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0:愛が平等ではなかっただけの話


 二つ年下の体は弱いが天使のような風貌の妹と、五つ年上の優秀な後継である兄。

 この二人に挟まれて生きてきたブランチェット伯爵家のアイシャは、裕福で歴史ある家門の長女として何不自由ない生活をしてきた。


 例えば5歳くらいの時、妹の世話をするからとそれまで両親と一緒に寝ていた部屋から追い出されて一人部屋を与えられた時も、その部屋は両親の部屋から一番遠かったが日当たりは一番良かった。

 例えば8歳から始まった淑女教育も、忙しい母親の代わりに叔母が担ってくれたが、彼女の指導のおかげでどこに出ても恥ずかしくない作法を身につけることができた。

 例えば14歳の社交界デビューの日も、エスコートこそ父でなかったが、その日のドレスはアイシャ自身が有名なサロンで何度もデザイナーと打ち合わせをして仕立ててもらったお気に入りの一着だった。


 そう、アイシャは恵まれていた。

 暴力を振るわれたり、食事を与えてもらえなかったようなことは一度だってない。

 必要なものはきちんと全て買い与えてもらえたし、必要な教育も受けさせてもらえた。

 だから、彼女は決して不幸などではない。


 

 ただ、妹や兄と違って、両親のアイシャに対する関心が少し薄かっただけ。

 妹のように構ってもらえた記憶も、兄のように期待された記憶もないだけ。



『お姉ちゃんになったのだから、我慢しなさい』

『お前の妹は体が弱い。だから、妹には優しくしなさい』

『お兄ちゃんはこの家の跡取りなの。お兄ちゃんの邪魔をしてはいけないわ』


 両親は常に、アイシャに対してそんな言葉を吐いていた。

 別に、この言葉が間違いであるとは言えないだろう。か弱い妹に優しくすることも、後継として重責を担う兄を応援することも、悪いことではないのだから。

 けれど、悪意のない彼らの言葉は着実にアイシャの心に傷をつけ続けていた。

 何のフォローもないのに、我慢することを強いられ続けたのだ。当然と言えば当然の事かもしれない。


『愛されていないわけではない。ただ、愛が平等ではないだけ』


 だから、これは仕方がないのーーーー。


 アイシャはずっと自分にそう言い聞かせてきた。

 自分の置かれた状況に少し違和感を感じながらも、それに気づかないふりをして、必死に両親が求める娘になろうと頑張ってきた。

 そうすればいつか、両親が自分の方を見てくれると信じていたから。




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