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私とコロンは街の大通りまで出てきた。
「ここです。」
大通りに面したそのお店には、店の外にも食料品や生活雑貨などが並んでいる。
「スーパー?」
店の規模、品揃え、客の雰囲気、全てがスーパーマーケットそのままだった。
夕食前の混雑が終わったせいか、お客はまばら。
「もう少しすると割引が始まって混みます。空いてる今のうちに買い物を済ませてしまいましょう。」
間違いない、完全にスーパーだ。
コロンに手を引かれ、お店に入る。
入り口には大小様々な籐籠みたいなのが積み重ねてある。きっと買い物カゴだな。
コロンが大きめのカゴの一つにペンダントのようなものをかざす。その瞬間、カゴの色が茶色から鮮やかな赤色に変わる。
「カゴをお願いします。」
コロンからそのカゴを受け取ると、私は壊さないようそっと腕に掛けて持つ。
仕組みはよく分からないが、魔法の買い物カゴなのだから、色が変わるのにも何か意味があるのだろう。
「大量に買うんですか?」
大きなカゴ。ちょっとした買い物ではなさそうだ。
「そうですね。少し多めに買っておきます。こちらです。」
コロンはそう言うと奥の方へと歩いていく。
私は商品棚を横目に見ながら追いかける。
入口近くには様々な野菜やフルーツが並ぶ棚。
野菜も色んな形があるが、基本は緑。これは私たちの世界と変わらない。
人参みたいなのがあった。きっとルピアが苦手なのはこの野菜だろう。
「あ、リンゴ。」
リンゴやイチジクみたいに見たことのある果物。見たことのある食べ物があると少し安心する。
ただし、私の世界では品種改良されているし、こちらのは少し味が違うのかもしれない。
「なんだろ、これ。」
他にも、形はイチゴだけど黄色くてバカでかい実や、謎の紫色の真ん丸な実だとか、見てるだけで面白い。
私が店の中をキョロキョロと見回していると、コロンが聞いてきた。
「こういうお店は初めてですか?」
「いや、元の世界にもこんな店はあったんですが、品揃えが全く違うので驚いてしまって。」
やっぱり、旅行の醍醐味は、その土地の珍しい物を見たり食べたりだよ。
折角の異世界転生なんだし、もっとこういう風にいろいろ見て回りたいなぁ。
「ひぃ!」
子連れの親子が私に驚いて逃げていく。
ごめん。
やっぱり、見て回ると迷惑を掛けてしまいそうだ。もう少し、転生者のオーガの認知度が上がるまでは我慢が必要だな。
「ここです。」
コロンは様々な色の瓶が並んでいる棚の前にやってきた。瓶の中には液体が入っているようだ。
書いてある事が分からないから、何が入っているのか、おいくらなのかも全く分からない。
「こちら、お願いします。」
白い液体の入った瓶を渡される。
ひんやりとしている。冷蔵棚だったのだろうか。
「それから、こちら。」
今度は小さめの瓶二本。とはいえ、さっきの瓶と合わせて十キロくらいあるだろうか。
転生前の私なら悲鳴を上げていただろうが、オーガの力なら片手で持っていても平気だ。
「これ、なんですか?」
「ミルクと水砂糖です。」
水砂糖…シロップかな?
「また高くなってる…」
コロンがため息混じりに愚痴る。
「こんなに…備蓄用ですか?何か作るんですか?」
「今はまだ秘密です。」
何か作るにしたら結構な量だ。何人分になるだろう。
「さあ、行きましょう。」
また入口へと戻っていく。
そう言えば、レジはどこだ? 並んでいる感じはしないけれど。
最初にカゴの置いてあった所まで戻ると、コロンは空間魔法の魔法陣を開く。
カゴから瓶を取り出し、魔法陣の中へ入れていく。いつの間にか、カゴの色が茶色に戻っていた。いつ色が変わったんだろう。
「あの…お会計は?」
「こちらに関しては、軍の予算から落ちますので大丈夫です。」
いや、どこの財布を使うのかという話をしている訳ではなくて、支払いはどうしているのかを知りたいのだが。
「支払いはどうなってるんですか?」
「あとで、軍の事務に請求書が行くんです。」
「何を買ったかとかも分かるんですか?」
「はい。」
「じゃあ、カゴに入れるだけで、買い物の支払いが終わって、後で請求がいくんですか?」
「はい。そういう事です。」
すごいな、魔法。
めっちゃ便利。
レジも通さなくても良いなんて。まだ私の世界じゃあ、そんな技術は試験段階だよ。まだ、こんな街のスーパーで実現できるレベルじゃない。
コロンは、先ほどのペンダントを見せてくれた。
「軍の会計を使う時は、このペンダントを使います。」
会社のクレジットカードみたいなものか。
「自分で会計をするときは、手をかざして魔力を注ぐだけでいいんですよ。」
「それだけ?」
「はい、自分で買い物してみますか?」
「良いんですか?」
置いてあるカゴを持ち上げ、魔力を注いでみる。カゴの色が赤に変わった。
すると、頭の中で『ご利用ありがとうございます。』と響いてきた。
念話魔法みたいだ。
「何か欲しい物がありますか?」
こんな所でお土産買っても、元の世界へ持って帰れる訳じゃない。仕方ないから、自分で使う物か食べる物にしよう。
気になってたのは、大きい黄色のイチゴ。私の拳くらいある。
「これ、食べられるんですか?」
「もちろんです。」
「美味しいですか?」
「ちょっとクセが強いので、好き嫌いが分かれますね。」
やめよう。
そういう食べ物に当たりはない。
異世界での最初の買い物なんだから、ハズレは引きたくないな。
食べ物じゃなくても…と思ったが、やはりスーパーに置いてあるのは生活雑貨だけだ。
食器や調理器具、洗剤や紙製品。心惹かれる物はない。
キョロキョロと見回すと、端のほうに惣菜コーナーっぽいのを見つけた。
フラフラと吸い寄せられる。
「これ、なんの肉ですか?」
そこには、とても大きな手羽先の唐揚げが並んでいた。
迷宮探索の後で食べたフライドチキンがフラッシュバックする。
あれは骨まで美味しかった。
「これは、ペガサスですね。」
「ぺっ、ペガサスぅ?」




