第三話 こんな主役は反論し、ゴリラは咆哮する
「おい! 1年! 集まれ!」
2年生キャッチャーの緒方勉先輩が持ち味の大声で集合を掛けた。
「何だよ。良い所だったのに」
相手チームになっていた僕と同じ1年生ピッチャーの音羽一が、ぼやいていた。
「おい! お前ら何してるんだ!」
「サッカーです」
目を吊り上げて怒鳴っている緒方先輩に冷ややかな視線を向けつつも、僕は冷静に答えを提示した。
「んなもん、見れば分かるんだよ! 今は自主練の時間だ! 誰がサッカーをやろうなんか言い出したんだ!」
どうも、緒方先輩の怒りに燃料を投下してしまったみたいだった。
「はい。僕ですけれど」
こうなっては仕方ないので話し合いを試みようと、僕は名乗り出た。
「ヤマト、お前か! 何で、自主練の時間に遊んで良いと思った!」
「いえ、遊んではいませんよ」
誤解をしているみたいなので、僕は反論をした。
「サッカーをやってただろ! 遊んでんじゃねえか!」
「サッカーは遊びなのですか? では、この前まで日曜日は遊んでいたのですか」
冬場のボールを投げれない時期の練習は、日曜日にサッカーをしてリフレッシュ兼心肺機能の向上に充てていた。
「あれは、きちんとしたメニューだから問題ない」
「それなら、自主練でやってもきちんとしたメニューであって問題無いですよね」
音羽がもうやめておけと目で訴えて来たが、僕は間違っている事を言っていないので続けた。しかしそれは、体育会系の上下関係ではタブーになる先輩への反抗となってしまうらしい。
「いちいち口答えするんじゃねえ! そんなにサッカーがやりたいなら、サッカー部にでも入れ!」
「いや、そういうのとはちょっと違うんで」
僕はサッカーが大好きだ。しかし、本気でやって来た訳では無いので部活としてやりたいとは思っていなかった。
「ふざけるな!」
僕の受け答えが気に入らなかったみたいで緒方先輩が顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。その姿も相まってゴリラが咆哮している様だった。
「オガタ、落ち着け。ヤマトも今日はもう上がれ。少し頭を冷やして考えてこい」
キャプテンの小橋陽介先輩が、見るに見かねて間に入って来た。
「もう二度と来なくていいぞ!」
「はい、そうします」
確かに理不尽では有ったが、それでフラストレーションを溜めて意固地になる僕はまだまだ未熟者なのだ。それ故に反抗は止められなかった。
「良いから! ヤマトは一先ず帰れ」
「はい。それでは、今までお世話になりました」
諸先輩方に今までの感謝を込め、緒方先輩には皮肉を込めて頭を下げた。
「ヤマト!」
「もう二度と来るなよ!」
僕の行動に小橋キャプテンが抗議の声を上げるも、緒方先輩の怒鳴り声に掻き消された。
まだ顔が赤いままでカンカンな様子の緒方先輩が喚き散らしていたが、僕は背を向けてグラウンドを後にしたのだった。