タルタルソース
ご近所さんからリンゴをたんまりいただいた。
なんでも、ご実家がリンゴ農園?だとかで、傷物のリンゴがわんさか送られてきたそうで。
「うわあ、このリンゴめちゃくちゃおいしいぞ!!ちょ、何これ、リンゴって…モグモグ、こんなにおいしかったっけ……?」
私が普段食べているのは、真っ赤でやや小ぶりのリンゴなのだが、いただいたものは何となく黄色味のあるテカテカとした大ぶりのもので……明らかに、別物感が漂う。
種類が違うんだと思うんだけど、めちゃめちゃジューシー?で、柔らかい?酸味が少なくて次から次へと口の中に放り込みたくなるようなうま味が!!
大喜びで毎朝晩、いただくことにした。
一日に一個リンゴを食べると薬がいらないとかいうもんねえ、ひょっとしたらこのぶよぶよと膨張した体も美しく引き締まるやもしれぬ!
毎朝一個、夕方一個。
日曜にもらって本日木曜、うん、美味しいけどいいかげん飽きてきた!
……ああ、人というのは、贅沢な物よのう。
毎日まるかじりをしていたのだけれど、ここらへんで違うものを食べてみたくなった。
とりあえず皮をむいて、アップルティーなど作ってみる…うん、しみじみ美味いぞ……。
パイシートがあったのでミニアップルパイなど作ってみる…うん、安定の美味さだ……。
そういえば昔パウンドケーキ作ったな…レシピを思い出しながら焼いてみたら絶妙に美味いぞ……。
そうそう、リンゴのコンポートも作っておきたい、グラニュー糖の買い置きはあったかしらん……。
色々と作ってみるのだけれども、なんだ、この…胸やけ感。
……そうか、作るもの作るものすべて甘いから、のどが砂糖焼けして、食道が砂糖かぶれして、胃袋が砂糖漬けになっているんだな!!
そういえば開けたばかりのグラニュー糖の袋がやけにぺったんこになっている、……ちょっと待て、私はこの消えた分すべて体の中に取り入れたと?!
これ以上砂糖を体内に取り入れては・・・ならん!!!
かくしてまたまるかじりの日々が始まったわけだが。
なんというか…砂糖によるドーピングがなくなったせいか、素朴な味に些か不満のようなものがですね。
確かにおいしいのだけれど、なんか物足りない。
どうしたものかと考えて、リンゴサラダなど作ってみたのだが。
「うわ!!リンゴがサラダに入ってる!!」
「うーん、普通に食べた方がいい!」
「好きじゃない。」
家族の評判は芳しくない。
……そうだなあ、この家の住民は、フルーツ入りのレシピを好まない傾向が強いんだった。
カレーピラフにレーズンを入れれば私のお皿がレーズンだらけになり。
酢豚にパイナップルを入れれば私のお皿がパイナップルだらけになり。
シーザーサラダにリンゴを入れれば私のお皿がリンゴだらけになる…と。
私はわりとフルーツ入りの料理、好きなんだけどなあ……。
ドレッシングで和えられたリンゴをモリモリ食べつつ、残るリンゴの山に目を向ける。
あと六つかあ……。
次の日の朝、アボカドと裂けるチーズとマヨネーズで和えて食べてみた。
……こってりと、うまい。
その次の日の朝、ゆで卵とキュウリとマヨネーズで和えて食べてみた。
……まろやかで、うまい。
その次の日の朝、野菜がなかったのでチューブ入りのタルタルソースをつけて食べてみた。
……なに、これ、すごくおいしい!!
くし切りにしたリンゴに、チューブから絞り出したタルタルソースをちょこんと乗せ、そのままがぶりと食べるだけで!!
絶妙な酸っぱさとリンゴの甘みがばっちり嚙み合い、舌にざらつくタルタルソースがシャキシャキとした歯ごたえのリンゴを絶妙に包み込み、咀嚼するたびに目まぐるしく味わいが変わっていく!!
唇から我が体内に侵入し、あらぬ方向へと意識を振り回し、急転直下、難攻不落、青天霹靂、類稀なインパクトを与えつつ胃袋へと運ばれていく、まさにジェットコースターのような…この、味わい!!!くそう、美味すぎで自分でもなに言ってんだかわかんなくなって来たぞぅ!
ちょ、何これ、リンゴって…めちゃめちゃタルタルソースで食うと美味いじゃん!!!
最後のリンゴを食したその日に、めちゃめちゃうまい食べ方を知ってしまった私の悲劇よ……!!!
うわあ、つぎまたリンゴ貰ったら…絶対またタルタルソースで食べよう!!!
そう誓ったのだが……未だ、リンゴのおすそ分けは、もらえずにですね。
「ねえねえ、これ、おすそ分け!!実家でめちゃめちゃ採れてさあ!!!」
夕方訪問してきた高田さんの差し出した袋の中を、そっとのぞき込んでみたところ。
……大量の、カキっ!!!!
「へっ?!あ、ありがとーございますっ……!!い、イイんですか、こんなにもらっちゃって、ええと、その―!!!!」
うわあ、実は私、カキがあんまりそんなにけっこうわりとかなり好きじゃないっていうか食べたくないっていうか…うん、どっちかというと、苦手でね?!
で、でもにこにこと笑ってる高田さんの顔を見たら…そんなことは、おくびにも出せませんがな―――!!!
「お宅のご主人、カキ好きなんでしょう?この前役員会でそうおっしゃってたから、はりきって収穫したのよう!!うちみんな柿食べなくって!助かるわぁ、また追加も持ってきますね!ウフフ!」
アアア!!旦那の仕業かあああああ!!!どうせ自分じゃ全然食べないくせにぃイイイイ!!!
……貰ってしまったものは仕方がない。
どうにかして、消費していかねばなるまい。
私は、とりあえず、明日の朝タルタルソースをつけて食べてみようかなあと、ぼんやり思ったのであった。