魔法が解ければ
Side エミリア
舞踏会がどうやって終わったかは分からない。頭の中が混乱していた。ドレスに、アクセサリー、メイクと全てを脱ぎ捨ててからベッドに横たわったが、眠りにつける気がしなかった。どうしようもないと思い、起き上がり、魔法の鏡のある先王の離れに向かった。そして大きな鏡の前に立った。
「魔法の鏡さん」
しばらく、声は返ってこなかった。聞いているのかは分からないが、そっと鏡に触れた。何の変哲もない鏡だった。
「貴方だったのですね、エドワード様。」
幼い頃、ともに遊んだ王子。我が家に来た頃は病弱で、外に出る事なんてできない人だった。屋敷で本を読んでいるときだけは彼を独占できた。それが兄や姉たちと遊んでいるうちにどんどんと元気になっていった。
まだ、この思いを恋と知る前の初恋だ。
ただ、王子と知って、私には届かない人だと知ってしまった。でも、野に咲いた花で作った花束を抱えて花嫁になってと言った彼は私の大事な思い出だ。
「……大好き、でした。」
もう魔法の鏡の魔力は切れてしまったらしい。未練がましい言葉を残して、部屋に帰ろうと歩き出した。
『エミリア。』
響いた声。王妃になってから支え続けてくれた優しい声が後ろから聞こえる。振り返ったら泣き出してしまう。
『すまない、エミリア。ただ、覚えていて欲しい。私はあの野で約束したことをまだ叶えたいと思っている。だから、少し待っていてくれ。』
その言葉に一度頷いた。だが、振り返る勇気はなく、そのまま部屋へ逃げ込んだ。
翌朝、エドワード様がオーウェン王国へ向かっていった。王の代わりに王城からその使節団の姿を見つめ続けていた。