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リラは鼻息荒く皆を誘う。
「こんな面白い魔法、他の人に取られたくないじゃん。皆で研究しない?」
レウもすぐさま賛同する。
「そうですわ。この部屋を研究室にしましょう。皆様だけに開放しますわ。」
「良いね〜。これだけ広ければ、観測装置とか、実験器具とか、お菓子とか、いっぱい置けるよね。」
お菓子は研究に関係なくない?
ところが、クーナが苦言を呈する。
「ででも、せ専門の人に研究してもらった方が…」
「何言ってんの。国立研究所なんかにオーガ取られちゃったら、クーナの専属トレーナーも出来なくなっちゃうわ。」
その専属トレーナーは、今朝私を何度も回して気絶させてましたけれど。
私としては、クーナを外していただいて全く構いませんが。
「何より、筋肉お触りタイムがなくなっちゃうでしょ。」
リラの本音が出た。
最近、筋肉お触りタイムの回数が減った分、一回の時間が長くなってきているのだ。マッサージと称して、筋肉をほぐしながら堪能する方法を探求している。
私としては、戦場に立つ可能性のある軍に居るよりは、研究所にいるほうが安全で良い。
「そうですわ。国立研究所の方々にオーガを解体されたら、つまらないですわ。」
解体!?
その言葉を聞いて、私はビクつく。
研究のためだから「解体」じゃなくて「解剖」だろう。解剖されるというなら、研究所に行くというのも考えものだな。
…いや、ツッコミどころはそこじゃない。
レウの言い方だと、自分で解体できない事がつまらないと聞こえる。
やっぱり、私の身体を狙っているのか。
解体される私…
返り血でニヤけるレウ姫…
ガクガクブルブル
想像だけで失神してしまいそうだ。
ここに居る方のが危険な気もしてきた。
リラは椅子の上に立ち、皆を見渡して演説するように言う。
「ここに皆で集まって、研究しながら、お菓子とか食べながら話しして。すっごい楽しそうじゃない?」
大学の研究室か文化系サークルみたいなノリだな。リラはそんな事がしたかったのだろうか。
「あっ…」
何か、今までのリラの予測不能な行動の意味が分かった気がする。
確かに彼女のワガママだけど、ただのワガママじゃなさそうだ。
「じゃあ、この集まりに名前付けますか? 『魔法研究クラブ』とか。」
私はリラの真意を探ろうと、そう提案した。リラは目を輝かせる。
「クラブか…良いわね。楽しそうじゃない! でも、もう少しネーミングセンスのある名前を考えなきゃ。」
やっぱり。リラはのってきた。
「目的のはっきりしたクラブの名前にしたいな~。やっぱり、筋肉も魔法もオーガ関連だから、オーガは外せないかなぁ。」
分かった。
リラは部活をしたいのだ。
対等に話せる友達と、共通の目的に向かって何かをしたいんだ。
そのきっかけが、たまたま私だっただけ。
王族に生まれて、狭い世界で育ち、若くして将軍職に就かされる。
やりたいことをいっぱい我慢してきたに違いない。
「リラ様。もっと秘密めいた名前にするというのも良いと思いますわ。」
レウもクラブの名前を考え始めた。
レウも似たような境遇だし、ほとんど同じか、ごく近い気持ちなのだろう。だから賛成したんじゃないかな。
「じゃあ、『オーガの魔法と筋肉と秘密研究クラブ』とか?」
リラのネーミングセンスだって、褒められたモノじゃないだろ。
皆が笑う。嘲る笑いではなく、可笑しくて笑っている。
リラはどこか満足そうだ。
こういう雰囲気を彼女は求めていたのだ。
リラもレウも、普通の友達付き合いをしたことがあまりないのだろう。
侍女はあくまでも仕事上の付き合いだ。彼女たちは、どことなく一線を引いている。
コロンを見てても何となく分かる。
王族や貴族の社交的な人付き合いとは違う、本当の友達が欲しかったんじゃないだろうか。
だから、クーナみたいに自分たちを襲撃してきたような者でも、友達にしてしまうのか。
「『オーガの秘密の花園クラブ』?」
ルーブルが、私の咲かせた花畑を眺めながら言う。
なんとなく素敵な名前。「オーガ」が付いていなければ、もっと良い。
「ん〜、名前に筋肉成分が足りない。」
リラは不満げだ。
だいたい筋肉成分って何なんだ?
「オーガの筋肉の研究するわけではありませんわ。あくまでも魔法の研究ですわ。」
レウがごもっともなことを言う。
「目的を明確にしたいと言っておられたのはリラ様ですよ。魔法か筋肉かどちらかに絞らないと。」
ルーブルもそう言うと、リラはぐうの音も出ない。
「じゃー、名前の件は次回ね。明日までに考えてきて。」
「ちょっと待って下さい!」
リラの出した宿題をフリヴニャが止める。
「明日もこの集まりをやるつもりですか? リラ様には将軍のお仕事があります。」
そりゃあ、リラ将軍がまた変なことを始めるとなったら、侍女としては止めざるを得ないだろう。
「王女としての務めもあります。」
フリヴニャの注意にキナも付け加える。
リラはうんざりとした顔になる。
「そうですね。集まりは良いのですけれど、明日にはキンユーへ戻らなくてはいけませんし、次はいつになるか…」
ルーブルは少し残念そうに言う。彼女は、姫のワガママでこのためだけに戦場から帰ってきた。
本来ならば第一籠城軍の教導隊員として、マンガンと共に北部要塞攻略の最前線に立っているはずの人のなのだ。
「是非とも、この魔法の研究したいところではありますが…、これは研究所の専門家にお任せした方が良いかも知れません。」
ルーブルがそう言うのは仕方ない。
リラもレウもそれ以上は引き止めない。
ルピアも、申し訳無さそうに手を挙げる。
「ルピアもホジョツゥカの神殿から、ここへ通うのは無理です。ごめんなさい。」
今日あったばかりのルピアも、このメンバーの中で自然に話ができるほどに溶け込んでいた。
彼女は、実質お茶会をしただけだが、よほど楽しかったのだろう。後ろ髪を引かれるような顔をしていた。




