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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
19章:コロンにおまかせクッキング

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 プラ夫妻は、店の外まで私たちを見送りに来てくれた。もう空は暗くなっていた。


「ありがとうございました。また明日!」


 大声で手を振るプラ。その隣で店主は黙って頭を深く下げる。

 あ、こういう店でどうやって会計するのか見そびれた。


「帰りは楽をしましょう。」


 コロンはそう言うと、瞬間移動の魔法陣を開く。


***


 着いた先は、将軍府の食堂室。

 ほとんどの人が帰っており、夕食を食べに来る人はまばらだ。


「キッチンの端をお借りする許可をいただきました。」


 コロンはそう言うと、さっき買ったシロップとミルクの瓶を取り出す。

 さすがに卵の箱は重すぎたので、持ち上げるのを手伝う。


 大きなボウルと鍋が大小二つ、小さなカップがたくさん並ぶ。秤もある。


「何作るんですか?」

「何ができるでしょうね。」


 コロンは不安そうな笑顔を見せる。


「そんな、もったいぶらなくても。」

「そういうつもりではないんですが、どんなものができるのか想像がつかなくて……」


 コロンは小さな鍋にシロップを入れ、炎の魔法陣の上に乗せる。

 炎の魔法陣があれば固定のコンロが要らないから、調理場のどこでも火に掛けられる。


「すみません、卵割っていただけますか?」


 私は大きな卵を渡された。殻にはまだ少しドロドロのジェルが付いてる。

 こんな大きい物どうやって割ったら良いんだ?


  ゴン ゴンゴン


 とりあえず両手で卵を調理台の角に打ち付ける。

 五回ほど思いっきりぶつけて、やっと殻にヒビが入る。


 卵を抱えるようにして持ち、両手の指先を割れ目に引っ掛けて力を入れる。


  ベキッ


 意外と簡単に卵は割れ、中身はボウルに収まった。オーガの腕力があってこそだ。

 しかし、でかい黄身だな。


「ありがとうございます。」


 コロンはボウルの重さを計ってメモすると、ミルクとシロップを注いでいく。

 合計の重さをメモすると、回転の魔法陣をボウルにかざす。

 私を気絶させるまでグルグル回しまくったあの魔法だ。悪夢が蘇る。


 しかし、回転のお陰で、ボウルの中身はくるくると撹拌(かくはん)され、卵とミルクとシロップが綺麗に混ざる。

 これが、回転の魔法陣の正しい使い方に違いない。決してオーガの目を回させるための魔法じゃない。


「本当に、何作るんですか?」

「本当に、上手く出来るか分かりませんので…」


 コロンはまだ焦らす。


 鍋の中のシロップがプツプツと音を立て始める。透明だった液体が、ほんのり黄色っぽくなっていた。


「カラメルソースですか?」

「そうですね。水砂糖を熱するなんて、あまり聞かないものですから…」


 料理をしない私でも、そのくらいの知識はある。カラメルなら甘いものに違いない。


「手伝うんだから、教えてくださいよ。」

「失敗しても怒らないでくださいね。」

「もちろんです。」

「……そちらの世界のプリンです。」


 プリン!

 期待と同時に悪夢が蘇る。

 あのぷるぷるのプリンを想像してたら、ソーセージ(黒プリン)が出てきた時の落胆といったら。


「テルル様が簡単なレシピを知っておられましたので。ただ…分量が分かりませんし、果たしてエンドルの食材で作れるのか。」


 いや、卵とミルクと砂糖。この材料なら少なくともスイーツにはなるはず。

 しかもラーメンを再現したコロンの料理スキルなら、なんとかなるに違いない!


「ですから、いろいろと作ってみますので、味見をお願いします。」


 大歓迎です。


 カラメルは、さらに色が濃くなっていた。さすがにオーガの鼻でも甘い匂いが感じられる。


  グゥ


 私のお腹がなる。


「ふふふっ、デザートの前に夕食を食べてきてください。」


 コロンはそう言って、魔法陣からペガサスの手羽先唐揚げとダマスカス鋼の箸を出してくれた。

 私は、食堂の調理場から食べる方に移動する。


 何度かこの食堂を使っているから利用方法は分かっている。調理場前のカウンターに並んでいる料理を取って、トレイに載せ、テーブル席まで持っていくだけ。

 将軍直轄部隊はどれだけ食べても良いらしい。


(何にしよう。)


 夕食は人が少ないので、料理も少ない。でも私にはペガサスの唐揚げがあるから平気だ。


(パン…魚、野菜炒め…)


 私は常識人だから、いくらオーガの身体が大きくても、一つの料理をごっそり取っていくようなことはしない。

 まんべんなく料理を選んで量を稼ぐ。


 食堂に並ぶ料理は、リラからの要望で脂分の少ない肉や魚料理が多い。恐らく筋肉を育てるための料理だが、隊員内では不評。

 片っ端からトレイに載せていく。残りが一個だけの料理はスルーする。


「こんなものかな。」


 プリンの出来る様子を眺められる調理場に近い席を確保。

 またお腹が鳴ったので、早速パンにありつく。ちょっとボソボソとしているから、スープに浸す。ひたパンにすると丁度いい。


 その間も、コロンの作業は進んでいく。


 いくつかのカップにプリン液を(そそ)ぎ、そして、またボウルにミルクを足して重さを量る。

 卵とミルクの割合を変えて、何パターンか作ってみるようだ。カップがずらりと並んでいく。


 プリンって、ああやって作るんだ。

 自分で作ったことなんてないから、物珍しく眺める。


 私は鳥肉の炒め物を食べる。ササミみたいな肉であっさりしている分、味付けは濃い目にしてある。ウスターソースみたいな味だ。


 そういえば、もう三ヶ月くらい「和食」を食べていない。しょうゆ味が懐かしい。

 さすがにエンドルにしょうゆはないだろうし、私も作り方を知らない。

 …大豆が材料ってことは知ってるよ、もちろん。


 しまったな。これからペガサスの手羽先もあるのに、被ってしまったぞ。まあいいか。鶏肉との食べ比べだ。


 コロンが大きい方の鍋に水を張りながら呟く。


「問題はここからです。水からか、湯からか…。ゆで卵は水からだし。」


 少し逡巡した後、何個かのカップを選んで水の中に沈めた。

 蓋をして炎の魔法陣に掛け、熱していく。


「…火加減は…時間は…」


 コロンは鍋とメモを眺めながら苦悩している。


 そりゃあ、ビーフシチュー作ろうとして肉じゃがができた (※1)って話もあるくらいだし、見たことのない料理を作るってのは大変なんだろうなぁ。


※1

 海軍大将が留学していた際に食べたビーフシチューを料理長に作らせたが、ビーフシチューを見たことがない料理長は、大将が言った材料と色だけで再現を試みた。そして生まれたのが「肉じゃが」だと言う説がある。(諸説あり)



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