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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
17章:父と娘

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ⅩⅭ


 王宮内の大会議室。


 楕円の円卓の上座には、現コーカ国王ダラー十世が鎮座する。


 王の向かって左側には、筆頭大臣をはじめとする事務方のトップが頭を並べる。右側には、侵攻軍将軍をはじめとする軍人のお偉いさんが膝を揃える。

 そして王の反対側、向正面に王子の席がある。


 王子を始めとする数人は、机に置いてある水晶玉から発せられる立体映像で参加している。

 私たちの世界で言うところのリモート会議のようなものだ。


 行われているのは、御前会議。

 この国の最高意思決定機関である。



「…以上が、キンユー周辺における戦況です。」


 担当者が説明を終わる。


「北部要塞は、シヘー連邦の軍から奪還できるのであろうな。」


 ダラー十世は椅子に深く腰掛けたまま、侵攻軍将軍を見据える。

 王は齢八十を超え、年相応の風貌と貫禄を備えていた。しかし、その眼力は若き日のままギラギラとしている。


「もちろん。今週中には第四侵攻軍が到着し攻略を開始します。軍の戦術研究所も勝率百パーセントを保証しております。」


 侵攻軍将軍は自信たっぷりに答える。

 侵攻軍と籠城軍の将軍は本来同格なのだが、籠城軍将軍はお飾りであるため、この会議にリラは参加していない。

 実質、軍全体のトップは彼である。


「ならば良い。国民への被害の少ない事を祈る。」

「御意。」


 王の言う国民の中には、当然軍人も含まれている。勝率百パーセントは良いが、こちらに甚大な損害が出ては意味がない。


「ツゥカ公国の方はどうなっておる。」


 王は続いて右大臣に聞く。


「怪しい動きが活発になっております。」


 右大臣は外交を担当している。

 ツゥカ公国とは、ルピアのいる神殿があるホジョツゥカの街の、さらに東の向こうにある国だ。世襲の大公が治めており、コーカ王国より規模は小さいが、影響力のある国の一つである。


「ツゥカの民意は、ホジョツゥカを取り戻せと言う流れに動いています。」

「シヘーにしろツゥカにしろ、二百年も前の土地にまだ拘るのか。」


 王は苦々しい顔をする。


「ツゥカの軍部も準備を始めているようです。将軍。動きは掴んでおるな。」


 右大臣が将軍に確認する。


「もちろん。今日明日すぐに仕掛けてくるという体勢ではないが、今回の北部要塞の戦闘の結果を伺っているのは間違いない。」

「北のシヘーと東のツゥカ、両方を相手にするのは無理です。我が軍は早々に消耗してしまいます。」


 冷静に泣き言を言うのは、籠城軍の副将軍クワンザ。リラの副官にあたり、実際に籠城軍を仕切っているのは彼だ。


「徐々にだが国の経済も滞り始めている。これ以上シヘー連邦との戦争を長引かせたくもないのに、今ツゥカ公国に出てこられては財政が破綻しかねん。」


 内務を司る左大臣が頭を抱える。


「なんとか外交でツゥカを止める事はできんか。」

「ツゥカの世論はホジョツゥカ奪還に傾いています。世論の操作は実務者レベルではどうにもなりません。」


 右大臣の報告を聞いて、王は深く息を吐く。左大臣も不満を言う。


「二百年前は神殿しかなかったド田舎の土地ではないか。これだけ発展させたのは、我が国が投資し、開拓し、開発してきたからだ。それを今更返せというのも虫のいい話だ。」


 こんなことを正面を切って(おおやけ)には言えない。会議内容が極秘の御前会議だからこそ、こぼせる愚痴だ。残るのは議決のみ。


「シヘーについても同じですな。ゴブリン共がのさばる野蛮な国だった場所を、我々がキンユーという都市に育てた。あの土地を奪ったわけではないのに、シヘーは返せと言ってくる。」


 そう言って、筆頭大臣も苦虫を噛み潰したような顔をする。


「今は、ツゥカの世論をひっくり返すだけのインパクトのある手立てが必要です。」


 右大臣が王を見る。何かを期待する目。

 ダラー十世は、そんな事は言われなくても分かっていた。


「…余がツゥカの大公を訪問して、友好的な所を見せれば良いか?」

「名案でございます。」


 右大臣が頭を深々と垂れる。


 ダラー十世は、頭はしっかりとしていたが、体にはしっかりと歳が出ていた。今では杖なしでは歩くこともできない。

 そんな王に対して、臣下が外遊を求めるなんて酷で無礼な話だ。だからこそ、形式上は王が自ら提案し、臣下が賛同するという手順が必要だった。

 ダラー十世は、それを理解している王だった。


 しかし。


『王よ。それでは逆効果です。』


 王子だ。水晶の光越しに、鋭い視線を寄越す。

 先日リラたちの前に現れた時とは雰囲気が異なり、言葉に軽さがない。


「王子よ。逆効果とはどういうことだ?」

『右大臣の報告にもあるように、ツゥカ世論はコーカを敵視しています。今さらツゥカ大公と並んだところで、圧力をかけに来たとしか取られないでしょう。』


 実際、圧力をかけに行くわけだが。


「なぜ、そんなことが分かる。」

『歴史です。二百年前の戦乱期にも同じようなことがありました。さらに遡れば枚挙にいとまがない。』


 歴史は常に繰り返されてきた。

 筆頭大臣も頷く。思い当たる節があるのだ。


「王の訪問で覆る世論は一時的です。継続して世論を変えるほどのインパクトは与えられない。」

『さらに。もし、訪問中に王が襲撃されるような事があれば、我が国も静観するわけにはいかない。開戦待ったなしです。』

「ツゥカ公国とて、そんな事は…」


 王の脳裏に、先日リラ王女が襲撃された事件がよぎる。

 襲撃者の目的は王女ではなかったとのことだが、王都ですらそんな事が起きる時代である。

 他国、しかも反コーカ気運の高い国で、何が起きるか分からない。


「では、何か妙案でもあるのか。」


 この王子がそこまで言うのだから、腹案を持っているのだろう。


『ツゥカの大公には三人の男子がおります。この中から、コーカ王家と親戚になっていただくというのはいかがでしょう。』

「な?」


 議場がざわつく。

 王はため息をついた。


王女(リラ)と婚姻させろという事か。」

『はい。……いや、我が娘(レウ)でも構いません。』


 王子の言葉に、ざわつきは大きくなった。


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