不死の悪役令嬢は終わりを願ってた
不老不死、それは多くの知性者、貪欲者、善政者、征服者、独裁者が求む甘美な願い。だが知っている者は知っている。それは呪いのような物なのだと。
魂と言うのは回り続けており、記憶を星に払うことの対価で新たに生まれ落ちる。たまに払い切れず残った記憶を引き継ぎ生まれる事もあるが例外の一種だ。全ての生物がそうであり、私はそれを知る。不老不死はその枠を完全に外れてしまった異質な者である。長命であればいいが全く違うのだ。
そんな私は親も死に一人屋敷を相続し、一人で魔導を学び。理を知り、理を踏み潰す黒い魔法を覚えた。使用人は泥と石で作り上げ、知恵者として精霊、悪魔の召喚などを行い。ルールを決めて清掃や庭の手入れや仕事をさせる人形を用意した。誰一人、生きている者のいない屋敷で彼らはずっと仕事をしている。
工房で家具、薬を作らせてそれを売って金を生む。私は魔法で外見を誤認させて生活し、一人でやりくりする。
お金が必要な理由は食物がいるからだ。残念ながらそれがないと動けなくなり休眠状態になる。大きな傷でもそうなる故に気を付けなければならない。休眠状態は人を襲い食らうだろう。それは避けなければいけなかった。吸血鬼、グールになるのは嫌だと感じる。
そう、私が私である。私であるうちに終わりたい。それが唯一の芯であり夢である。
そんな私でも流石に窮屈に感じる事がある。長い時間、暇を持て余す。故に私は一つ遊戯をしようと考えた。悪魔でも私を殺すことは出来ず。研究の行き詰まりで空気を変えるつもりで……遊びに出る。
遊び先は王国の学園である。私はそこに入学した。数十年ぶりの学園は非常に年期の入った建物に変わり。私の知る先生も誰もかも知らない世界だった。もちろん、私は不登校をしている。
婚約破棄もされ母親父親に殺されたが今がある。二人は絶望し、そして……口を塞ぎ。私を隠した。兄妹もいたが今はもう絶縁である。いや、情報はある。
「……どんな学園生活になるんでしょうね」
希望もない。ただ、私は長い時の一瞬の戯れで入学した。願うように。
*
入学後、非常に噂になった。私の家は全く表へ出ないため。令嬢が居たことに驚かれ箱入り娘だと思われる。好都合で私は世間知らずを演じ、令嬢たちの輪に入らず。皆を見ていた。
時に水をかけられ、時に殴られたが。私は笑う。ほんの少しの痛みと。胸にある小さな憤りが私を生きていると証明してくれる。それが非常に心地よく。生を強く感じた。
無抵抗な私を彼女らは執拗に苛める。言葉で暴力で何度も何度も。それを私は受け入れた。喜びながら、戯れが非常に心を蘇らせてくれたと。悪意が心地いい。
「……そろそろ。演技もいいですね」
たった一言漏らし。私を蹴ろうとする足を掴んで転がす。驚いた令嬢たちに私は笑みを溢して御礼をいう。
「あなた方にいただいた恩を私は帰そうと思います。今夜、きっとお返しをします」
不気味がる令嬢たちはそのまま私から離れ次の日には泣きながら謝り、私はそれを見て羨ましいと漏らす。
「泣けるなんて羨ましい。私は……同じ事をされても泣けなかった」
私はそう言いながら彼女たちに恩返しの内容を説明した。呪詛返しと言う物で、言霊である罵声をそのまま彼女のたちにお返しをしたのだ。同じような打撲も含め遠慮ない暴力が彼女たちを夜に襲うのだ。それが私を痛めた日数かかる。10日ほどだ。
だから私はそれを呪いのような物と答え、呪いは逸らすしか出来ないこと伝えた。そして全員に一人一人こっそり伝える。呪いを他の人に渡す方法を。
次の日、彼女たち令嬢のグループは喧嘩が始まった。「誰が私に呪いを移した!!」と怒り出すのだ。私はそれに口添えする。呪いを逸らした人を探す方法を。
そうすると余計にグループは拗れ敵対し、私に許しをお願いする者も現れる。私は日数だけ答えて無視をし、そのまま過ごした。
5日後。口裏合わせで全員が一致したリーダーだった令嬢が自害した。そのまま呪いは残り帰り、また令嬢たちを苦しめた。中には我慢を選んだ子もいる。私は魔法使いのお役人に事情聴取を受ける。
もちろん、嘘は言わず。苛められていたことが明るみになる。学園でも問題になり、いつしか苛められていた令嬢たちから相談が集まった。私はそれに私と会った事を話せばいいと伝えた。
いつしか私は恐れられるようになる。観察していたが、距離を取る者と苛められていた令嬢がそのまま私を囲う。立場が逆転し、学園内がつまらなくなる。
暇潰しは面白かった。しかし、納得もした。長命の者があまりにも歪んだ者になる理由を理解した。つまらなくなるのだ。感情も乏しくなる。
そんな時、私は帰路で男に連れ拐われてナイフで首を切られる。暗殺された。もちろん、意識は失ったがすぐに目が覚めた。傷はなくなり、血だけを失うので喉が渇く。そんな中で私は知らない男に抱かれていた。
男は睫毛が長く、綺麗な整った髪型。清潔感、そして香水、服装から貴族の男性だと思われる。そんな男と目が合い。そして問いかけた。
「どうして私を殺そうと思ったの?」
だけど彼は首を振った。彼はただ、連れ拐われるのを見ていたと。そして追いかけて見た時には喉を斬られて今に至ると答えてくれた。真っ直ぐな真面目そうな好青年を私は信じてそのまま立ち上がり。魔法で集めた水を飲む。
落ち着いて様子を伺う彼に私は伝えた。今の不思議な状況はどう考えるかと。彼は「異常に回復力の強い人だ。騎士団にもいる」と答えた。私は納得し、頷いて肯定した。私は回復力があると。
彼はそれに納得し、暗殺される理由を聞かれて私は予想を答える。学園内で邪魔者となっている事を。そして逆に問いかける。何故、私を監視していたのかと。彼はそれに狼狽え、そして正直に答えてくれた。
「君がすこし気になった」
私はそれに根掘り葉掘り聞き、答えてくれそうにない質問があった場合は二度と関わらないと脅した。すると全て話をしてくれた。バカな話、一目惚れだそうだ。彼の身分もわかった。順位が低いが王位継承者の王族貴族様だった。
余計に一人で居るのも怪しく。護衛を聞くと路地表で待たせており、監視しているようだ。犯人捜しもしていると彼は言う。変わった出会い方に変な縁に私は彼に問いかけた。
「私を楽しませてくれませんか? 心が死にそうです」
不思議な質問に彼は頷いた。それから私は彼と過ごす。過ごす中で私は逆に敵視を集めた。有望株な男だった事がそれでわかり、苛めではない妨害工作が流行った。私は今度はそれを喜んで受けて立った。
毒殺ならそのまま飲み干し。凶刃なら、自分から喉を刺し、心臓を潰されるほど大きい槍で刺し貫かれる事故もあった。だが……私は生きている。
それに多くの者が興味を示した。彼もまた、疑問に思い。私は彼を屋敷に連れて全て説明した。
驚いただろう。怖くなるだろうと思ったが。彼は全て受け止めて納得し、逆に喜んだ。変な男だと思ったが。安心する私も居た。それを伝えると余計に喜び私は焦りを覚える。
私は思い違いをして、焦る自分に新鮮な気持ちになった。彼は素直に好意があることを示す。私はそれを具体的に問いかけ、恥ずかしそうにする彼を無視して何度も聞いた。学園でいつのまにか卒業するほど時間の流れが早くなった。
卒業後いつしか、私も恥ずかしい感情を持ち。ゆっくりと私が嫌がるようになった。素直に好意を見せた方が弱い事を知った彼の猛攻に私は生きていると感じるようになり、恐れを思い出した。
死に別れると言う感情を私は持ち出す。彼に相談する。すると彼は私に起こり得る話を聞かせてくれた。
私の不死性はいつしか狙われる。それを隠せなくなる日が来ると。私はその事は既に考えていた。だから魔法を習得している。だが彼はそれと同時に剣を使えるように修練を薦めてきた。私は彼の言うように習得する。
そんな中で私は命をお腹に抱いてしまった。それも魂の数が4つ。彼にその事を話すと私たちは結婚した。私は悩みが多くなって行く中で楽観視な夫に嫌気が差し、色んな事を注文してまった。
そんな嫌な私に夫はいつも笑うだけだった。そして、私は不死性のお陰で無事に命を作る事が出来た。一度は気を失い、腹が裂けるような痛みに不死である私は泣くほど苦しみ。命を抱いた後にもう一度泣いた。
このときには既にもう、私は感情豊かになっていたと思う。とにかく1日1日が早い。育児は楽が出来るぐらいにはゴーレムが仕事をした。これらが居ないと思うと全く育児なんて出来るかと思う。
そして屋敷に夫が帰って来なくなるぐらいには夫も忙しくなったらしい時期。子供が一人で悪魔を召喚し、私の体が千切れた事件以外には問題はなく。そのまま私が思ういい子たちに育ち。家を留守にすることが多くなった。
そんな寂しいと思う日々に子供たちに出逢いがあった。夫が子を売ったのだ。政略結婚と言うもので子供たちは大人だった。文句も言わずに家を出た。
そうこうしているうちに一人の子供が夫の仕事を引き継ぎ私はシワが増えた夫と一緒になることが増えた。
昔に比べ、弱ったと思ったが。夫は飽きもせずまた私に命を作らせた。夫も何を思ったのが申し訳なさそうだったが。私は大いに喜んだ。
情けない話だが、夫よりも子供のが好きになってしまっているのだ。夫もそれは理解して居るようで子供ではなく私に愛を注いだ。子供には私が愛を注いだ。
今度も兄弟だった。上の子が私にこんな都市で下が出来る事に違和感を持っていたが私は残念ながら不死性のせいで変わらず。かわいい我が子だ。
そして、そんな我が子と共に子供たちが子供を持ってくる。育母を頼まれた私は快く受け入れた。
そうして、生まれた命が巣立ち一人立ちする頃には夫は大分白髪が増えた。それに伴った私も髪が白くなっていく。どうやら色素を生む細胞が先に死滅したようだ。そこは不死ではなかったのだろう。
そして気付けば私は大家族だった。私の不死性は何故か疑問もなく。逆に解明しようとする子供たちの子供たちが増え、私を調べる。
生まれた子には全く同じような現象もなく。私だけの特異性だった。そして、夫は私の不死性を解明される前に死んで私は情けないほどの醜態を皆に晒してしまった。子供たちを不安にさせるほどに体調も崩し、迷惑をかけてしまった。魂は私と共にあるのも申し訳なくなる。
そうして、いつしか目的が変わり、彼を私から解放させたいと願うようになった。そうこうして第一子も後を追うようになる。だが、私は逆に死にたくなくなってしまった。
そう、私は星に記憶を対価に想い出を失いたくないと感じるようになったのだ。夫、娘、息子たちが歩んだ事。想いを残したいと考えた。
死んだ者には継げないのだ。生きている者にしか想いも、全て引き継げないのだ。忘れられてしまう。星は強欲だ。記憶を一切合切見せてはくれないのだ。忘れてしまうのに。
私は不死性と共に歩む決意をこの時になって初めて固めた。次第に私は力を持つようになった。多くの子供が権力を持つようになったのだ。注意もした、それに蝕まれ燃える事があると。
だが、愚か者は何人も生まれた。家族を殺す者も増えた。憎しみ合うのも増えた。
そして、私を疎む者も。尊敬、崇める者も生まれ私は隠れ住む生活へと変わった。
いつしか私と夫の血が残り続けており、何度も国が変わったが私は夫の血を見ることが出来た。中には私に相談しに来る子も現れた。大分薄まった血だろうが、私には輝いて見える。時に病気なら治療し、事件ならたまに顔を出すぐらいには動いていた。
そして私は何度も何度も知識も想い出も蓄える。そして、徒然なるままに書にし残す。
そして何度も何度も思い出す。楽しませてくれる。私には生きている実感がずっとあった。生きる理由もあった。夫は約束を叶え続ける。これからもずっと、私が滅びるまでずっと。
「あなたを溺愛した結果を見続けます。子孫と共に」
彼の墓はいつだって綺麗だ。誰よりも、王族よりも。私がいる限り絶対に綺麗なままだ。