王とは何か
第29話〜王とは何か〜
〜学園の内側-休憩室〜
静かな廊下を渡り、無数にある部屋の中から、一つの部屋のドアをノックする。
すると、ドア越しからでも聞こえる声で、入室の許可をもらえる。
ドアを開けると、その向こう側には、私の愛した人が横たわっており、体には包帯と硬い板のようなもので固定されていた。
おそらく、外傷はないものの...竜騎兵装が破壊される威力の攻撃を直に受ければ、内臓や骨には相当なダメージが入っているだろう。
そんな傷を負った彼は、こちらの存在に気づくと、あからさまに表情は暗くなる。
「ご機嫌はいかがでしょうか、殿下。私は殿下がご無事で何よりです」
「フッ、お前の騎士がやったことだろ。今更俺の顔を見に来るなんて、さぞいい気味なんだろうな...スイレン」
「いえ! 私は、殿下にふさわしくあろうとしただけです」
「ふさわしいか...所詮、お前も王妃と言う地位が目的であろう。俺の事など愛しているはずがない」
「そんなことありません! 私はいつでも殿下を愛していました!」
「フン、口ならどうとでも言える。......確かに今思えば、お前が婚約者となってからは、一度も遊びに行ったことがなかったな...」
「私は殿下のお側にいられるだけで幸せでした...。でもあの女が...」
「そうか、もう少し早くこの話をしていたら、今のようではなく、変わっていたかもな。スイレン、いきなりだが俺の趣味や好きな物を答えられるか?」
「はい! 殿下は狩りとピアノをするのが好きで...」
「違う、違うのだ! 今まで隠していたが、俺が本当に好きなのは...」
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その頃、ヨグとリリィーは夕食をとるため、食堂にいた。
「いやー、お腹すいたな〜。リリィー、何食べようか?」
「そうですね! この間食べたシチューも美味しかったですが、やはり新しいものに挑戦してみても良さそうです!」
「うーん、新しいものかぁ〜。 おっ! 生魚が出るのか!」
食堂のメニュー表には、日替わりランチと定番メニューの二つが載っている。
日替わりランチは、毎日朝昼晩と違うため、何が出てくるかはわからない。
しかし、今日の夕食には、生魚が使われているようで、この世界では何かと初めて見るかもしれない。
早速、俺が日替わりランチを頼もうとすると、リリィーや一緒についてきた、スレイとウルトに止められる。
「よよ、ヨグ様! な、生魚は危険です!」
「そうだぞ! 生なんて、それこそ本当に人生をかけたチャレンジになっちまうよ!」
「そうだ、考え直した方がいい。僕が前に先輩から聞いた話だけど、生の魚を食べたら、お腹から生魚が生えてきたって聞いたぞ! だからはやまるんじゃないヨグ!」
何としても止めようと、三人の圧が凄かったが、俺の意志は固い。
平然とした表情で、「大丈夫だよ」と言って、三人に言い聞かせた。
そして、日替わりランチを頼むと予想通り、生魚がお皿に盛り付けてあった。
見た目は鮭のようで、綺麗な淡いオレンジ色をしており、周りにはオリーブオイルのような香りの液体がかけられている。
フォークで刺してみると、身は恐ろしいほど柔らかく、そのまま口へと運び、一口食べてみる。
周りの三人から見張られながらの食事は初めてだが、三人は心配そうにこちらを見つめていた。
「うっ、うう...」
「ヨグ様! 大丈夫ですか!?」
「やっぱりダメなんだ!」
「このままじゃ、お腹から生えてくるぞ!!」
「う、う、うっっっっまあああああい!!」
「へ?」
口触りもよく、噛めば噛むほど甘い油が口いっぱいに広がった。
また生魚独特の臭みは、このオリーブオイルのような液体が消しており、嫌な気分になんてなることもなかった。
「リリィー! これやばいよ!」
「ヨグ様、語彙が死んでます!!」
「いや、食べてみればわかるよ! 本当に美味しいから、一口で飛べるよ!」
「なんか怪しい感じになってますから! ...でもヨグ様がそこまで言うなら食べます!」
「おっ、そうこなくっちゃ! はい、あーん...」
リリィーの口目掛けて、フォークを差し出すと、彼女はパクッと刺身を食べてくれた。
少しの間、黙ってしまうリリィーだったが、どうやら美味しかったようで、尻尾を振り振りとしている。
「どうだ? 美味しいだろ、リリィー!」
「...はい! とっても美味しいです! 生肉は食べたことがありますが、生魚は初めて食べました。 生の肉よりも臭みがなくて、私は好きです!」
そして、残り二人にも半ば強制的に食わせてやる。
案の定、美味しいと嘆いており、結局その日は皆、日替わりランチを頼んでいた。
その後は、四人で食事を楽しんだ。
そうして、ちょうど全員が食事を終えたころだった。
食堂に現れたのは、紛れもなくスイレンであった。
しかし、その表情は悪く。
やはり王子とは上手くいかなかったのだろうか。
すると、彼女は辺りを見渡し、俺たちを見つけると真っ先に向かってくる。
「や、やあ、ヨグ元気そうだな! おっと、今食事中なら後に...」
「いえ、別に構いませんよ。それよりも、一緒に食事でもどうですか?」
「あ、ああいや、今はちょっと...食べたい気分じゃないんだ。また今度誘ってくれ。それから、殿下に会ってきたんだが...ああ、体は大丈夫そうだから安心してくれ」
「本当に良かったですよ。これで王子の身になにかあれば、俺は最悪極刑ですからね...」
「そんなことはないと思うぞ。現国王、殿下の父には何度かお会いしているが、息子の責任を他人に押し付けたりするような人じゃない。それに、お前は私の騎士だからな。多少の問題は片付けてやるから安心してくれ」
「それは心強いですね! それよりも......先程から元気がなさそうですが、やはり殿下との関係改善は、厳しそうですか?」
「ハハ、お前には嘘が通じないか。そうだな、確かに私と殿下は、おそらく婚約破棄になるだろうな。だが、陰ながら殿下の幸せを願うまでだよ」
「そっか。スイレンがそれでいいなら、俺もこれ以上は何も言わないよ。さすがに俺の首を突っ込むところじゃないからね」
「ああ、それがいい。しかし、あれだな! 人という生き物は分からぬものだな! なんと言うか...その、個性があっていいものだ」
「急にそんなこと言ってどうしたんですか? やっぱり婚約破棄のダメージが...」
「いや、違う。違うのだが、今は言葉にできない」
それは、数分前のこと...。
「俺が好きなのは...」
殿下はそう言うと、予想打にしない事実を彼女に突きつける。
「踏まれたり...罵られたりすることなんだ」
「へ? 」
「俺はMなんだ! それも普通じゃない...ドがつくほどの上級者なんだ」
「上級!?」
「ああ、ただ踏まれるのではない! 見ず知らずの他人に踏ませることで、その嫌そうな表情は我が家の数ある名画を超え、そして恐ろしいほどの背徳感と快感が、全身を駆け巡るのだ!! 今まではこんなことを頼める者などいなかった。しかし! セリスが来てからは、そんな俺のことを快く受け入れ、どんな要望も叶えてくれた。おそらく、彼女以上に遠慮を知らない者はいないだろう」
それを聞いたスイレンは立ったまま、硬直していた。
しかし彼女のことなどお構いなしに、王子の一人語りは止まらない。
いつの間にか、王子は話せば話すほど息は荒くなっていき、頬を赤らめ、口元は少しニヤついている。
おそらく、自分の恥ずかしい趣味を聞かれて、興奮しているのだろうと彼女は気づいてしまう。
そんな彼の話が終わるころには、もう彼女の中にあった、最後の愛情は消え去ってしまい、百年の恋も冷めてしまった。
「おっと、少し語りすぎたようだな...それだから、俺はお前を愛せないのだ。許してくれ」
「は、はい殿下...。それでは私は、陰ながら殿下のことを応援しております」
「フン、潔いのは嫌いじゃない。それから、最後に一つ頼み事をしてもいいか」
「はい、なんなりと...」
「お前は、これからもヨグ・ランスロットに関わるだろうと思ってな。先の決闘で俺は、彼の従者を馬鹿にしてしまった。いくら頭にきていたからといって、俺が未熟すぎた。このことを許してくれとは言わないが、本意ではないと伝えて欲しい」
「おそらく彼もわかっているでしょうが、一応伝えておきます。それでは殿下、失礼します」
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そうして今に至るのだ。
しかし、彼女は王子の趣味を、ヨグや周りの人間に言えるはずもなく、墓場まで持っていくしかないだろう。
「あと殿下から伝言があるぞ、ヨグ。殿下は決闘で、お前の従者を馬鹿にしたこと謝っていた。殿下も反省していたし、許してくれると助かる」
「まあ、仏の顔も三度までって言いますし、許しますよ」
「そうか、何から何まで迷惑をかけた。これから困ったことがあったら私に言ってくれ」
俺は「わかりました」と言って頷き、一気に不安から解消される。
何よりも恐れていた、極刑を逃れ、決闘のことを水の泡のように流してくれたのは嬉しい限りだ。
その後は特に何も起きることなく、無事に夜を迎えた。
午後の授業を終えた俺は、部屋へと戻って来ると、既にシニエスタの姿があった。
彼女は昼間のような修道服ではなく、私服のパジャマを着ていた。
また、彼女はこちらの存在に気づき「おかえりなさい」と一言かけてくれる。
俺も彼女に向かって「ただいま」と返すが、ただの挨拶の一つであるのに、少し照れくさく感じてしまう。
それはまるで同棲し始めて、二日目くらいのカップルように、ぎこちなかった。
そして部屋に入り、シャワーを浴び、パジャマへと着替え、やっと一人で落ち着ける状態になった。
しかし、シニエスタが持ってきた一つの手紙によって、とてもじゃないが、落ち着いている場合じゃなくなってしまった。
彼女に手渡された手紙にはこう書かれていた。
「ヨグ・ランスロット男爵一位、貴公を食事会へと招待したい。
現国王コルク・アナスタシアより」
俺はそれを見た瞬間、頭が真っ白になってぶっ倒れた。
どうも皆さんこんにちはこんばんわ永久光です!
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