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画架のような観測装置が組み上がった。
ぐるぐる眼鏡の皆は、さっき咲かせた花畑から少し離れた場所で丸く並ぶ。
「準備できました。お願いします。」
ルーブルがそう言って、私をみんなの中心へ誘導する。
私はまた囲まれた。でも前回みたいな緊張感はない。
呪文を唱える。
『百花繚乱』
ポンポンポンっと、小さな花が咲いていく。
ちょっと近づいて私を観察していたルーブルの靴にも花が咲いてしまう。
「見た?」
「見ましたわ。」
「何これ。」
「魔法で、こんな事ができるんですね。」
「普通はできないでしょ。」
ざわざわとする一同。
さっきまでのワイワイとした雰囲気と、皆の反応が違う。
あのぐるぐる眼鏡で何が見えたんだろう。
「魂にはほとんど変動はありません。魔法の発動の瞬間に少々揺らぎますが、この揺らぎは人が魔法を唱えた時とほぼ同じです。」
透視魔法で私を観察していたクーナは、説明モードで話し始める。研究とか解析という事になるとスイッチが入って饒舌になるようだ。
彼女の専門の薬学(特に毒)って、狭い分野だと思っていたけど、間違いだと分かった。
当然医学にも通じているわけだし、毒魔法というものもあるらしいから魔法にも詳しい。
オールマイティーな知識を持っている事が、彼女が上級錬金術師たる所以なのだろう。
「通常の魔法を使ったのと変わらないんですね。」
「今、観察した範囲ではそのとおりです。できれば細かく魂の大きさの変化量も観測できれば良いんですが……」
ルーブルとクーナが難しいことを話している。
レウは観測装置から何やら薄い紙を取り出す。ルピアや侍女たちが集まってきて、それを覗き込む。
「この部分の反応が…」
「パターン青の所ですね。」
「もっと精度の高い機器でないと…」
何それ?
この魔法って、そんなに特別なの?
めっちゃ気になるんですけど!?
特別という事は嬉しいけど、ここまで言われると不安になる。
私も皆の所へ行って、薄い紙を覗き込む。だが、それを見たところで、何が何だか分からない。
「コロンさん。これ、何が凄いんですか?」
コロンはぐるぐる眼鏡を外して、私の質問に答える。
「それはですね、有史以来、神々以外には成し得なかった…」
あ。コロンへの質問の仕方を間違えた。神話から説明されても困る。
「コロンさん、ちょっと待って。ルーブルさんが、何に驚いているのかを教えてください。」
質問を変える。
「あなたの魔法が命を生み出したからです。」
「それは凄いんですか?」
生命を生み出す魔法って、どこにでもありそうな気がするけどな。ゴーレムとかホムンクルスとか。
まあ、これは私の世界の空想の産物か。このエンドルに同じものがあるとは限らない。
ルピアも話に入ってきた。
「ルピアたちは、この魔法を召喚魔法の一つだと思いこんでいたんです。」
さらに付け加える。
「てっきり、雑草だけを召喚するだけの魔法だと。」
二個も「だけ」を付ける必要はないと思うな。どっちか一個で十分役に立たないって分かるし。
むしろ、そんな事を追加して言わなくても良いじゃないか。
「魔力の流れを見ると、エーテルから花を生み出しているように見えるんです。」
「小さな花々とはいえ生命を作り出すなんて、神様しかできないんじゃないかしら。」
神様か…。
ボクっ娘神様が「アースドラゴンを消した」と簡単に言っていた。逆に言えば、神様ならドラゴンくらい簡単に生み出せるんだろう。
「神様に魔法を使えるようにしていただいた時って、どうでしたか?」
ぐるぐる眼鏡のままのルーブルが、私とルピアに聞く。
「どうって言われても…」
あっけなかったとしか言えない。
この魔法が使えるようになった時は、まるでペットボトルのフタを開けるくらいの簡単さで、はいどうぞって感じだった。
「オーガの人の魔法を解禁した神様は、六番目の神、カボ様です。」
ルピアが答えてくれる。神様に関しては彼女が専門家だ。
それを聞いて、レウは棚から本を取り出して開く。神様が載っている図鑑らしい。
カボのページを開くと、あのハロウィン頭をした姿が描かれている。あとは読めない文字で細かく色々と書いてある。
スイーツ好きってのも書いてあるのかな?
「カボ様は、樹木や植物を司る神様ですわ。きっと花にも関係あるに違いませんわ。」
レウが本を読みながら、嬉しそうに言う。
しかしルピアが首を振る。
「いいえ。魔法を解禁した神様の属性が、転生者の魔法に影響することはありません。」
更に付け加える。
「同時に魔法を解禁された他の転生者の方々も、防壁魔法と天候魔法でした。特に植物に関係してはおりません。たまたまです。」
「そうですか、いい発見だと思ったのに…残念ですわ。」
レウは少し残念そうな顔をする。その物憂げな表情も美しい。
「本当に生命を生み出せるんなら、蘇生魔法に応用ができるんじゃない?」
リラが何やらメモを書きながらボソッと言う。クーナも、そのメモを軽く読んで同意する。
「エーテルを魂に変換できるなら、可能です。」
その会話を聞いたルピアのテンションも上がってくる。
「蘇生魔法だなんて、神話の時代からの夢物語じゃないですか。神々ですら簡単には使いませんでした。それなのに、こんな魔法が、それを実現できるだなんて信じられない。」
最後の一言が余計だ。やっぱりルピアは、私の魔法を馬鹿にしているな。
「これは、国立研究所の魔導部に報告した方が良いと思います。もっと精度の高い機器で詳細に調査すれば、本当に蘇生魔法につながるかも知れません。そうなれば、封印された時間逆行魔法すら解禁できる可能性が…うふふふっ。うふふふっ。うふっ。」
クーナが絶頂した。
何やら大事になってきた。
この雑草の花畑を作るだけだと思っていた魔法が、そんな有益な魔法だなんて。
何だか私に「選ばれし転生者」感が出てきたよ。うふふふっ。
「えー、内緒で研究しない?」
突然、リラがおかしな事を言い出した。




