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警報の鐘が鳴り響き、爆発音と共に真っ赤な炎が屋根よりも高く燃え上がる。
晴れていたはずの空は黒煙で覆われ、煉瓦の家屋は大きな音を立てて崩れ落ちる。
混沌とした中を悲鳴をあげて逃げ惑う人々。飛び散る鮮血。
そっちでは血は赤いのか、と上官が醜悪に嗤う。
仲間を守るためにここまできたのに、なぜ壊しているのだろう。
死んでいく彼らは、同胞ではなかったのか。
自分の中に半分流れる彼らと同じ血が、警鐘を鳴らす。
これ以上進んではいけないと。
引き返せと。
そうでなければ後悔する、と。
ああ、これは何という名の地獄だろうか。
瓦礫の下、動けずに助けを求める男の声が。
死んだ母親に返事を求める幼子の泣き声が。
最期を覚悟して愛を紡ぐ彼の声が。
彼を亡くした彼女の叫びが。
全部。全部全部全部全部、ずっと。
頭の奥深くにこびりついて、消えてくれない。




