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0:小鳥の囀り

「届いた?」

「届きましたわ」

「わたくしも!」

「私も!」


 暖かい日差しの元。とあるお屋敷の温室で開かれた可愛らしい小鳥たちが囀るお茶会。

 彼女たちは一通の招待状を持ち寄り、笑い合っていた。


「アイシャが北へ行くと聞いた時はとても驚いたけれど、元気そうでよかったわ」

「そうね。本当は嫁ぐ前に会いたかったけれど、決心が揺らぐからと伯爵様に拒まれてしまって」

「わたくしも、直接お屋敷まで伺ったのだけれど、やはり会うことを許されなくて。やっぱり窓からでも忍び込んでやれば良かった」

「私なんて、代わりにってベアトリーチェさんの相手までさせられたわ。代わりにって何よ。私、これでも侯爵令嬢よ?」

「まあ!本当に失礼な方ですのね。夫人は何を考えていらっしゃるのかしら」

「夫が陛下の側近だからと気が大きくなっているのよ。呆れたものね」

「まあでも、アイシャはこれで良かったのかもしれませんわね。南部の社交界では女は器量良しが持て囃されるけれど、北部の社交界では頭の良い女が持て囃されるもの」

「でもどうせなら、彼女のお相手はラホズ侯爵様のご子息が良かったわ」

「冗談でしょう?彼、まだ14歳よ」

「青田買いというやつですわね」

「まあ、早めに買って自分好みに育てるのもアリだわね」

「なんだか変態みたいよ、あなた達」


 アイシャのアカデミー時代の友人たちは口々にそう話す。

 あの、いつも儚げに寂しそうに笑っていた彼女は今、心から笑えているだろうか。

 彼女の夫となる男は、強く、けれど脆い彼女を守ってくれるだろうか。


「懐かしいわね。卒業パーティで浮気相手を侍らせて、婚約者に婚約破棄を突きつけたバカ男を理詰めで返り討ちにした話」

「そういえばこの時期だったかしら」

「あの婚約破棄されたご令嬢、アイシャと仲良かったの?」

「いいえ?ただ、彼女があの時、立っているのもやっとだったから少し手助けしただけだそうですわ」

「その少しの手助けで二人の人間の未来を潰したこと、自覚してるのかしらね。あの子」

「確か男の方は廃嫡、女の方は年老いた侯爵の後妻になったわね」

「意図せず侯爵夫人になれたのだから、彼女も大喜びでしたでしょうね。ふふ」

「あらやだ。それ、彼が10人の愛人を屋敷に囲う色欲魔だと知って言ってるの?」

「さあ、どうかしら」

「助けられたあのご令嬢は今どうしていらっしゃるのでしたっけ?」

「隣国の公爵家に嫁いで行かれましたわ」

「……あの子、地味に色んなところに味方を作っていそうね」


 そういえば、此度の魔族との和平も彼女のおかげだという噂を聞いたことがある。

 都市伝説のような噂の広がり方だが、友人である彼女達にはそれがただの噂とは思えなかった。


「なんだかんだと優秀な子だったものね」

「度胸もあるし、あれは王妃の器よ。決して大きな声では言えないけれど」

「ええ、大きな声では言えないけれど」

「わたくしのお父様、今頃になって後悔しているのよ。馬鹿みたい」

「ああ、兄君とアイシャの縁談の話ですか?」

「そう。お兄様はお馬鹿さんだから、ブランチェット家なら妹の方がいいとか言って。本当馬鹿みたい。自分の顔を鏡で見たことあるのかしら。選べるほどの顔をしていないくせに、身の程知らずにも程があるわ」

「たしか、夫人はアイシャを推しておられたのですわよね?」

「そうよ。だから一時期、お母様とわたくし、お兄様とお父様で家が冷戦状態だったの。懐かしいわ」


 結局、モタモタしているうちにその縁談は流れてしまったけれど、彼女の母君は今でもそれを後悔しているらしい。


「今後、どうなるかしらねぇ」

「ブランチェット家が?」

「皇室もよ。陛下はどうするおつもりなのかしら」

「今更すり寄るような無様は晒さないと願いたいけれど」


 これ以上、彼女が皇室や実家に振り回されるようなことがあってはならない。

 彼女たちは顔を見合わせ、大きく頷いた。


「そろそろ北部へ行く準備でもしておこうかしら」

「気合い入れないとね。普通に祝いたいのもあるけれど」

「北部の男を落としてこないと、ですものね」

「ふふ、そうですわね」

「……ねえ。そういえばあの子、誰とバージンロードを歩くつもりなのかしら」

「伯爵様?」

「ありえないでしょう」

「そうよねぇ」

「アイシャも早く捨ててやればいいのに。エレノア子爵はずっと彼女が手を伸ばすのを待ってるわ」


 アイシャの叔父、エレノア子爵はずっと彼女が娘になるのを待っていた。

 養子縁組の準備は整えてある。屋敷にはアイシャの部屋も用意されており、いつ来てもいいように毎日綺麗に掃除されている。

 あとはアイシャが助けてくれと手を伸ばすだけだ。


 家というものに縛られる苦しみを知る令嬢たちは、彼女が早く一歩踏み出すことを願っている。





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