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私は耳を疑った。
「ペガサスって食べられるんですか!?」
「割とよく食べますよ。今までもお食事にお出ししたことあるはずです。」
まじか。どの肉がペガサスだったんだ?
「ペガサスって、あのペガサスですよね。羽根の生えた…」
「お馬さん。」
そうだ、馬だ。馬肉と思えば普通じゃないか。いや、でも羽根の部分だから鳥肉なのか?
というより。
ペガサスなんて、私たちの世界の人間が空想した生物だろう?
だいたい、馬みたいに大きな体にあの程度の羽根が付いてるからって、飛べるわけはないんだ。ファンタジーだよ。
それが実在して、しかも食べられると言う。
俄然興味が出てきた。
「高いんですか?」
「いえ、お手頃ですよ。」
私はその唐揚げを迷わずカゴに入れた。
その瞬間、頭の中に何かの模様が浮かぶ。多分コーカの文字だ。
「なんだこれ?」
「今、頭に浮かんだのは購入金額です。カゴに入ってる商品の合計がいくらか表示されるんです。」
なんて便利なんでしょう。
これで買い物しすぎるということもありません!
ただ、私にはまだエンドルの文字は読めないけれど。
この肉一つで、おいくらなんだろう。
あれ…待てよ。
「私、お金持ってない。」
転生前には、財布の中には一万円は必ず入れていたし、毎月の給料からちゃんと貯金もしていた。
しかし、ここは異世界。転生したらお金もリセットじゃないか。
「大丈夫ですよ。今までの分のお給料があります。」
「給料があったんですかっ!?」
衝撃の事実。
正直、私の立場は奴隷みたいなもので、衣食住を保障されるだけで無給だと思っていた。
「当然ありますよ。ちゃんとお仕事しておられたではないですか。」
はい。ちゃんとお仕事してました。
あんな事やこんな事、辛い事ばかりでしたが、給料があるというなら報われます。
…ちょっと泣けてきた。
私のお金はどこにあるんだろう。どこかの銀行に給与振込口座とか用意されてるのかな。
「これ、買ってもお金は大丈夫ですか?」
一応確認する。
「はい、三百本は買えます。」
そんなに要らないです。
コロンは私の口座残高をよく知っているようだ。
このペガサスの手羽先はひとつ二キロくらいあるだろうか。
コンビニの唐揚げが百グラムで二百円として、グラム単価が同じくらいの値段と仮定すると…この唐揚げは一本四千円。
としたら私の残高は百二十万円…。
ありえない。
転生して三ヶ月、将軍直轄部隊に配属されてからはもっと短い。そんなに給料が貯まるはずがない。
仮定を間違えたのか。
となると、ペガサスの肉は、コンビニの唐揚げよりもっと安いということになる。
なんか…、ペガサスが安いだなんて、いろいろと夢を壊すなぁ。
かっと言って、高ければ良いというものでもないし…。
そんなことを考えながら、私たちは入口の所まで戻ってきた。すると頭の中でまた声が響く。
『会計が終了しました。またのご来店をお待ちしております。』
見ると、カゴの色が元の茶色に戻っていた。
「もしかして、これだけで買い物終わりですか?」
「はい。簡単でしょう。」
めっちゃ簡単。しかも分かりやすい。
コロンは「次は一人で買い物も来れますね。」なんて言ってる。
どうかなぁ。
まずはエンドルの数字の読み方を勉強しないといけないな。おいくらなのかが分からないと買い物もできない。
「では、次のお店に向かいましょう。」
ペガサスの唐揚げをコロンの空間魔法に入れてもらい、スーパーを後にする。
「次はかなり小さいお店です。少し大通りから離れますが、そこでしか扱っていないので。」
暗くなってきたが、まだ顔は判別できる程度の明るさはある。
橋を渡り、水路沿いを歩いていく。だんだん人通りの少ない方へと進む。
この辺りは昼の街なのだろう。住宅街から離れているから、夜になると人気がなくなる。
「そう言えば。ルピアさんの事、聞かれました?」
コロンが少し深刻そうな声色に変わる。
「いえ…何かあったんですか?」
「ルピアさんは、とうとう第一籠城軍への入隊を志願されたそうです。」
そっちか。迷宮で怪我したとかでなくてよかった。
先日の秘密の花園クラブ(仮)で、ルーブルの話を聞いてから、お姉様の役に立ちたいオーラ出しまくってたからな。
コロンが少し悩まし気な顔をする。
「若くて、神官として未来のあるルピアさんが、軍に入る必要はありませんのに。」
「マンガン様のために、居ても立ってもいられなくなったんでしょうね。」
いいじゃないか。やりたい人がやれば。
私みたいに、無理矢理に、なし崩し的に、軍人にするよりは絶対に良い。
「若い人は真っ直ぐすぎるから、怖いんです。」
コロンがため息をつく。
コロンだって若そうに見える。見た目だけなら未成年と言われても違和感はない。下手するとルピアよりも幼く見える。
それなのに、この大人びた雰囲気。一体あなたは何歳なんだ?
「ルピアさんは、やっぱり教導隊に入るんですか?」
それとも、エスクードがあれだけ勧誘してたし親衛隊かな?
「まずは士官学校です。」
「今すぐにでもお姉様の元に行きたいでしょうに…。」
「そういうわけにも行きません。まだ子供ですよ。」
ルピアがお姉様の元へ馳せ参じるのは、まだまだ先になりそうだ。
「おぉい。」
突然、声を掛けられた。来た道に人は居なかったはずだ。
誰だ?
どこだ?
水路の方から、びちゃびちゃと濡れたような足音が聞こえてきた。
足音は一つや二つではない。
「おーい。」
間違いない。呼び声も足音も、私たちに向かって近づいている。
恐る恐る呼ばれた方に振り返ると、そこには見知った顔が並んでいた。
「ブロンズさん!」
「シェケル様。」
私とコロンはそれぞれ別の人の名を呼んだ。




