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霧の館1

前を行く使用人の足がぱたと止まり、突然何もない場所をゆっくりと押す。

空気の中に隙間が出来始め、やがて煌びやかな内装の玄関ホールが現れた。

件の館に施される迷彩は、近づけば近づくほどにその効力を発揮する作りになっており、扉が開かれる様子はさながら魔法に思えるほどだった。


「どうぞ、お上がり下さい」


薄暗い赤色に染められた絨毯を踏み締め、霧の館への一歩を踏み出す。

館と外観の境目が曖昧な為か、断絶された空間に来たのだ という感覚が頭の中を埋め尽くす。


「さて、早速館のご説明をと思いましたが.....どうやら随分とお疲れのご様子で。説明は明日でも遅くありません、今日はもうお休みになられた方がよろしいかと」


ゲンノは酷くやつれた顔の僕を見かねてか、そんな提案を投げかけてくれた。

時刻は17時を回ろうかという所、眠りにつくには少し早いがこれ以上疲労に逆らえる気もしない。

僕は大人しく忠告を受け入れる事にしたのだが


「コガネハラ様」

「お休みになる前にご入浴はいかがでしょうか、もちろん着替えの衣服もこちらでご用意いたしますゆえ」


言われて僕は、自身が館に見合わぬ恰好である事を今更のように思い出す。

(流石にこのなりで部屋を借りるのはまずいか)


「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます」


と答えると、「ではこちらへ」と大浴場へ足を進め始めた。

何日ぶりの入浴だろうか、見た目もさることながら恐らく匂いも相当な物だろう。

(つくづく迷惑をかけてまっている、かといって何か返せる物も無いんだけれど)


ーーー 大浴場 ーーー


大浴場へ入ると、僕はいきなり視界を奪われた。

というのも、中には湯気が充満しており、あたり一面が白く(もや)の掛かった状態となっていたのだ。

完全に周りを把握できない程ではないのだが、いかんせん風呂場ということもあり足元が滑りやすくなっている。

(これは、浴槽に辿り着くだけでも一苦労だな)

幸いなことに、洗い場は入り口の直ぐ右側に設置されていた為、取り敢えずはそこで体を洗う事にした。

備え付けられたハンドルをひねり、シャワーで体を洗い流そうとしたところで。


「見かけない顔だね...........誰だい君は?」


いきなり後方から声をかけられた。

驚いて後ろを振り返るが、相変わらずの靄のせいもあり声の主を見つけることは出来ない。

とそこで、一面の白景色の向こうに黒い影の様な物が、ぼんやりと写り込んでいる事に気づく。

(あれが声の主か)


「ああ、すまないね。こんな中では満足に移動もできないだろう、今そちらに行く」


ばしゃり、と水を掻き分ける音がした。

恐らくあちらに浴槽があるのだろう、黒い影は段差を乗り越えるかして不規則に揺れながらこちらへと近づいてくる。

いくら視界が悪いとはいえこの距離だ、迫りくる影の正体を視認できる様になるまで、そう時間はかからなかった。


「おんや?なんだ、子供じゃないか」


僕は、迫りくるの影の正体に言葉を失った。

肩口まで伸びた髪。

男らしくかき上げた前髪から除く顔には切れ長の目に合わせて綺麗な鼻筋が通っており、男の僕からしても中々の二枚目に見えた。

が、問題はそこではない。


「あの、あなた()()ですよねっ!?」


先程見えた中世的な顔立ちの人物は、あろうことか女性の体を携えていた。

驚きで我を忘れていた僕は、はっとした後にようやく彼女から目を背ける。

(なんてこった、初めて女性の全裸を見てしまった)

そして裸を見られた本人はというと、慌てふためく僕をよそめに何やら訝しげな顔をしながら


「その反応.........。なるほど道理で初めて見る顔だ」


と、なにやら一人で納得した様子だった。

(いや、冷静すぎるだろう)

そもそもの話、この人には恥じらいってものが.........そうか、ないのか?


「まあそう慌てるなよ少年、取り敢えず風呂でも入りながら話を聞かせてくれ」


言うと、切れ長の瞳によく似合うニヒルな顔をつくる。


「ここの風呂は格別だからね」


僕は唸る心臓を抑えながら、おずおずと頷きを返した。


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