風紀倶楽部が生んだ、こんな主役
スマートフォンがポケットの中で震えだした。
「お知らせか」
取り出したスマートフォンの画面には通知が表示されていた。
『今日の風紀倶楽部』
特報! 野球部の1年生Y、礼儀知らずな裏の顔!
独白! 野球部2年生O(オー)による証言。問題行動の一部始終を当事者の声で!
「えっ、これって、あの彼の事だよね」
「そうよね。良い人だと思ってたのに、流石にこんな事してたのなら幻滅だわ」
「ショックだわ。私彼の事結構タイプだったのにな。でも無いわー」
早速、記事を見たクラスの女子達がその話題に花を咲かせていた。
この風紀倶楽部というのは、榊大戸高校の学内サイトのコンテンツの一つである。
そもそも、これは数年前に国会の18番目の常任委員会として発足した、風紀等管理委員会が主導で進めたプロジェクトだった。
各都道府県に1校ずつ選ばれた特別指定校に、モデルケースとして運用される事になったのが三年程前の出来事だ。増加傾向にある未成年者の犯罪率低下の切り札としてテストするとの触れ込みだった。
学校側に相当額の資金提供があったのではと一時期話題になっていたが、授業料等が全額免除となった事で生徒数が減ることもなかった。寧ろ、増えている位なのだ。
元々は、生徒からの密告サイトとして始まった風紀倶楽部だったが、三年経ち今では三流のゴシップ誌のような内容になり果てていた。
▽▼▽
その記事は当然、当の本人である僕こと矢的就太の目にも留まる事となる。
「あらあら」
「これはまた、随分な偏向報道だな」
あまりにも真実とかけ離れている記事に僕は呆れ過ぎて、どこか他人事のように感じてしまった。しかし、同じ野球部だった国井大輔は僕なんかより全然憤ってくれていた。
「まあ、辞めた人間を悪者に仕立て上げるのは、使い古された手法だからな。それに、僕も少し大人げなかった所もあったからね」
「少し?」
皮肉めいた笑いを浮かべて近寄って来たのは、この1年6組のもう一人の野球部員の納谷勇だった。
「何か、言いたそうだね」
「いいや、ないけど?」
納谷は完全に僕を揶揄う気満々だ。
「文句は受け付けません」
「ははは、文句はないさ。あのゴリラパイセンのやり込められる姿を見せて貰ったんだからな」
納谷は心から楽しそうな表情をしていたのだった。
「だが、ヤマト。お前のそう言う屁理屈で無理やりやり込める姿勢は関心出来ないぞ」
どちらかというと、優等生的な性格をしている国井は少し顔をしかめていた。
「そうなのか? 僕的には理路整然と論理的思考で話し掛けていたつもりだよ」
「いやいや、あれは結構無理くり感あったぞ。理屈と膏薬は何とやらって感じだった」
納谷にまで否定されてしまった。
結果的に退部になってしまったので、大人げないかは別にしていい方法ではなかったのだろう。
僕は、今一度その日の事を思い出してみることにした。