第六話 こんな主役は圧倒される
出されたアイスティーを一口飲むと、鼻腔に紅茶らしい香りが広がった。更に、しっかりとしたコクに適度な渋みが味わいを豊かにしていた。
「この紅茶、僕は好きな感じです。それに、微かに薔薇みたいな香りがする気がして不思議です」
給仕をした後も店長は近くに控えていたので、僕は感動を共有したくなって自然と感想を述べていた。
「お気に召したのならば良かったわ。それにお目が高いのね」
店長が言うには、ディンブラーの茶葉は1~2月のクオリティーシーズンに採れたものからは、ローズのような香りがほのかに感じられるとの事だった。
「他にも、美味しいものは沢山あるから、通ってくれると嬉しいかな」
そう言い残すと店長はカウンターの方へと行ってしまった。
その後は特に話しかけられる事もなく、ちびちびと味わいながらスマホを弄って時間を潰していた。
突然、カウベルが鳴り響き店に人が入って来た。
「あら、タイラちゃん一人? 珍しいわね」
「あ、いえ。待ち合わせなんですけど」
千秋ちゃんはキョロキョロとしながら店長と話していたが、僕と目が合うと手を振り出した。
「ああ、あのヤマトくんにこの店を教えてくれたのはタイラちゃんだったんだ……彼氏? 素敵な子じゃない」
「違いますから! まあ、良い人な事は否定しませんけど」
何だか含みがある様でも褒められるというのは照れ臭いものだ。
「お二人さん。全部筒抜けなんですけど」
「あっ!」
「ふふふ、態と聞こえる様に話しているのよ」
耐え切れなくなった僕は、会話に割って入った。千秋ちゃんはしまったっという表情になったが、店長は優雅に微笑みながら動じる様子は全く無かった。
「褒めても何も出ませんよ」
「あら、そうかしら。ひょっとしたら通ってくれるかもしれないし、口は無料なの損は無いわよ」
照れ隠しの言葉も、上手く言い返されてしまった。
「もっ、もう! 良い人って、勘違いしないでよね」
「分かってるって。良い友達って事だろ」
あたふたしてる千秋ちゃんの姿に僕は微笑みつつも、彼女が言いたかったであろう事を簡潔に口にした。
「わ、分かってるならいいの。アカリさん! いつもの!」
「はーい。ふふふ」
必死な千秋ちゃんの姿に笑い声を漏らしながら店長はカウンターへオーダー品を作りに行った。
「でっ、話が有るのだろ。何?」
「もう! 唐突ね。そんなんじゃモテないわよ」
二人になったので早速本題に入ろうとしたら注意を受けてしまった。
「僕がモテないのは知っているだろ」
「高校逆デビューだっけ。笑っちゃうわね」
僕は昔から女の子の輪に入るのが得意だった。シングルマザーで兄弟は姉のみという環境が影響したのかもしれない。お陰で中学時代に告白した女の子達からは『良い人なんだけど……』と友達以上には見れないという理由でいつも振られていた。
だから、高校に入って少し女の子と距離を置いていたら、殆ど関わり合いにならなずに過ごしてしまった。
千秋ちゃんみたいな例外を除いてはだが。
「それで、どうしたの?」
「あの……あのね」
千秋ちゃんは頬を赤らめモジモジとしているのだった。