表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】妹の代わりに血も涙もないと噂の男爵の元へ嫁ぎましたが、何やら旦那様の様子がおかしい  作者: 七瀬菜々
第三章 アッシュフォード男爵夫人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/141

8:10回

「と、いうことがありました」


 急いで屋敷に戻ったイアンはリズベットと一緒に、テオドールから伯爵夫妻の目的を聞いた。

 感情や物事を脳まで持っていけないリズベットは脊髄反射で、夫妻に殴り込みに行こうとする。

 だが当然、そんなことは許されるはずもなく、イアンに首根っこを掴まれて引き止められた。


「ぐぇ……、苦し……」

「遅くなってすまんな、テオ」

「いえ……。まあ急でしたし、仕方がないかと」

「しかし何故こうなった?貴族が関所を通った時はすぐに報告を上げろと伝えていたはずだが?」

「馬車に家紋がなかったようです。騎士は平民に扮していましたし、中を検めた者は金を握らされたようで」

「ハッ!わざわざ身分を隠して現れるとは、良くないことをしている自覚はあるのだな」


 アイシャは家族のことを話す時、彼らには悪意がないと言うが、これで悪意がないのなら逆に怖い。

 良くない何かが取り憑いているのではないかと疑ってしまうほどだ。

 イアンは空いた方の手で髪をかき揚げ、深くため息をこぼした。


「その金を受け取ったバカはどこにいる?」

「牢に放り込んでます。どうします?」

「金を受け取った方の手をムチで打って、領の外へ追放しろ。二度とアッシュフォードの地を踏ませるな」

「了解」

「それと、関所の責任者も今一度気を引き締めさせろ。出入りが増えているからこそ、ルールはきちんと守ってもらわねば困る。必要なら俺が直接指導してやる」

「そういうのは僕に任せてください。あなたがやると死人が出るから」


 イアンの指導は死を覚悟せねばならない。テオドールは首を横に振った。


「ちょ……苦し、ホント死ぬから……」

「リズ、うるさいですよ」

「ひど……。助けてよ」

「それで?夫妻はどうしている?」

「客室にご案内しています。狭いだの何だの喚いていますが、知ったことではないので無視してます」

「護衛は?」

「大した数を連れてきていないようなので、とりあえず騎士団の隊舎に部屋を用意しました。一応、うちの騎士には、喧嘩したバカには英雄様の八つ当たり稽古の刑が待っているので覚悟するように、と伝えてます」

「八つ当たり稽古ってなんだよ」

「ただ旦那様がストレスを発散するためだけに行われる稽古ですよ。たまーにしてるでしょ?」

「……別にそんなことしてないし」

「目が泳いでます」

「うるせぇ。……あー、念のため、伯爵家の護衛はアイシャに近づけさせるなよ。最悪、無理矢理連れて行こうとするかもしれん」

「了解。ところで晩餐の用意もできていますが、ご一緒なさいますか?」

「ああ、挨拶くらいはしておかねばならんしな」

「ではそのように手配いたします」

「給仕にはニーナとメイド長あたりをつけておけ。あの二人は何があっても動じないだろ」

「すでに配置換えは完了してます」

「さすがだな」

「あと、バカとほぼ同じタイミングで子爵家からも使いが来たのですが、子爵様はちょうど領地を離れていたようで。バカの引き取りはまだ先になりそうです」


 子爵夫妻はジェラルドから連絡をもらい、急いで戻ってくるらしいが少しばかり遅くなるとか。

 テオドールはタイミングが悪いと舌を鳴らした。


「子爵様に怒っても仕方がないだろう。こんな風に秘密裏に動かれては手の打ちようがない。……アイシャは?」

「お部屋におられます。ランがついていてくれていますが……」

「そうか……」

「行かれますか?」

「もちろんだ」


 自分が行かなくて誰が行く。

 イアンは首根っこを掴んでいたリズベットを解放すると、上着だけ脱いで部屋を出た。

 解放されたリズベットは床に手をつき、呼吸を整える。

 テオドールは膝をつき、そんな彼女の背中を擦ってやった。


「し、死ぬかと思った……」

「リズはもう少し大人になりましょうね。脊髄反射で行動するくせを直しなさいといつも言われているでしょう?」

「子ども扱いしないでよ。あんたと大して変わらないはずだけど。……そういえば、テオって幾つなの?」


 そういえば年齢を聞いたことがなかったリズベットは彼の顔を覗き込み、首を傾げた。

 テオドールは少し考え込み、ニコッと笑う。


「ちなみに、リズは年上がお好みですか?」

「うん?まあ、どちらかというと?」

「ではあなたより一つ下ということで」

「ちょっと、それどういう意味よ」

「ところでリズ。相談なのですが、バカに自分がバカなのだと思い知らせるためにはムチを何回打てば良いのでしょう」

「そうやってすぐ話を逸らすんだから。というか、さっきは僕に任せてくださいって言ってたじゃん」

「それが……、大変はずかしい話なのですが、実は僕はバカではないので何回なら自覚してくれるのかがわからないのです」

「ねえそれ、あたしならわかると思って聞いてる?」

「はい」

「つまり、あたしのことバカって言ってる?」

「はい」

「くぅー!!腹立つぅー!!」


 地団駄を踏んだリズベットは、とりあえず10回くらい鞭打って、それでも分からなければ今世は期待できないから殺しとけと言い残して部屋を出た。 


「なんだ。10回程度でいいのか」


 残念だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ