇んでいた。


「...............」


彼は無言でこちらを見やる。

少しばかりの沈黙の後、タカハラが頭を下げ階段の端へと身を寄た為、客人である僕もそれと同じようにして態度を低くした。

コツン、コツン.........。

青年は階段を下り始め、閑散としたホールの中に静かな足音が響く。

気づけば、粘性の霧のような静寂が僕を包み込んでいた。

この嫌な感覚の基となる物といえば、当然僕の目の前を通るこの男である。

位置関係もあるのだろうが男の体躯はかなり大きく見え、それに加えてこの無言の圧が一層と緊張感を漂わせる。

(先ほどのキリとは大違いだ)

空気は肺全体に纏わりつき息苦しさまでをも思わせていた所で、ふとホールに響いていた足音が止んでいる事に気がつく。

恐る恐る顔を挙げてみると、そこには少し眉を吊り上げ不機嫌さを露わにした青年が立っていた。


「は、初めまして。今日からこの館にお世話になります、コガネハラと申します」


と、咄嗟に自己紹介をしてみたが、反応はない。


「..........」


そのまま僕を少しの間睨みつけた後、青年は静かに階段を降って行った。

ホールの左側へ彼が抜けていくのを確認すると、ガチガチに強張っていた肩からスッと力が抜けるのを感じた。

一呼吸置いた所で、タカハラから「では」と足を進める合図が出た。

僕は瞬く間に階段を登ってゆく使用人を追いかけながら、「彼もこの館の住人なんですか?」と問う。

質問を聞いてか、前を行くタカラハの足が止まり


「あの方は、サザナミ様と申します。」


と答えを返してくれた。

それにしても、先ほどのサザナミという青年。

中々に付き合いの悪そうな風だったが、僕以外の人間に対してもああなのだろうか。

などと少しばかり内心をもやつかせていると、タカハラのくちが再度開かれる。

(しまった、内心での悪態を気取られてしまったか)


「サザナミ様は生まれつき耳が不自由な方ですので、なるべくお声がけなさらないようお願い致します」


あぁ、なるほど。

僕は「失礼しました」と謝罪をするのと同じくして、先程自身に向けられた不可解なまでの冷徹さに一応の説明が着いたことに安堵していた。

それにしても、あからさまに嫌悪感が感じ取れるようなあのねめつけ方、あれは恐らく先の事情とは関係のない行動だろうとも思った。

が、そんな事を気にしていてもしょうがない。

この煮え切らない感情は一旦奥底にでも沈めておく事にしよう。

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