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全部未遂に終わって、王太子殿下がけちょんけちょんに叱られていますわ。

作者: 下菊みこと

「この愚か者!」


「…っ!」


いつもお優しい国王陛下が声を荒げて叱りつけるのは、第一王子にして王太子である私の婚約者ですわ。彼は、取り返しのつかない罪を犯そうとしていましたの。まあ、未遂に終わったのですけれど。


「政略結婚の相手との婚約破棄を、私の許可なく勝手に宣言し、挙句国外追放処分だと!?お前は政略結婚をなんだと心得る!?」


愚かな王太子殿下は、私を気に入ってくださっている国王陛下が国外へ外交に行っている間に、信じられない計画を立てていたのですわ。


―…私との婚約破棄、そして私の国外追放処分。


それは、誰がどう見ても越権行為としか言いようがありませんわ。


「父上、どうかそう怒鳴らず冷静になってください。私は愛のない結婚など意味がないと思います。私は真実の愛に目覚めたのです」


「なんだそれは…」


国王陛下は、王太子殿下の〝真実の愛〟発言に驚いて口を閉ざしましたわ。


「相手は男爵家の末の娘なのですが、とても無邪気で可愛らしい子なのです。彼女に嫉妬などを向けるその女より、彼女の方がよほど王太子妃に向いています」


「ほう、その娘の方が王太子妃に相応しい?…だからお前は愚かなのだ!」


「…っ!?」


まったくもって同意ですわ、国王陛下。


「身分があまりにも違いすぎるのがわからぬか!せめてお前の婚約者である彼女のような公爵家の生まれならばともかく、男爵家の末の娘!?信じられん!」


国王陛下に叱りつけられた王太子殿下は小さな声しか出せないようですわ。


「し、しかし」


「それに、その浮気相手の娘が無邪気で可愛らしい?高位貴族の長男達ばかりに媚を売っていると聞いているぞ!卑しい心根が透けて見えるわ!」


愛する女性を貶された王太子殿下は、声を荒げて反論しますわ。


「彼女はその可愛らしい容姿ゆえ嫉妬されて、同性の友達がいなかったのです。ですから私が友人達を紹介したのです!それを彼らの婚約者が嫉妬しておかしな噂を流しただけで、彼女は潔白です!」


「つまりお前のせいでいくつもの縁談が壊れたのだ!お前のせいで苦情が殺到しておるわ!」


王太子殿下は浮気相手に唆され、政略結婚など無意味だと本気で信じておりますわ。未だ自分のしたことを理解出来ないでおりますわ。


「で、ですから政略結婚など…」


「これだけ言ってもまだわからんか!どんなに正しいことを成そうとしても、力がなければ何も成せないのがこの世界だ!血の正当性は民を納得させる強力な力の一つなのだ!それを無意味だと言うのか!」


「…で、ですが、私の婚約者はあの子を虐めた悪女です!そんな者は王太子妃に相応しくありません!」


王太子殿下は本気で、私が浮気相手の彼女をいじめた悪女だと信じていらっしゃいますわ。お可哀想な王太子殿下。悪い女に誑かされてしまって、何もかもを失うなんて。


「…お前と婚約者には常に王家の影をつけてある」


「…は?」


「お前達が王太子、王太子妃に相応しいか確かめる為だ。お前の言ういじめなど彼女はしていなかった。そう報告が上がっている」


王太子殿下は浮気相手の彼女が嘘をついたとは思わないようですわ。往生際が悪い王太子殿下は、まだ反論しますわ。


「で、では周りの人間を使って!」


「そんな報告も上がっていない。『王家の影』だぞ?国外へ外交に行っている私に、お前の計画した悪行をすぐさま伝えてきた者達だぞ。おかげでお前をこうして止められたのだ」


「…なら、彼女が嘘を言ったと仰るのですか?」


王太子殿下はまだ理解出来ていないご様子ですわ。


「お前の愛人か、あるいは…身の程知らずにも程があるが、王太子妃になって成り上がりたかったのだろうな。既にその女は捕らえて牢に入れた。後日〝元〟王太子を惑わせた悪女として極刑にし晒し首とする。あの者を生み育てた男爵家の者達にも、追って然るべき処分を与える」


「な!なにを仰るのですか!」


王太子殿下に国王陛下は怒りを滲ませて叱りつけますわ。


「愚か者が!これは全てお前のせいだとわからぬか!お前が婚約者を真摯に愛してあの女に靡かなければ、あの女が極刑を受けることもなかった!お前のせいでひとりの女性が死ぬのだ!!!」


「…わ、私のせいで…人が死ぬ…?」


王太子殿下は顔色を失い、体を震わせて今にも失神しそうな憐れなお姿に。ああ、なんてお可哀想なのかしら。


「そうだ。そしてあの女が誘惑したお前の友人達も、父親から直々に何かしらの罰があるはずだ。あの女と引き合わせたお前のせいでな。憐れなことだ、きっともう家を継ぐことはできまい。せっかく貴族の長男として生を受け、将来を約束されていたのにな」


「私のせいで…友人達の将来が…?」


いっそ死んでしまえたほうが、今の王太子殿下にとっては楽でしょうに。ああ、お可哀想な王太子殿下。


「だが本当に可哀想なのはお前の婚約者だ。お前のつまらない浮気のせいで冤罪を被せられ国外追放処分。未然に防ぐことが出来たからよかったが、もし実行されていれば確実に酷い目に遭っていただろうな。お前は本当に、最低な男だよ」


「…あああああっ!」


初めて己が婚約者である私にしようとしたことに気付く王太子殿下。浮気相手が処刑は可哀想だから、国外追放処分が良いだろうと言ったからそうしようとしただけだと私は知っておりますわ。でもそれはすごく酷なことだったと気付いていただけて、唯一それだけは良かったですわ。


「私はお前を許さん。お前は王太子失格だ。お前より優秀な第二王子を王太子とする。なに、心配はいらぬ。第二王子の婚約者もとても優秀だ。お前がいなくなっても問題はない。お前は今、この場で王太子位を剥奪。生殖能力を奪い、離宮に幽閉する。…騒動が落ち着いたら、教会に出家させてやる。これはお前の婚約者が、お前への温情を願い出たからだ。感謝しろ」


「…謹んで、お受け致します。…婚約者なのに、今まで大切にして来ずすまなかった」


そこには、いつものキラキラした王太子殿下の姿はなく、完全に意気消沈していましたわ。そんなお可哀想な王太子殿下のご様子に、そして謝罪の言葉にやっと溜飲が下がりましたわ。


「この者を連れて行け」


「はい!」


国王陛下に仕える者達は、王太子ではなくなった第一王子殿下を離宮に連れて行きますわ。私はそれを見届けて、今度は国王陛下と向き合いましたわ。


「…では、そなたの処遇についてだが」


「はい、国王陛下」


「そなたには何の非も無かったと公表しよう。また私自ら正式に謝罪をする。本当にすまなかった」


「いえ…」


国王陛下は私に微笑みかける。


「そなたは本当に、王太子妃として優秀だった。こんな結果になり残念だ」


「ありがたいお言葉ですわ」


「これからは自分の道を進むがいい。幸せにな」


「国王陛下。この度は私を守ってくださって、本当にありがとうございました」


こうして私は、やっと解放されましたわ。














あれからしばらく経ち。私は公爵家でゆっくりしていますわ。


お父様とお母様はまだ王太子殿下に怒りを燃やしていますけれど、表向きには許して差し上げていますわ。将来公爵家を継ぐお兄様と、そのお嫁さんのお義姉様は私を心配してちょっと過保護になっておりますの。


優しい家族に支えられて、今は休養期間ですわ。


「でも、悪い話はなかなか消えませんわね」


第二王子殿下が王太子となり、その婚約者の方ともとても仲睦まじいと聞いておりますわ。


一方の私は、元王太子から捨てられた女と陰で蔑まれている様子ですわ。とても悲しいですが、どうしようもありませんわね。


面と向かって言ってくる者がいないだけマシですわね。


「お嬢様。お手紙をお持ちしました」


「まあ、誰からかしら」


手紙を受け取る。中を見てみると、幼馴染である伯爵家の長男からのもの。


内容は…プロポーズでしたわ。


「まあ」


婚約者が自分にはまだ決まっていないから、結婚しないか。そんな飾り気のないプロポーズ。私は思わず、彼らしいと笑ってしまいますわ。


「ふふふ。すぐにお返事を…と言いたいところですけれど、お父様とお母様の許可を頂かないと」


私は今までのブルーな気持ちが一転して、幸せな未来に向かって足を踏み出しましたわ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 淡々と物語が進行していくのにしっかりと構築されていて、安心感がありました。 ご両親と国王陛下がマトモな方で良かった。 [気になる点] お嬢様の新しいお相手とのお話も気になりますわ。
[良い点] 王様がまとも、という点 [気になる点] 元王太子から捨てられた女 なろうでよく見かけるコレ系、世界観の設定がとても気になります。 参考にしている時代の世界観ならば高位の婚約が成り立つ立場…
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