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希望の街

最後の街を経ったのは、いつだったか。

日の光すらまばらになる、荒野の中。

眼前を覆いつくす程の砂嵐を掻き分け歩みを進めていた足も、遂には限界を迎えかけていた。

状況は絶望的と言ってもいい。


「っ!あれは、、」


眼前に広がる砂塵の奥に都市の明かりを微かに捉える。

気づけば、自然と膝はくず折れていた。


「急がないとまずいな」


錆びかけの体に鞭を打ち、足を立てる。

しかして、眼前の光を目印にしながら藻掻(もが)き苦しむ彼の思いとは裏腹に、荒野を取り囲む砂嵐は一層うねりを増していく。

まるで、希望を夢見る彼を、あざ笑うかのように。


ーーー 希望の街 ーーー


「この嵐の中をそんな貧相な格好で、なんとまあ命知らずな若造ですね。ですが安心なさってください、そんな無茶で無謀で無駄とも言えるあなたの努力は、たった今報われたのです」


なんとか街の門まで辿り着いた僕は、そんな言葉で出迎えられた。

綺麗な茶褐色のスーツを羽織るオールバックの色男。

見るからに身分の高そうな見た目をしているが、この街の貴族か何かだろうか。


「それはどうも。歓迎のお言葉は大変ありがたいのですが見ての通りくたくたでして、よければ水を一杯頂けませんか」


と、少し苛立ちを見せた表情で答える。

やっとの思いで街に辿り着いた矢先、哀れみとも蔑みとも取れるような言葉を浴びせられたのだ。

これくらいの悪態は付かせてほしい。


「おや、これは失礼致しました。すぐに関所へご案内しましょう」


言うと男はスーツの内側から通信機の様な物を取り出し、短く言葉を発した。

彼が通信にかまけている内に、改めて街の外装を見る。

砂嵐を遮るような外壁が孤を描きながら左右へ伸びており、上の方を見ると何やらドーム状に街を覆う透明な膜の様な物が張り巡らされていた。


「申し遅れました。わたくし、この街の管理人をしております、サジョウ セイラ と申します。以後お見知り置きを」


男の芝居がかった口調に胡散臭さを感じ始めていた所で、街の門が開き煌びやかな迎車が進んでくるのが見えた。

どうやら、街の管理人というのは嘘ではないらしい。

そうして僕はサジョウと名乗る男に連れられ、目的の"希望の街"へと足を踏み入れたのだった。


ーーー 関所 ーーー


「名前はコガネハラ ユキト、年齢は17歳で職業は商人ですか。この若さで商人とは、実に逞しい!」


そんな見え見えのお世辞に対し、僕は「どうも」と小さく返事をする。


「さてさて、いきなりですが本題と行きましょうか。ずばり、コガネハラ様はこの街に一体何をしに来たのですか?」


サジョウは自身と対照的なぼろきれの様な僕を、ねめまわす様に見た後にそう問いかけた。

仕事柄なのかこいつの性分なのかは分からないが、他人を値踏みするような態度がどうにも鼻につく。


「ああ、目的とかは特にないんです。ただこの街が........」


この街が幸福に満ちた"希望の街"だと、そう呼ばれていたから。


「なるほど、幸福に満ちた....ですか。その様な噂を信じて地獄の嵐の中を進んで来られたのですねぇ」


そんな妄言を信じて、とでも言いたげな態度で彼はそう言った。

そりゃ僕だって本気で信じていた訳じゃあない。

ただ、幸福に満ちたなんて大層な噂が出回るくらいだ、そう呼ばれるだけの何かがあるのだろうとは思っている。


「いえいえ、その噂もあながち嘘ではないのですよ。」


噂が、嘘じゃない?


「じゃあ、この街にはあるんですか?あんな妄言の基となる、幸福を体現した何かが」


「ええ」と彼は不敵な笑みを浮かべて頷いた。

またこの顔だ。

僕は、先ほどから続く男の芝居がかった態度に苛立ちを覚えつつあったが、取り敢えずは男の説明を大人しく受け入れる事にした。


「コガネハラ様は、"人間の三大欲求"というものをご存じでしょうか」


勿論知ってはいる、食欲・性欲・睡眠欲の3つだったか。


「ご名答。三大欲とはつまり、人間であれば誰しもが持っている欲の原点となる物です。しかし」


男は一呼吸おいたのち、劇場さながらの表情で


「この街に住む人間は皆、三大欲が欠落しているのです」


と口にした。

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