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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
19章:コロンにおまかせクッキング

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ⅠⅭ

シェケル目線


 シェケルは紙の束をまとめる。

 ギルダーから頼まれた資料整理の仕事が一段落したのだ。


「ふぅ。」


 思ったよりも時間が掛かってしまった。やはり、自分には机に向かうよりも体を動かしている方が性に合っている。

 一方、半時間ほど前にギルダーは自分の分が片付いたら帰ってしまった。


『飲み物をもらえるかな。』


 念話で部下に頼む。最近は質の悪い安いものしか飲んでいない。


  ガサ…バサ…


 書類の山が崩れた。


「こんなことで…。」


 シェケルは眉間にシワを寄せながら書類を拾う。


 役職が上になると資料作成に追われることになる。

 そういう意味で親衛隊の隊長というのは、ほどほどの事務量でしっかり情報が集まるのでちょうど良かった。

 親衛隊のメンバーを思い浮かべる。


「懐かしんでも仕方ない。」


 念願の水軍隊を率いることになったのは良いが、引き換えの副兵士長の立場が余計な仕事を増やす。

 今まで以上の情報が手に入るから仕方がないと、自分に言い聞かせる。


「おっ」


 コロンからの転送魔法だ。

 夕方に会った時に、差し入れをすると言ってくれていたのを思い出した。彼女は、何人もの転生者の侍女を経験しており、異世界の料理が得意だ。


「辛くないことを祈る。」


 いつぞやの料理は辛すぎて食べられたものじゃなかった。


 魔法陣からカップと皿が出てくる。

 皿の上はフワフワのシフォンケーキ。カップは飲み物…ではないようだ。ゼリーかな。

 どちらも甘い匂いなので安心する。子供たちが喜びそうなデザートだ。長いこと家族に会っていないが、元気にしているだろうか。

 その時、扉の外で声がした。


「飲み物をお持ちしました。」


 扉を開けると、人懐っこい顔。親衛隊長のデニだ。


「おや? 君が持って来てくれたのか。」

「ハイ、ちょうど控室で話していた時に飲み物のオーダーが入りましたので。驚かせてしまいましたか?」


 そう言って、デニは悪戯っぽく笑う。

 デニはシェケルの後任で親衛隊長となった。仕事のできる男だが、こういう茶目っ気がある。


「構わんよ。今、コロンからケーキが届いてね。君もどうかね。」

「では、失礼します。」


 シェケルは机に腰掛け、デニから飲み物を渡してもらう。

 香りは…やっぱり安物だ。早速、一口飲む。


「ケーキと……このカップのはゼリーですか?」

「カップは異世界の料理らしい。そっちはコロンに感想を言わないといけないから、君はケーキにしてくれ。」

「では、頂きます。」


 デニは早速ケーキに手を付ける。


「甘くて良いですね。」


 シェケルは飲み物をもう一口飲む。


「で、話は何かな?」

「シェケル様にはお見通しですか。」

「そうでなければ、わざわざ来ないだろう。」

「元上司の顔を見に来たかった。では、駄目ですか?」


 シェケルとデニはお互いの顔を見て、ニヤリとする。


「疲れた顔してるだろう。新しい組織は色々と大変だ。」

「水軍隊…いかがですか?」

「順調な滑り出しとは言えないが、成果は上々だ。」


 水軍隊は、王都を縦横無尽に張り巡らされている水路を利用して防衛を行う部隊だ。

 籠城軍には他にも船を所有する部隊はあるし、侵攻軍には海軍もあるのに、水軍隊に与えられたのは、四人乗りの小さな舟だけだ。

 しかし、小さい分小回りが効き、行き交う多くの船の間を縫うように進めるので、水運の監視や水難救助については陸の部隊よりも素早く対応できた。

 お陰で、船舶の火事や落水者の救助など、短期間で実績を残せたのだ。


「リザードマンが人気らしいですね。」

「彼は頑張ってくれている。」


 転生者のブロンズ。泳ぎを覚えてからは水を怖がることもなくなった。リザードマンの体格もあって、船よりも早く泳ぐことができる。

 一番に現場に到達できるから、目立つようになった。


「射撃が凄いらしいですね。中央の見張り台から、王都の端にある的をぶち抜いたとか。」

「転生して目が良くなったそうだ。ギルダー殿が水軍隊には勿体なかったと嘆いていたよ。」

「ゆくゆくは水軍隊長ですか?」

「…どうだろうな。」


 彼の能力は高いが、人の上に立つ器ではない。上手く懐いてくれているから、今の立場を維持しておきたい。


「人が足りてないと聞きましたが。」

「今はどこも同じだ。」


 部隊は中隊程度の人員しかいない。ギルダーからも「それ以上裂く人員はない。」と明言されている。


「水軍隊が作っている水路図、工兵長が狙っているらしいですよ。」


 デニは軽く天井を見上げる。何かを思い出す仕草だ。面倒くさい頼み事をされたに違いない。だから、様子を伺いに来たんだな。

 軍設備の建設やメンテ、兵站を担う工兵長なら、水路図は喉が出るほど欲しいだろう。


「完成したら渡すよ。ただし、あと四倍の人員が必要だ。」


 隊員不足により、水路図の作成は難航している。まだ王都の中央部しか把握できていない。


 水路は、王都の真ん中を貫いて流れる河から網目のように街中へと広がっている。

 コーカが強大な国家となれたのは、この河と水路に寄るものが大きい。

 古い時代に上流での治水に成功し、河の氾濫を抑えたことで、水上運輸が発展した。さらに水路の整備によって農業、工業が発展したことで人が集まり、コーカは大国となれたのだ。


「昔の水路とか複雑でしょうし。大変ですね。」


 デニが同情してくれる。


「ああ、古い水路は今では街の地下だ。どことどこが繋がっているのか分からないものも多い。」


 それだけじゃない。水路の幅や水深も調べなければならない。 

 これだけ水路が発達しているのに専門の部署も置かず、管理していなかったと言うのが、この国の限界なのだろう。

 だからこそ、水路図は重大な軍事機密になりえる。早急に完成させなければ。


「その話だけが君の目的じゃないだろう。」

「やはり、シェケル様には敵いませんね。」 


 デニはコロンの作ったカップのデザートを指差した。


「彼女の次の任務の真意について…」


 気付いていたか。やはり、デニは仕事のできる男だ。

 デザートの感想はもう少し遅れそうだ。


「デニ」

種族:犬の亜人(コボルド)(コーカ人)

年齢:25

身長:190

体重:84

所属:第一籠城軍親衛隊特務班長(親衛隊副官兼務)→親衛隊長

特技:大地魔法・鉱石魔法

好物:骨付き肉

備考:

 エンドルでのコボルドは犬の亜人であり、高い知性と優れた嗅覚を持っている。

 特にデニは命令に忠実で、しっかりとした実績を残しており、親衛隊員からの信頼も厚い。

 口笛を聞くと、無性に吠えたくなってしまうらしい。

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