第七話 こんな主役とちっさい少女が恋バナをするとこうなってしまう
目の前で女の子がもじもじしている姿は何とも言えないものがある。
「…………」
「その、彼女とかいるの?」
感慨に浸る僕に向けて、意を決した千秋ちゃんは瞳を潤ませて問いかけて来たのだった。
「……ぷぷっ」
僕は千秋ちゃんの臭すぎる芝居に思わず吹き出してしまった。これがもし他の女の子から言われたのなら僕も戸惑ったかもしれない。
「ノウヤなら今はフリーだぞ」
「え! 何で!」
彼女は驚いたみたいで、猫撫で声から素に戻っていた。
「簡単な推測だよ。先ず初めに僕が今フリーなのを知っているし、友達としてしか見ていないチアキちゃんが僕の彼女の有無を気にする事は無いでしょ」
「そのっ……友達に聞かれたの」
一瞬で再び瞳を潤ませて上目遣いで見つめてくる。
「何だ。チアキちゃんが漸く恋に目覚めたのかと思ったら、友達の話か」
「ちっ、そこは素直に信じるのね」
彼女は残念そうに肩をすくめた。
「舌打ちはお行儀良くありませんよ。チアキちゃんが嘘を吐く時は僅かに目が泳ぐから分かるよ」
「えっ! そうなの」
知らなかった癖を聞かされた彼女は戸惑っていた。
「それで、僕に探りを入れるって事は同じ部活って事になる。ノウヤかクニイだけど、クニイは彼女居ないのを公言してるからな」
「確かに、クニイくんはマネージャーの子に夢中だしね」
千秋ちゃんがさも当たり前の様に言った。
「へっ?」
彼女の発言に驚いたが、確かによく考えてみるとそう思わせる節は有った。
「えっ、アレに気付いていなかったの? 逆に凄いわね……まあ、でも何で二人に限定したの?」
「チアキちゃんは顔が広いから、他のクラスだったらそのクラスの奴に聞くだろ」
彼女はクラス、男女、問わず友達が多いのだから当然そうするだろう。
「まあ、そうね。それで、私としてはヤマトくんに協力して欲しいの」
「具体的には?」
ここで安易に返事をすると面倒臭い事に巻き込まれ兼ねない。
「ノウヤくんの好きな人とか」
「彼奴は今特にって人はいないぞ」
納谷がモテる割に独り身なのは『本気になれる相手に未だ出逢っていない』という、愛されるより愛したい体質だからだろう。
「じゃあ、接点を増やす手伝いをして」
「ええっ」
いかにも面倒臭そうなお願いに嫌な顔をしてしまった。
「じゃあ、ヒメちゃんの事に協力してくれたら、私の友達とデートのセッティングしてあげる」
「ヒメジマさんだったのか」
姫島莉奈は千秋ちゃんの部活仲間で1年5組だった筈だ。選択授業や芸術科目は2クラス合同で何度か話した事も有る。
「それなら可能性は無くもないぞ」
「えっ」
姫島さんは納谷の好みにかなり近いタイプだし、何度か話している時に彼は若干照れている様子だった。
「じゃあ、協力してくれる?」
「あっ、でも待てよ。僕は部活辞める事になったからノウヤとの接点はクラスだけになっちゃうんだ」
それではあまり役立ちそうに思えない。
「何? どう言う事? あんなに一生懸命頑張ってたのに!」
「あっ、いや、ちょっと先輩と揉めちゃってね」
千秋ちゃんが物凄い剣幕で詰め寄って来たので、今日起きた出来事を掻い摘んで説明するのだった。