ⅩⅭⅠ
「レウ姫様を…良いのですか王子?」
『ツゥカのボンボン共が結婚相手を探しているというのは周知の事実。戦争を回避するなら、なりふり構っておられまい。』
自分の娘すら政治的に利用しても良いということは、皆に王子の本気を示した形となる。
「確かに…婚姻となれば、ツゥカ世論も歓迎ムードに変わるのは間違いない。訪問より長期に渡る効果が期待できる。」
筆頭大臣が賛同する。
「た、確かに。でも、しかし…」
右大臣は、コーカ王家とツゥカ大公家が姻戚になる事の効果を認めつつも、両手をあげての賛成はできないようだ。
「もちろん、大公の息子を婿に迎えるという事ですよね。」
侵攻軍将軍が驚いた表情で王子に聞く。
『戦争中の我が国に息子を送るなど、大公も良しとしないでしょう。例え大公が認めたとしても、ツゥカ国民は人質に取られたと思うに違いない。』
「確かに…。」
『彼らの奪還するものが増えるだけです。』
王子の言うとおりだ。
となると。
「王女様か姫様に、ツゥカ公国に嫁いでいただくという事ですね。」
筆頭大臣が王子に確認をする。
我が国への攻撃準備をしている国に、妹か娘を差し出すというのだ。王子も生半可な覚悟ではないだろう。
『王よ。いかがでしょう?』
今度は王子が確認する。
王は目を閉じる。
大臣や将軍たちの意見が聞こえてくる。
「それこそ、こっちが人質をくれてやるようなものじゃないか。」
「結婚相手の実家に攻撃を仕掛けようとはならなくなるだろう。」
「政略結婚など前時代的な考えだ。」
「実現すれば間違いなくツゥカを止めることができる。」
「本人の想いは無視するのか?」
「ツゥカの息子は間違いなく手放しで喜ぶことだろう。」
「離婚となったらどうなる。それこそ目も当てられない。」
うまく行けば、ツゥカ公国と強い同盟関係を結ぶこともできるかもしれない。少なくとも、シヘー連邦との戦争に集中することができる。
しかし、それは国家の論理だ。個々の人を見ていない。会議室だけで決められる話ではない。
しばし考え、王は目を開いた。
「王女や姫に話をしてから決めなければ。」
王は結論を先送りにした。
しかし、この時点では否決されなかった。つまり、各部署でこの案は検討されていくことになる。
『それは彼女らの意見を聞けと言うことですか? それとも説得しろと言うことですか?』
しかし、王子は先送りを許さない。方向性を決めてしまうつもりだ。
『説得するというなら、わたくしがレウを納得させます。』
王子は言い切った。
レウは王子の子だ。ゆくゆくは女王になる。それを嫁に出す訳にはいかない。
つまり。
「いや、レウは候補から外そう。リラには余から話す。」
***
リラは、ダラーが六十になってから産まれた子である。
しかも彼女の兄や姉たちが悉く死んでいっている時期だった。あの王子以外。
そんな中で産まれた王女。
暗く悲しみに沈む王宮で、彼女の明るい声は王の救いとなった。
目の中に入れても痛くない。泣き声ですら愛おしい。
カラカラと響く彼女の笑い声は、王宮の人々を癒やし、元気付けた。
国民も彼女の成長を見守り、彼女を愛した。
ダラーは、王としてではなく父親としてリラと接した。死んでいった他の子供たちにはできなかった事をしてやった。
できるだけ接する時間をとり、望むものを与え、最高の教育に触れさせた。
七歳のリラは、ダラーにおねだりに来た。
「おとーさま。ほしい本があるの。」
「良いよ。音楽の先生に褒められたら、買ってあげよう。」
「えー、今ほしいのに〜。」
リラはシュンとする。その仕草はとても愛らしい。
「仕方ないな。ちゃんと練習するって約束しなさい。」
「ヤクソクする〜。」
「なんて本だい?」
「『筋肉ファン』って本。」
おかげで、少々ワガママになってしまったが、それはそれで可愛いものだ。
リラは順調に美しく育った。
目を閉じれば、幼い頃の笑顔、少しずつ成長していく横顔、キリッと引き締まった大人の顔。全てを思い出す。
***
御前会議の後、ダラーは王の書斎へと戻ってきていた。侍女に声をかける。
「リラはどこにいる?」
侍女は紙を一枚取り出し、魔法をかける。文字が浮かんできて、王室の人々のスケジュールが描かれた。
「この時間は…、王宮にいらっしゃいます。友人と過ごしておられます。お呼びいたしましょうか?」
「いや、余が向かおう。」
ダラーは、杖を頼りに立ち上がろうとする。しかし、よろけてしまう。
「そのお体では無理です。」
すかさず侍女が補佐に入る。
「ふうっ、歳は取りたくないものだ。」
「車椅子をお持ちしますので、しばらくお待ち下さい。」
準備された車椅子に腰掛ける。
「やはり、リラ様をお呼びしましょう。」
「いや…この話は、余が行って話さなければならん。」
車椅子は、魔力で自由に動かすことができる。スピードも走る程度は出る。程なくしてリラの部屋についた。
部屋には、リラの部下で友人だというオーガが居た。
ぎょっとしたが、転生者だということで安心する。話は通じそうだ。
そのオーガは、何やら酷く疲れた顔をしていた。
「リラ、何をしておったんだ?」
ダラー十世は優しく問いかける。
「オーガのマッサージよ。今日は大腿四頭筋を中心に…」
「そうかそうか、楽しんでおるようだな。」
ダラーは今日初めて笑顔になった。
「お父様。今日はいかがされました?」
「ああ、これからリラと二人だけで大事な話をしなければならん。人払いを。」
オーガとその侍女は深々とお辞儀をして、瞬間移動魔法で帰っていった。
リラの侍女たちと、ダラーの護衛も部屋を出ていく。
ダラーとリラの親子水入らずになった。何年ぶりのことだろうか。
「お父様、何か辛いことでもありましたか?」
「どうしてそう思う。」
「悲しそうな目をしていらっしゃいます。」
この部屋に来てからはニコニコとしていたつもりだったが、この子には分かってしまう。
「すまない…リラ。」
老王の頬を一筋の涙がつたう。
登場人物紹介
「ダラー十世」
種族:人間(コーカ王族)
年齢:81
身長:168
体重:70
自称:余
地位:コーカ王国現国王
特技:だじゃれ(酔った時だけ)
好物:パタカ食堂の黒プリン
備考:
五人の妻との間に十四人の子供を儲けるも、三十年前から二十年前にかけて次々と子を失い、残ったのは王子とリラの二人だけとなった。
孫のレウは東宮で過ごしており、あまり会うことがない。…ちょっと寂しいと思っている。




