陣取り合戦4
(side 大瀬)
紅様を助けに子どもたちが我先に山へ入っていった。
ただ伊三郎様と数名は残っている。
伊三郎様は夜の間中立っていた場所に、まだ立ち続けていて、その姿を背後からご家老が静かに見守っている。
「大瀬」
「はっ」
「おまえの見立てではどうじゃ。紅は無事か?」
「帰路に急ぎ無理をされていたら、川の増幅に巻き込まれていらっしゃるかもしれません」
ご家老が睨むようにこちらを見る。
「しかし正しい判断をされたなら、どこかに身を潜めていらっしゃるかと」
ご家老はもう一度山へと視線を移した。
気が気じゃないだろう。
本当なら、栗林家のご家来衆総出で探したいところ。
栗林家からやってきた男もソワソワ動きまわっている。
「ご家老。子供たちだけに任せて良かったんですか」
「かまわん」
ご家老は動こうとはしなかった。
娘を、そして少年たちを信じているんだろう。
「しかし伊三郎は殿に似てきたな」
「えぇ。そして、あのご采配。堂々としておられますね」
「平賀は安泰じゃな」
最近の伊三郎様の成長は目を見張るものがある。
先程の男がふとつぶやいた。
「平賀は、どちらにつくのでしょう……」
確かに気になる。
薩摩や長州の動き次第では戦も覚悟しなければいけない。
隣をチラリと見たご家老は、
「幕府の方に決まっておろう。滅多なことを申すでない」
再び険しい顔を山の方へと向けた。