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 面談室に入ってきた二人は、簡易な鎧を着ていた。

 周囲から金属の軽く当たるチャッという音がする。兵士たちが背筋を伸ばし、装備が当たって音がしたのだろう。

 …つまり、この二人は偉い人達だ。


 一人目が話に聞いていた兵士長だろう、手ぶらでドカッと椅子に座った。

 もう一人は、私が召喚された時に居た偉そうなおっさんだ。椅子に座ると、持ってきた二人分の紙の資料とペンを机に並べる。


 おっさんは兵士長の部下だったのか。

 そのおっさんが口を開いた。


「こちらが兵士長のギルダー様。拙者は親衛隊長シェケルだ。みな、よろしく。」


 やっぱり良い声だ。

 親衛隊長…ただのヒラじゃないらしい。

 でも、親衛隊って聞いて思いつくのはアイドルの追っかけだよ。

 あんまり偉そうな役職には感じないなあ。


 おっさん…親衛隊長は座ったまま話を続ける。


「ただ今から、転生者の面談を始める。今回君達が、コーカ王国へ転生したのには…」

「ちょっとシェケル殿。」


 兵士長がシェケルの挨拶を止める。

 明らかに兵士長の方が若く見える。だからこそ、親衛隊長より兵士長の方が偉いと言うことが、これで決定的になった(私の中で)。

 なんていうかこの二人。年功序列で昇進した係長と、若くして成功した課長みたいな関係に見える。


「我々には時間がない。手短に進めようじゃないか。」

「わかりました。」


 おおい!

 ギルダー兵士長!

 今、シェケルさんが、転生の理由を説明しようとしてましたよねっ。

 なんでそれを止めるかなぁ。


 私は、説明してもらえる機会をまた失った。

 今度はギルダーがしきり始めた。


「では、早速。君から自己紹介をしてもらおうか。元の世界で何をしていたか、持っている技能、特技、何でも良い。教えてくれ。」


 ギルダーはワニの人を指差した。


 一番最初じゃなくて良かった~っ!

 頑張れ、ワニの人。


「俺の名はブロンズっていうんだ。」

「いや。名前は不要だ、鱗の亜人。」


 おいおい、自己紹介まで遮ったよ、この男は!名乗ってもいかんのか。


「わかった。では何から話せば良いかな。」

「先にも言った。元の世界では何をしていた?」


 ギルダーは冷たく言う。

 ワニの人…いや、ブロンズさんはやれやれという感じで話始める。


「俺は猟師だ。兎や鹿、鳥なんかを撃っていた。」

「ほう。」


 ギルダーが興味を示す。

 シェケルは何やら紙に書き留めていく。


「射撃の腕には自信があるぞ。一応、国のバイアスロン代表として冬のオリンピックに出たこともある。」


 すごい。あなたはすごい人だよブロンズさん。


「バイアスロン?オリンピック?」

「ああ。バイアスロンはスキーで行軍して射撃を行うスポーツさ。」


 シェケルが聞くとブロンズは嬉しそうに答えた。


 そうか、この世界(エンドル)じゃあオリンピックとか無いもんな。こっちに無いものは説明が必要か。

 自分の番にはできるだけ気をつけよう。


 いや…ちょっと待てよ。

 よくよく考えたら、私は何でこのエンドルで普通に話が出来ているんだ?

 ここの公用語は日本語なのか?

 違うな。雰囲気からしてブロンズさんは欧米の人だ。それも雪の降る北部の人っぽい。絶対に日本語でしゃべることはできないだろう。

 何で言葉が通じてるんだ?


「オリンピックってのは、四年に一度いろんなスポーツの世界一を決める大会だ。俺は三回オリンピックに出たが、残念ながらメダルは取れなかった。ああ、メダルってのは三位以上がもらえる勲章さ。俺は最高が五位だったんだ。」


 何か、めっちゃしゃべりだしたぞ、ブロンズさん。


「地元じゃあ仲間たちとワイルドハントってグループを作って…」

「泳ぎはどうかな?」


 またギルダーが遮った。

 調子良く喋っていたブロンズさんが詰まる。


「あ…え?泳ぎ?俺はカナヅチだ。山暮らしだから、泳げなくても困らない。」


 ギルダーは明らかに不快そうな顔をした。

 そして「なんだよ。」と呟いた。


「なんだよとはなんだ。」


 ブロンズが立ち上がろうとする。その瞬間、周囲の兵隊たちが動く。

 後ろの侍女がブロンズの肩を押さえる。


「ああ、いや。失礼した。俺は落ち着いている。大丈夫だ。」


 そう言ってブロンズは、また座り直した。

 ギルダーはそれを見て、腕組みをする。


「君の体は、水中で生活する亜人の体だ。水中から奇襲するのに最適な体をくれてやったのに、泳げないだと?」


 はい、決定。ギルダーは嫌な奴。

 私たち三人は、なりたくてこの体になった訳じゃないのに。 


「使えん。」


 うわ、酷い。言い切った。


「なんだと!?」


 ブロンズさんがお怒りになるのはごもっともです。


「じゃあ、お前の言う射撃は水中からでもできるのか?」


 ギルダーが畳みかける。


「いや、水中では無理だ…。」


 ブロンズは力なく言う。


 実験番組で見たことがある。銃を水面に向けて撃っても、弾丸はほとんど進まない。

 もし水中で発砲できたとしても、射程は非常に短くなってしまうだろう。だから水中では魚雷みたいに、それ自体が推進できる弾丸が必要になる。


「お前は使えん。」


 煽りすぎだろギルダー。泳げないからってそこまで言う?

 銃を構えるリザードマン。それはそれで格好いいよ。別に水中にこだわる必要ないんじゃないかなぁ。


「兵士長。彼には水練と魔法銃の訓練を課します。」


 シェケルが助け船を出す。

 水練。つまり、泳げるようにするってことか。さっきの剣術訓練みたいな勢いで水泳の特訓とかさせられたらと想像すると、かなり辛い水練になるんだろうな。

 それはそうと、エンドルにも銃はあるのか。しかも魔法銃。すごいな異世界。


「訓練の成果を待つ余裕は無いのだよ。」

「彼の射撃能力を無駄にはしません。必ず間に合わせます。お任せください。」


 ギルダーは諦めモードだが、シェケルが食い下がる。


 頑張れ親衛隊長!

 初めはただ偉そうな奴って思ってたけど、あんたは頑張ってる中間管理職だよ。


「水練などに割く人員があるのか。」

「水軍の必要性はご理解いただいていたと思いますが。」


 ブロンズは呆れたように天井を見上げていた。


 そりゃあそんな気分にもなりますよね。

 望まない転生させられて、使えない認定される。そのうえで、自分の知らないところで自分の戦い方を決められていく。

 これは圧迫面接なんだろうか。


「わかった。シェケル殿に任せる。」

「ありがとうございます。」


 ブロンズさんは一応採用されたようだ。

 …ヤバいヤバい。私はこの面談切り抜けられるか?


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